4-17 ミニャと3兄妹
領主と会談が終わり、ミニャはアメリアやクレイと一緒に遊ぶことになった。
「ちょっとだけお外に行きたい!」
「はい、いいですよ」
ミニャのリクエストで、少しだけお庭に出ることに。
アメリアとお手々を繋ぎながら、ルンルンとお庭に向かう。足元には賢者たち、後ろにはクレイやメイドがついてくる。
「アメリアちゃん、調子はどーお?」
「凄く良いです。でも、さっきみたいに空気をいっぱい吸える感じじゃなくなっちゃいました」
「えーっ、そうなんだー」
心配そうにするミニャの足下でネコ太が手を振った。
「うーんとねー、全部治ったら、いつでもそんな感じになるってネコ太さんが言ってるよ」
「わぁ、ホントですか!」
「うん!」
ミニャは通訳をしてあげながら、アメリアを励ました。
お外に出ると、ミニャはリュックから遊び道具を出した。
「ミニャ様、それはなんですか?」
「縄跳び!」
質問するクレイに、ミニャは自慢げに見せてあげた。
持ち手の先端がデフォルメされたネコの顔になった縄跳びである。
「これはねー、こうやんの。にゃしゅしゅしゅしゅ!」
ミニャはジッとしていて溜まっていたエネルギーを発散するように、シュバババババッと縄跳びをぶん回す。
「ミニャ様、凄い凄い!」
アメリアはパチパチパチと手を叩いて喜んだ。
一方、クレイは猛烈に縄跳びがやりたそうな顔。貴族と云えども所詮はキッズなのである。
玄関口で警備をしている兵士までちょっとやってみたそう。兵士なので運動が好きなのだろう。少なくとも、玄関の前でジッとしているよりも。
「クレイ君もやっていいよー」
「え。そ、それではお借りします。アメリア、見ててな」
「クレイお兄様、頑張ってください!」
愛妹から応援されて、クレイは縄跳びにチャレンジ。
ビュンと回して1回跳んで、2回目で引っかかる。
「あ、あれ?」
もう一度やってみるが、結果は同じ。
賢者や兵士たちは、クレイの問題点にすぐに気づいた。ミニャの荒ぶる縄跳びを見本にしてしまったので、最初から全力で回しているのだ。縄跳びを初めてやったようなので、無理もないだろう。
「思ったよりも難しいな……」
「お兄様頑張ってーっ!」
「クレイ君、最初はゆっくり回すといいんだよ。慣れたら速くするの」
「わかりました、やってみます」
ミニャちゃん師範から教えを受け、クレイはゆっくりと縄跳びをする。
クレイの運動神経は良く、すぐにリズム良く縄跳びを跳んでみせた。貴族たる者、剣も学ぶべきみたいな教育があるのかもしれない。
「わぁ! お兄様凄いですぅ!」
「あはははっ! そうだろう!」
妹に褒められて、すんごく嬉しそう。
調子を掴んだクレイは、風切り音を奏でながら縄を跳ぶ。
そんな楽しげなお庭で、サバイバーは3階の窓から兄のソランが羨ましそうに見ていることに気づいた。
【610、名無し:めっちゃ一緒に遊びたそうwww】
【611、名無し:ひぃ……か、過去のトラウマが……く、くるなぁ……っ!】
【612、名無し:どんだけだよwww】
【613、名無し:いや、あれは俺たちのトラウマとは違うだろ。たぶん子供3人が、揃って外で遊ぶのを安全面から避けているんだと思うよ】
【614、名無し:聡明そうな子だったけど、陰キャっぽくはなかったからな。その推測は合ってるかも】
サバイバーの生放送を見る賢者たちは、ソランをちょっと不憫に思った。
クレイはしばらく跳ぶと、ミニャに縄跳びを返してくれた。
「縄跳びはねー、いろいろ技があるんだよ。こうやってシュバババッてやったりーっ! こうやってウニャウニャしたりーっ! そんで、それを合体させたりーっ!」
ミニャは二重跳びやあや跳び、さらにはハヤブサ跳びなどを披露し、抜群の運動神経を見せつける。
「す、凄いですぅ!」
アメリアが手をブンブン振って興奮した。
楽しげなアメリアだが、それを見守るメイドはハラハラし、ネコ太はよく注意する。
一方のクレイは、縄跳びの奥深さに感銘を受けた。リズム良く跳ぶなど縄跳び道の入り口にすぎぬのだと思い知らされる。
「いいなー。私もできるようになりますか?」
アメリアがミニャに問う。
ミニャはハッとした。
自分だけ楽しんじゃってる!
ネコ太を見ると、今日はまだやらない方がいいと教えられた。
「今日は無理だけど、治ったらちょっとずつできるようになるって」
ミニャがそう言うと、アメリアはパァッと笑った。
ミニャも元気になったアメリアと一緒にかけっこする日を思い浮かべてニコパと笑った。
エネルギーの発散を終えたので、今度はアメリアと一緒に遊べるようにお部屋へ戻った。
すると、すぐにソランがやってきた。お部屋の中なら3人一緒でもいいのかもしれない。
丁度ネムネムが召喚されているので、メイドに紙を貰った。
メイドさんに、それを正方形に切ってもらう。
「お絵描きするの?」
『ネムネム:違います! 今日は折り紙をします!』
「おりがみ!」
ミニャは初めて聞く遊びにむむむっとした。
「ミニャ様、折り紙ってなんですか?」
「うんとー。紙でいろいろな物を作るんだって。ネムネムさんがやるように真似をしてだって」
質問してきてアメリアに通訳してあげつつ、折り紙をいざ実践。
『ネムネム:まずは、ここをこうやって折ってね』
ネムネムが見本を見せ、フキダシが見えないアメリアはネコ太が補助につく。
ミニャは3兄妹と一緒にひとつのテーブルを囲んで、折々していく。
「ネムネムさん、いまのもう一回教えて」
『ネムネム:こうやってこう。こうやってこう』
ネムネムは手先だけで折っているわけではない。フィギュアに宿っているので全身運動だ。
【810、シリウス:ほーん、これはツルだね】
【811、名無し:そこはネコとかにしようぜ】
【812、工作王:まあ、折り紙がどんなものなのか知るには無難なんじゃないか? 立体的だし】
【813、名無し:お、工作王、暇になったんか?】
【814、工作王:いまはニーテストが受け持ってる。俺は昼飯タイムだ】
賢者たちは雑談しながら、子供たちの折り紙教室をまったりと眺めた。
次第に紙の形がよくわからなくなってくる。
だが、ここからが折り紙の魔術。細長い謎の菱形だった紙が、1手、2手で一気に変形する。
「ゆ、雪鳥さんですぅ!」
アメリアが驚愕した。
ツルには見えなかった様子。その代わり、こんな姿の雪鳥という鳥に馴染みがあるらしい。湖が近くにあるので、名前からして白鳥のように越冬をしに来るのかもしれない。
ミニャとアメリア、それからソランは丁寧に折っており、とても綺麗な雪鳥が折れた。ミニャは案外器用なのだ。一方、クレイはピシッと角を揃えて折っておらず、仕上がりは若干不格好。
紙から雪鳥が作られたことに驚いたのは、アメリアだけではない。ソランもまたこの遊びに感銘を受けていた。
そして、子供たちを微笑ましく見守っていたメイドたちは、ツルが完成すると『なにあれすげぇ!』と評価を一転。そんなふうに内心で驚くと共に、『自分も覚えておかなければ不味かったのでは?』と同僚同士で顔を見合わせた。誰も折り方を覚えていない顔。これでは領主に正確な報告ができない。
丁度完成した頃に、スノー一家が帰ってきた。
「あ、みんなおかえりー」
帰宅の挨拶もそこそこに、すぐにルミーがミニャの下へ駆け寄ろうとして、スノーに首根っこを掴まれた。領主の子供がいるので無理もない。スノーはちゃんと立場というものを知っていた。
駆け寄らずに落ち着いて近寄り、ルミーが言う。
「鳥さんだ!」
テーブルに並んだツルを見て、子供たちもテンションブチ上げ。
「雪鳥さんだよ」とミニャが教えてあげた。
帰ってきた子供たちも交えて、折り紙を再開した。
子供たち用のテーブルも作られたことで、竜胆を帰還させ、代わりにシリウスが召喚された。このシリウスという人物は新人の賢者だが、遊び道具を作るのが非常に上手かった。折り紙も一通り折れる。
なお、他にも遊び道具を作れる生産賢者は多いが、あえて新人を選ぶことで不公平感を紛らわせている。
次に作られたのはネコの顔。
白一色の紙で作られたのでデフォルメに慣れていない異世界人にはちょっとわかりづらいが、目や口、ヒゲを羽ペンで描くことで一気に可愛らしい猫の顔に。
「わぁ、可愛いです!」
「ふぉおおお、ネコさんだ!」
アメリアが目をキラキラさせ、ミニャはネコミミをピコピコさせて仲間意識。
一方、子供テーブルでもキャッキャ。
ラッカやビャノ、スノーは上手だが、年少者のルミーやパインはよれよれだ。しかし、それでも自慢の逸品らしくイヌミミ姉妹は尻尾をパタパタ。
シリウスはそんなイヌミミ姉妹のために、紙を正方形に切った際にできた細長い紙で、紙バネを作ってあげた。それにネコの顔をくっつけ、みょんみょんさせる。
尻尾がブチギレんばかりにバカウケだった。
ルミーとパインは慌ててミニャのところに持っていって、みょんみょんさせた。
「なにこれぇ、みょんみょんしとる!」
「わぁ、みょんみょんしてますぅ!」
ミニャとアメリアが驚く様子に、イヌミミ姉妹は自分の手柄のように尻尾をブンブン。
ミニャたちはさっそくネムネムに作り方を教わり始めた。
「ミニャ様。折り紙というのはなんでも作れるのですか?」
せっせと紙バネを作るミニャに、ソランが尋ねた。
ミニャはネムネムの通訳をした。
「うんとねー。なんでも作れるけど、自分で新しい物を作るなら折り方を研究しないとダメなんだって」
「なるほど。確かに折る順序や角度など無数にあるでしょうからね」
ソランは雪鳥やネコを手で弄りながら、頷く。
その隣ではクレイもせっせと紙バネを作っていた。これは双子も同様。紙バネは男の子に特効性能があるのだ。授業そっちのけで無限に作るヤツがいるほどに。
【900、名無し:領主の嫡男を折り紙アーティストの道に進めるのはヤバくね?】
【901、クラトス:趣味ならいいんじゃないか? ルイ16世も自前の旋盤で錠前とか時計を作っていたらしいし】
【902、名無し:ルイ16世って革命起こされてとるやないかい】
【903、クラトス:別にルイ16世じゃなくてもいいよ。とにかく、上流階級の趣味は文化形成に馬鹿にできない影響力がある。案外、領主になったら紙の質を向上させる政策をするかもしれないぞ】
【904、名無し:俺たちも紙の良い作り方を模索したいよな。百太郎さんあたりなら紙造りの達人を知ってそうじゃない?】
【905、名無し:そういうのをグルコサに伝えて、文化交流するのも素敵かも】
他の子供たちも帰ってきて、みんなで楽しいひと時を過ごした。
領主の子供だからスノーたちをバカにしないかと心配だったが、別にそんなことはなかった。
逆にスノーたち年長者の方がビビっているところがあり、それゆえか3兄妹と子供たちの会話はあまり多くなかった。
賢者たちも無理に仲良くさせるようなことはせずに、探り探りの関係を見守った。
「皆様、お部屋の支度が整いました」
16時くらいになると、子供たちが宿泊する部屋の案内がきた。
ホテルにもお部屋を取ってあるが、あれはあくまでも着替えるためだけのものだったらしい。なんとも剛毅な使い方だ。
子供たちにもちゃんとしたお部屋が2つ用意されており、スノー一家で1室、エルフ姉妹とシルバラで1室を借りた。
「こ、こんな良いお部屋に……」
シルバラはビビり散らかした。
他の年長組も同様で、下手をすればベッドを使わずに床で寝そうな雰囲気だ。
ミニャだけは別のお部屋だった。
とはいえ、ミニャには賢者たちがいるので特に寂しくはない。
「あ、あの、ミニャ様。お父様が許してくれたら、今晩は、私も一緒にこのお部屋で寝ていいですか? 私、暗いと具合が悪くなってしまうので、寝る時は明るいままになってしまいますが」
アメリアがもじもじしながらそう尋ねた。
「うんいいよー。一緒に寝よー」
「わぁ! そ、それじゃあ、私、お父様に聞いてみます!」
そんな軽い返事だが、アメリアは嬉しそうに笑った。
こうして、子供たちのグルコサ滞在は過ぎていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます