4-18 お食事会
お部屋に通されたあとにすぐお風呂をいただき、18時少し過ぎ。
ミニャは領主との夕飯の席に招かれていた。
子供たちは先ほどまでいた客室でもらうことに。ミニャもそちらの方が気楽だろうけど、代表がもてなしの席に行かないのも心象が悪い。なにせ、この会談はそもそもこちらが言い出したことなわけだし。
というわけで、ミニャは賢者たちと共に食堂へ。
食堂にはすでに領主ファミリーが長テーブルの席についており、領主自身はまだ来ていない様子。
ミニャはメイドに案内されてお誕生日席の斜め前の席に着いた。
賢者たちを椅子やテーブルに乗せてあげる。
これから食事なので、メンバーにはネムネムの代わりに料理番の賢者トマトンが召喚された。トマトンのジョブ料理人は『料理鑑定』が使えるからだ。
なお、人形たちは活動時間が終わりそうなので、トイレの中でこっそりと人形倉庫の中のフィギュアと交換した。同じ材質、同じ姿のフィギュアなので、よく観察されているとはいってもさすがに入れ替わっているとは思わないだろう。
「ミニャ様、お風呂はいかがでしたか?」
「すんごくさっぱりしました。ありがとうございます!」
対面に座るアマーリエからの質問に、ミニャはニコパと笑って答えた。
領主館のお風呂は超巨大というわけではなく、2m×2m程度の浴槽だった。なんならミニャンジャ村の浴槽の方が大きい。
しかし、大理石で作られた浴室の美しさは見事で、ミニャンジャ村の公衆浴場よりも豪奢だった。だが、賢者たちは1日で作ったわけで比べるのも酷というものだ。
「今日は子供たちがとても楽しかったそうです。こちらこそありがとうございます」
「ミニャもとっても楽しかった!」
無邪気に笑うミニャに、アマーリエは微笑んで返した。
チラリとアマーリエがメイドを見ると、メイドはミニャに質問した。
「ミニャ様。お飲み物はいかがなさいますか? お水の他に、甘い果実水、麦茶などご用意できます」
「うーんと、じゃあ麦茶でお願いします」
「かしこまりました」
そんなやりとりが終わったタイミングで、領主がやってきた。
「待たせてしまったね」
領主はミニャの斜め横のお誕生日席に座った。
「子供たちはあちらの部屋で良かったかな? 私たちと食べても寛げないかと思ったのだが」
「はい。ありがとうございます」
その結果ミニャが一人でここに来たわけだが、緊張を感じさせない堂々とした佇まい。『俺だったら何食っているかわからないと思う』などとスレッドで宣うチキンな賢者たちに、豪胆っぷりを見せつける。
「ミニャ殿、堅苦しい席ではない。楽しんでくれ」
「はい!」
そうして出てきたのは、膳料理だった。
漆塗りのような光沢のあるお盆に、玉米のご飯、キノコのスープ、山菜のおひたし、カニのほぐし身、焼き魚と焼きエビ、なんらかの肉のステーキ5切れ。このあたりは賢者たちでも一目でわかった。わからないものとして、ピンク色の花びらが小鉢に入っていた。
食器は、箸、大小のスプーン、フォークが用意されていた。
ミニャはお魚を見て目をキラキラさせた。
骨が取られた切り身を焼いたもので、上品に輝く油はミニャの食欲を誘う。
最後に運ばれてきたのは、先ほど注文した麦茶。領主ファミリーにも各々がいつも飲んでいる物が運ばれた。
『トマトン:ミニャちゃん、コップを持って』
周りの様子を見て、トマトンがアドバイスする。
どうやら乾杯があるらしい。
ここでひとつ文化の違いがあったのだが、執事やメイドたちにも水が用意されていた。この場にいる全員で乾杯が行なわれるようだ。賢者たちの分は……なし!
「ミニャ殿と我々の出会いを女神パトラ様に感謝して。乾杯」
「「「乾杯」」」
「乾杯!」
領主の音頭に続いて、領主ファミリーと執事やメイドたちが祝いの言葉を口にする。ミニャは若干ズレちゃったが、元気に乾杯した。
コップを重ねるようなことはなく、各々がコップに口をつける。ミニャもそれに倣って麦茶をゴキュゴキュ。
「ぷはー」
麦茶が美味しかったミニャは、息を吐いてニコパ。完全に夏場のキッズのマナー。アメリアはそんなミニャを見てニコニコだ。
「それではいただこうか。ミニャ殿も楽しんでくれ」
「はい。これって、どうやって食べればいいですか?」
賢者たちはこの国の晩餐会がどのようなものなのかわからず、心配だった。
大体の国にはその国ごとの食事のマナーがあり、一朝一夕で身につくようなものではないマナーも存在する。晩餐会ともなればそれが必要になるのではないかと思ったのだ。
そこで賢者たちは、わからなければ領主に聞くよう、あらかじめミニャに言っておいた。
「箸が使えるなら箸で、フォークやスプーンの方が楽なら、そちらで食べてくれてかまわないよ」
「わかりました」
ミニャはフォークを右手に取って食事を始めた。
出会った頃のミニャはスプーンをグーで握っていたが、これは賢者たちが直しておいた。
あとはもう、領主ファミリーの寛大さに縋るしかない。
一方、領主ファミリーは全員が箸をメインで食べている。フォークはそもそも用意されておらず、スープだけスプーンで食べていた。玉米やスープの器は左手で持ち上げ、肉や魚が乗った平皿は持ち上げないようだ。
器をテコでも持ち上げない文化もあるので、賢者たちは後々のためにも、こういったマナーをかなり細かく観察した。
「すんごく美味しい!」
「まあ! お口に合って良かったです。きっと料理長も喜びますわ」
アマーリエが嬉しそうに笑う。
一方、アメリアたち子供は会話に入らない。アメリアの懐き具合から考えて、何かしらのルールがあるのだろう。シンプルに考えるのなら、ミニャはあくまで領主の客なので、こういう席では許可がないと話せないのかもしれない。
ミニャは特にその点について気にせず、領主夫妻との会話を楽しんだ。
「このお花はなんですか?」
「これはアルティの花だ。少しだけ指先に乗せて食べてみるといい」
「美味しい!」
「ほう、美味く感じるか。それは熟練の魔法使いほど美味く感じる。食べ物によって合う合わないはあるが、一般的にはこうして魚や肉に少量をかけて食べるのだ。あとはスープに散らす者もいるか」
要は山椒みたいものらしい。
■賢者メモ 料理鑑定■
『アルティの花』
・ミニャにとって、毒性なし、薬効あり、食用可。
・味覚:魔味を刺激する。魔力量が多い者や魔法を良く使う者ほど美味に感じる。
・魔力疲労を回復する効果があるが、大量に摂取し続けると味音痴になるので注意が必要。
■■■■■■■■■■■
【451、名無し:魔味なんてもんがあるのか!?】
【452、グラタン:ぬぅ! やっぱり現地人の食材の知識は侮れないわね】
【453、名無し:焼くと煮るだけの世界じゃなかったか……】
【454、ラディッシュ:そりゃ異世界人を舐めすぎだろ】
【455、名無し:とはいえ、こちとらネットレシピが見放題だ。ミニャちゃんの舌を唸らせることも可能だろう】
【456、名無し:ミニャちゃんは大抵美味しく食べてくれるから難易度は低いんだよなー】
賢者たちは異世界料理にメラメラとライバル心を抱いた。
小麦粉や米粉、片栗粉なども手に入る予定なので、料理のレパートリーはかなり増えるはずである。
ただ、いまミニャが食べたアルティの花のような異世界特有の調味料は完全にノーマークで、それらはほぼ注文していない。
さすがに上流階級だけあって、領主ファミリーの食べ方はとても綺麗だった。
一方、ミニャの方はちょっとワンパク。しかし、不快に思われるほど汚い食べ方ではないはずだ。それよりも、美味しい美味しいと食べるミニャに、領主夫妻からは好印象の気配。
お膳の料理が食べ終わると、デザートが出てきた。
デザートは数種類のフルーツをカットしたもので、サッとハチミツがかかっている。
「んふぅ、あまーい!」
ニコパとするミニャに、アマーリエやアメリアはニコニコした。
【592、名無し:シンプルに美味しそう……あたし、フルーツ好きなんだよね】
【593、名無し:でもさ、こういう場でカットフルーツが出てきたってことは、デザート類はそこまで発達してないんじゃないかな?】
【594、グラタン:お昼にお団子が出てきたし、ある程度のお菓子はあると思うよ。食後のデザートとしてこういったフルーツが合うと思ったから出されたんじゃない? 彩も良かったし、私はアリだと思うけど】
【595、名無し:あー、団子出てきたね】
【596、名無し:なんにしてもミニャちゃんが美味しい物を食べられて良かった!】
和やかなムードでお食事会は終わった。
テーブルの上が片付けられ、それぞれの前には食後のドリンクが置かれていた。
「そういえばミニャ殿。アメリアが一緒に寝泊まりしたいという話だが、迷惑ではないかな?」
「ううん、ミニャも一緒に寝たいです」
ミニャがそう答えると、アメリアは嬉しそうにもじもじした。
「そうか。ではそういうことなら、客室ではなくアメリアの部屋でも良いかな?」
「はい、大丈夫です」
客室は1階にあり、ファミリースペースは3階にある。
アメリアの部屋で寝るというのは、防犯やアメリアの体質といった理由があるのだろう。
と、そこでネコ太がミニャに伝えてもらった。
「ネコ太さんが、寝る少し前に夜の治療をしたいと言っています」
「そうか、日に3回と言っていたね」
「はい。うんとー、今日は2回だったけど、明日からは朝昼夜の3回やるみたいです」
「承知した。しかし、治療の前にはメイドに声をかけてもらいたい。アメリア付きのメイドがいるので、まあ手間はかからんと思う」
「わかりました」
そう返事をするミニャと一緒に、ネコ太も深く頷いた。
明日にミニャは帰るので、以降はジェスチャーや筆記でメイドにお知らせすることになるだろう。
ミニャは一度、子供たちと合流した。
「みんな、ご飯美味しかった? ミニャはすんごい美味しかった」
「美味しかった!」
「とっても美味しかったです」
ミニャの質問に目を輝かせて答えたのは、エルフ姉妹だった。
一方、こういう時に尻尾をパタパタさせて報告してくるイヌミミ姉妹は、なんだか元気がない。
「ルミーちゃんたちはどうしたの?」
ミニャが尋ねると、スノーが苦笑いした。
「今日はお昼寝しなかったから、ご飯を食べて眠くなっちゃったみたい」
「パイン、眠くないもん……」
「ルミーも……」
謎の反抗。
だが、眠いことは確定的に明らかで、そう言っているそばからカクンと船を漕ぐ。
「ルミーちゃん。ニャンコロ」
ミニャがそう言って両手を出すと、ルミーも慌てて両手を前に出した。タイマン勝負!
「にゃ、ニャンコぉ……は、はちぃ!」
ドッ!
パイン以外の全員が半分寝ぼけて遊ぶルミーに爆笑した。
とりあえずお姉ちゃんたちが笑っているのが嬉しくて、ルミーは眠そうな顔で笑い、尻尾をパタパタ。
「じゃあ明日も早いし、今日はもう寝よっか」
ルミーの頭を撫でてミニャがそう言うと、年長組はやれやれと苦笑いしつつ頷いた。
それぞれが寝室に向かい、ミニャもメイドに案内されてアメリアのお部屋に。
アメリアはアマーリエとテーブルに向かって何かをしており、ミニャが来ると花が咲いたように笑った。
「あっ、折り紙してる!」
「はい。お母様に雪鳥の折り方を教えてあげています」
「ミニャもやりたい!」
「一緒にやりましょう」
おネムなイヌミミ姉妹に内緒で、ミニャは折り紙で遊び始めた。7歳なので!
途中でちょっと折り方があやふやになるも、賢者たちのサポートもあって無事に雪鳥が出来上がった。
「まあ、本当にあんな小さな紙で……とても可愛らしいですわね」
優しく笑うアマーリエに、ミニャは母親を思い出してニコパと笑う。
こことは全然違う貧相なお部屋で、ちょうどこんなふうに母親と遊んでもらって夜を過ごしたミニャ。
そんな日々を思い出し、ちょっとだけ涙が溢れてくるけれど、ミニャは元気に笑って涙を吹き飛ばした。
「みんな。ミニャ、上手でしょ?」
『ネコ太:うん、すんごく上手!』
ミニャは、お膝に乗ってきたネコ太と一緒にできたばかりの雪鳥を一緒に眺めた。
そんなネコ太の目を通して雪鳥を見る賢者たちから、何百もの温かなコメントがミニャの下へ届く。ミニャは流れるスレッドを見て、ニコニコした。
ああ、もっと大きくて温かな体が欲しいなぁ。
ミニャの笑顔を見上げるネコ太たちは、そんなふうに切なく思うのだった。
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