4-16 子供たちのお引越し


 ミニャがアメリアを治しに向かった頃、スノーたちはスラムにある自宅へ行くことになった。


 屋敷を出ると3台の馬車が用意されており、兵士とメイド、それから冒険者のザインとセラが待っていた。なお、メイドの一人は人形使いのコーネリアなので、冒険者は3人だ。


「ザインのおっちゃんたちも一緒に行くの?」


「まあな。あとおっちゃんではない」


 スノーとザインがそんな挨拶をしていると、メイドの一人が言った。


「途中で分かれて各家に向かうので、スノーさん、レネイアさん、シルバラさんはそれぞれ別々の馬車にお願いします」


 一口にスラムといってもそこそこ広いので、馬車は別々だ。

 スノーやレネイアは弟妹と一緒に馬車に乗り、シルバラだけ一人。それぞれの馬車には他にもメイド、あるいは冒険者が乗った。


 馬に乗った兵士たちに護衛されながら、馬車が走り出す。領主館とスラムはかなり離れているので、兵士も騎乗で向かうのだ。


 スノー一家の馬車だけは大所帯なので、スノーがルミーを抱っこして乗車。

 ルミーは目の前に座るザインにキラキラ光線を浴びせる。それはルミーだけでなく、パインや双子もキラキラだ。


「おいちゃん、剣士さん?」


 ルミーが問うた。


「いやー、剣士とは名乗れないな。普通の戦士だ」


 その返答に尻尾がパタパタ。否。スノーのお腹にくっついているので、尻尾でもぞもぞ。


「おっちゃんはナタとか手斧を使うんだよ」


 ルミーの頭の上から、スノーが教えてあげた。


「ほえー。おいちゃん、ドラゴン倒せる?」


「さすがにドラゴンは倒せねえなぁ」


「えー。じゃあなんなら倒せるの?」


「そうだなー。いままで倒した中で一番強いのって言ったら、サンダーリザードかな」


「さんだーりじゃーど」


「要はトカゲのでっけえヤツだ」


「こんくらい?」


 ルミーは手を目一杯広げた。


「そんなもんじゃねえよ。嬢ちゃんなんて丸呑みにしちまうくらいデカい。そのうえ、口から雷の球を吐き出したり、攻撃すると体から雷を出したりすんだよ。アイツはとんでもなく強かったな」


「こわー」


「まあ、ここら辺には出ねえよ。普通は高い山の岩場や海辺にいる。尤も、俺は王都のダンジョンに潜っていた時に遭遇したけどな」


「おっちゃん、王都にいたの?」


 スノーが問うた。


「おう、ダンジョンがあるからな」


「やっぱり儲かるの?」


「こことそんなに変わらねえよ。獲物を狩っても持って帰れる量は変わらないからな。それに王都は物価も高いし。ただ、あっちは雨や雪を気にする必要がないから、雨季や本格的な冬になると、ダンジョンがある地域へ移動する冒険者ってのは多い」


 へえ、と興味深そうにするスノーを、ラッカとビャノがジッと見つめた。

 冒険者になるためにどっかに行ってしまうのではないかと心配なのだ。


「俺の話はいいんだよ。お前の方はどうなんだ? ちゃんと暮らせているのか?」


「この前おウチちゅちゅった!」


 スノーの代わりにルミーが答えた。

 その話はルミーにとって自慢なので、当然、スノーのお腹はもぞもぞだ。


「家を作ったのか? 森の中で?」


「そうだお、お部屋が3つあってねー、水がでるところがあってねー、あとあと、シュリッパもあるの。わんちゃんのお顔がついてるの」


 ルミーが一生懸命説明するが、要領を得ない。シュリッパとはいったい。

 そんなルミーの頭の上で、スノーが言う。


「これから向かう家よりも立派な家を貰ったんだ」


「へえ、良いじゃねえか。約束の石板を貰うような開拓地の最初のメンバーってのは凄いことだ。絶対に手放すんじゃねえぞ」


「そ、そうなの?」


「そうだよ。このグルコサの町だって、初代国王の息子だか孫だかが開拓したわけだが、それを手伝った最初の住民の一族は、今でも町の運営に携われるようなポジションのやつが多い。お前らもそんな風になれるかもしれないんだから頑張らないとな」


 スラムよりも良い生活ができたら良かっただけなのに、そんな凄いことだなんて思ってもみなかったスノーは、温情に縋った形で村の一員となったことにちょっと後ろめたさを覚えた。


「はーい、パイン頑張る!」


「ルミーも! ルミーも頑張う!」


「ぼ、僕も! お姉ちゃんも頑張ろうね!」


「そうだよ。姉ちゃん、頑張ろうぜ!」


 そんなスノーを励ますように、妹弟たちが元気にお返事した。


「うん……うん! そうだね、一生懸命頑張ろう!」


 スノーはそんな声に後押しされるようにして、大きく頷いた。


 一方の賢者たちは、異世界の流儀を学んだ。


 子孫のそういう権利を期待して一生を懸けて頑張る人だっているだろう。

 賢者の中で、尊重するという意見が多いなら尊重するし、そういう世襲制を嫌う意見が多いのなら最初に明言してあげなければならない。ミニャと話し合い、しっかりとやらなければならないだろう。


 しばらくして、スノーの家に着いた。

 スノーたちが攫われてからすぐに兵士たちの調査が入ったので、特に荒らされたようなこともない様子。


 戸を開けると、埃っぽい室内が。


「持っていく物を仰ってください。こちらで保管し、明日までに船に積み込んでおきます」


 メモ用の紙を持った兵士がそう言う。


 さっそくスノーとラッカとビャノが準備を始めた。


「お姉ちゃん、ワラ持ってく?」


 よくわかってないパインが、問う。

 お手伝いしているつもりらしい。


 パインが言うワラとは、寝床にしていたワラだ。

 しばらく誰も使っておらず、定期的に行なっていた虫干しもしていなかったので、ワラには所々にカビが生えていた。


「ワラは持っていかない。うーん、持っていく物なんてほとんどないんだよな。これくらいかな」


 スノーがまとめたのは。

 鉄鍋と子供たちの冬服1着ずつ、ズタ袋2つ、水瓶、小さなツボが数個。

 食料品類は全てカビや虫が食っていたので、処分することになった。


 それから土間の土を足で払い、木の板を横にズラした。そこにあった穴の中には小さなツボが入っており、中にはルミーの病気の薬を買うためにちょっとずつ貯めていたお金が入っていた。鉄貨や銅板、銅貨など、全部で銀貨6枚分ほどあった。


 収集場所に、ルミーが白い石を置いた。それは石灰石で、ちょっと書いた跡がある。自分も持っていく物があり、凄く満足そう。


「お姉ちゃん、僕、これ持っていく」


「俺はこれ」


 ラッカとビャノは内職でツル籠などを作っていたので、それを編むための鉄の杭や錆びたナイフを持っていた。

 2人が収集場所にそれらを置くと、ザインが錆びたナイフを手に取って観察した。


「坊主、錆びたナイフや杭を使っていると下手すりゃ死ぬぞ」


「……そうなの?」


 ビャノがシュンとしながら尋ねた。


「女神の恵みのお浸しとか漬け物を日頃から食べていれば大丈夫だが、あの味が嫌いな子供は多いからな。好き嫌いして女神の恵みを食わないヤツは、動物にかまれたり、傷口にサビや土が入ったりすると、あっさり死ぬことがある」


 おそらく、破傷風だろうと賢者たちはピンときた。女神の森のどこにでも生えている『女神の恵み』を食べることで、その予防や回復ができるようだ。


 朝昼晩とネコ太たち回復属性が健康チェックをしているので、異常があればすぐに対応できる。しかし、こうした薬学の知識は、ミニャンジャ村にとっても地球にとっても貴重なので、賢者たちはしっかりとメモした。


「引っ越し祝いだ。これをやる」


 ザインはそう言って、腰に下げたナイフを鞘ごとビャノに渡した。


「い、いいの?」


「ああ、そこそこ良い物だ。お前ら双子だろ? 喧嘩せずに大切に使えよ」


 ザインはそう言ってビャノとラッカの頭にポンと両手を乗せた。


【120、名無し:うぉおおお、ザインさんかっけー!】


【121、名無し:名誉ネコミミ民にしてやろう】


【122、名無し:ザインのナイフと名付けるぞ! 序盤の強武器や!】


 リュックの中にいる賢者の生放送を見ていた賢者たちは、ザインの漢気に大興奮。大体は音声のみだが、ザインと双子のやり取りは偶然にも生放送に映った。思い出のワンシーンだ。


「おっちゃん、ありがとう!」


「ザインさん、ありがとう」


 ビャノとラッカが揃ってお礼を言った。


「おっちゃん、おいらからもありがとう」


 スノーも深く感謝した。

 布ですら割と良い値のする世界だ。ちゃんとしたナイフともなれば、結構な値段だろう。


「こいつは処分でいいか?」


「「……」」


 錆びたナイフを見せてザインが言うと、ビャノとラッカは涙目になった。

 その錆びたナイフは別に親の形見とかではない。しかし、双子はまだ6歳。3か月も使えば人生の大半を共にしたアイテムである。


「おっちゃん、処分して」


 心を鬼にしたスノーが代わりに答えた。危険な物をずっと持たせるわけにもいかない。

 双子はギュッと目を閉じて、コクンと頷いた。


 すっかり引っ越しの支度が終わった。

 室内にはまだ、ボロボロで使えないロープやなんで壁に掛かっているのかわからないワラの束、寝床のワラなどが残っている。


 スノーたちは戸口で一度振り返り、そんなカビ臭い部屋の様子を見つめた。

 開いた木窓から差し込む光が埃をチラチラと輝かせ、毎日使っていたカマドが静かに佇んでいる。


「さようなら。今まで守ってくれてありがとう」


 苦しい思い出も多かったけれど、この家はたしかにスノーたちを雨風から守ってくれていた。スノーはそれに感謝して、そう呟いた。


 そんなスノーの手をラッカとビャノがギュッと握った。


「ルミー、バイバイって」


「うん。バイバイ!」


 一緒にお手々を握り合うイヌミミ姉妹も、そう言ってお別れを告げるのだった。




 レネイアとマールが乗る馬車に一緒に乗っていたのは、召喚士のセラとメイドさんだった。


「崖の上はどう? 私も何回か行ったことあるけど、良い薬草があるでしょ?」


 セラが世間話をするようにそんなことを問うた。

 この人物は綺麗な顔立ちをしているが、凄腕の冒険者をしているだけあって、美しさの中にどこか凄みがあった。


「どうでしょう。私たちはあまり森の中には入らないのでちょっとわからないです」


 レネイアが答える。


 子供たちは、ミニャンジャ村の情報をあまり言わないように教えられているので、ちょっとはぐらかし気味。とはいえ、森に入らないのは本当のことだ。


「ふーん、そっか。うーん、ミニャンジャ村を拠点にして調査したいわねー」


「ミニャさんに聞いてみないとそれは……」


「まあそうよねー」


「やっぱり冒険者さんは、森の奥が気になるんですか?」


「そりゃね。グルコサから森までは距離があるし、森の入り口は初心者向けだしね。私くらいになるとある程度奥の方まで行かないと、初心者の食い扶持を奪っちゃうのよ。だから、いつも移動に時間を取られて大して探索できないわけ。だから、女神の森の中に村ができたら、冒険者ならみんな興味津々よ」


「なるほど、そんな理由があるんですね」


「まあミニャ様に聞いておいてよ。腕のいい冒険者が活動したいって言ってるって」


「わかりました」


 そんな話をする姉を見て、マールがキュピンとした。

 お姉ちゃんからお困りの気配!


「ねえねえ、そんなことよりマールとニャンコロやろう!」


 マールはお姉ちゃんの危機を救うために、キッズヂカラを解放した。お姉ちゃんは妹の正気を疑った。


「ニャンコロ?」


 しかし、誘われたセラの方はすぐに食いついた。

 知られざるミニャンジャ村の情報なので、何でも知りたいのだ。


 マールからルールを教えられ、いざプレイ。


「ニャンコロ、1! ふっふーい、マールの勝ち!」


 セラを完封でボコし、マールは勝利の着座式ズンズンダンスを舞う。


「なるほど、要領は得たわ。マールちゃん、もう一度よ」


「いいよー! じゃあ次からはお姉ちゃんとメイドのお姉ちゃんもね」


 セラは負けず嫌いだった。

 これ以降、レネイアが困ることはなく、馬車はエルフ姉妹のおウチに到着した。


 エルフ姉妹の家は、貧乏長屋の1室だった。

 部屋の戸口には『服の補修します』と書かれた看板が揺れていた。


 やはり兵士が調査しに来るので、特に空き巣に入られることもなく、中の物は家人の帰りを待っていた。


 スノーの家では兵士が担当したが、こちらではメイドがメモ係。


 スノー家よりも持っていく物は多かった。

 高さ1mくらいのタンス、鍋や包丁、冬服1着ずつ、毛布、裁縫道具、布が3mほど。

 水瓶や小さなツボはこの世界においてデフォなのか、レネイアたちも持っていた。


 スノーたちはお金を貯めていたが、エルフ姉妹はノーマネーだった。

 出会った頃にかなりの空腹状態だったのは、無一文だったからだろう。


「服の補修を請け負って暮らしていたの?」


「はい。でも、あまり儲からなくて、父が遺してくれていたお金を切り崩して、なんとか暮らしていました」


 セラの質問に、レネイアはシュンとしながら答えた。マールもそんな姉の顔を見上げてシュン。


【189、名無し:表の看板みたいなの時代劇で見たことあるわ】


【190、名無し:レネイアちゃんはあまり商売が上手じゃない匂いがする】


【191、名無し:まあ、スラムじゃ依頼も来なさそうだよな】


【192、名無し:クソッ、俺が隣に住んでいれば毎日袖を引きちぎって依頼に行ったのに……っ!】


【193、名無し:ワイルドすぎるだろwww】


【194、名無し:ハッ、待てよ。そうなるとお布団作りとかはエルフ姉妹と一緒にできるのか】


【195、名無し:こうしちゃいられねえ! 糸の結び方習ってくる!】


 裁縫をしていたようだし、子供たちの布団は楽しく作れそうである。


 最後に、レネイアとマールは戸口に掲げた看板を下ろし、収集場所に置いた。一緒に持っていくようだ。


 そして、2人は最後にお部屋の中を見つめた。

 姉妹で2人、頑張って暮らしたお部屋だ。スノーたちと同じように、そこにはたくさんの思い出があった。この小さな部屋で、2人で笑い合ったこともあったし、お互いに我慢しあったこともあった。


 セラは2人の姿を懐かしそうに見つめた。それは旅立ちの切なさを知る人の瞳だった。


 エルフ姉妹はお互いに顔を見合わせて笑うと、希望を胸に引っ越しを終えるのだった。




 シルバラは人形師のコーネリアと馬車に乗っていた。

 コーネリアはメイドを演じている都合、他のメイドと一緒には乗らないのだ。なので、馬車の中はタイマンである。実際にはシルバラのリュックで賢者がひっそりと声を聞いているが。


「ねえ、シルバラちゃん。ミニャンジャ村は新しい人の受け入れとかしてないの?」


 コーネリアがニコニコしながら問うた。


「え。えっとぉ……わからないです」


「そっかー。ミニャンジャ村には遊びに行けないのよね?」


「えっとぉ……領主様とお話をしてから決めるって聞きました」


 シルバラはコミュ力があまり高くなく、子供の中では一番人見知りの気があった。興味があることにははしゃぐが、基本的には大人しく物を作ったり、何かを考えたりするのが好きな子なのだ。


 だから、狭い馬車の中での知らない人とのタイマンは結構苦痛に感じていた。


「なるほどねー。それじゃあ強い魔物とかは出ない。大丈夫?」


「え、えっとぉ……あたしは見たことないです」


 シルバラもまた、レネイアと同様にはぐらかした。

 シルバラたちも、賢者たちのゴブリン討伐の話は聞いている。しかし、それは戦力の分析に使われてしまうので、黙っていた。


【91、名無し:知らない大人とタイマンとかマジ無理だわ】


【92、名無し:まあ誰もが体験する試練だよな。俺もあるわ】


【93、ブレイド:陸上の大きな大会へ行くために顧問と2人きりで電車に片道3時間乗って、予選敗退した帰りの電車で顧問がほんのり不機嫌だった俺の経験よりも酷いヤツおる? ちなみに中学2年生の時】


【94、名無し:それ、親がお前の大好物を用意してくれるレベルだぞwww】


【95、名無し:練習頑張ったな! 君は偉い! よし、ご褒美にクソ顧問と往復6時間デート券(強制)をプレゼントだ!】


【96、名無し:外道の所業で草】


【97、名無し:ブレイドって確か風属性だよな。これからは真の風になれ!】


【98、ホマズン:コーネリアさんのこれって、やっぱり甲殻類アレルギーを治したいからかな? 僕もせっかく回復の力を手に入れたし、苦しいのなら治してあげたいんだけど】


【99、名無し:まあそうだろうな。顔は見えないけど、声にほんのり必死さが感じられる】


【100、名無し:コーネリアさんは上手くやれば引き込めるかもな。ただ治すだけだと王都に帰っちゃうだろうし、引き込むのならちょっと上手いこと考えた方が良いと思う】


【101、ホマズン:力の安売りをするつもりはないけど、苦しんでいる人であまり阿漕なことはしたくないね】


 声しか聞こえないので、シルバラちゃんを見守るスレッドでは話が若干脱線気味。


 必死に仲良くなろうとするコーネリアとあわあわするシルバラを乗せて、馬車は目的地に到着した。


 シルバラも長屋のような狭い家に住んでいた。

 狭い板間には編みかけのザルがあり、部屋の隅には完成した草籠やザルが積まれていた。


 シルバラは子供たちの中で最も生活能力があり、草籠やザルを売って暮らしていた。漁業が盛んなのでザルの需要が多く、ちょいちょい売れていたのだ。とはいえ、材料の仕入れなどもあるので決して暮らしは楽ではなかった。


 小さなタンスが1つ、工作用の薬品が入ったツボが複数、小刀やキリなどの工作道具、裁縫道具、布、冬服や毛布などなど、シルバラの持ち物が一番多かった。


 タンスがあった場所の床板を一枚外すとそこにお金を隠していた。シルバラが必死に貯めた金板1枚分。シルバラはホッとした様子でお金が入った袋を懐にしまった。

 金板1枚を貯められるだけあって、シルバラの生活能力はやはり割と高い。しかし、スラムから抜け出せるかというと話はまた別だった。ザルの需要は多いが作り手もまた多く、シルバラの稼ぎはこのあたりで頭打ちだったのだ。


 シルバラはひとつのツボを大切そうに収集場所に置いた。


「それは?」


「どぶろくです!」


 どぶろくだった。

 文化的に20歳未満でも飲んで良いのなら賢者たちはうるさいことは言わない。成長を阻害したり、健康を害するのなら話は別だが。


「あー、ドワーフは好きだよねー」


「コーネリアさんも好きなんですか?」


 シルバラが目をキラキラしながら食いついた。

 仲良くなるチャンスだが、コーネリアは酒が飲めなかった。


「え? あ、あー……私は体質で食べられない物があるから、酔っぱらえないのよね。酔っぱらいながら食事をすると、下手をすれば死んじゃうから」


「そうなんですか……」


 シルバラもちょっと同情的。お酒が飲めないなんて可哀そう、と思っていた。


【154、名無し:コーネリアさんの不憫さがヤバいんだが】


【155、名無し:まあ地球でも食物アレルギーは大変だからな】


【156、名無し:この世界っていうか、食堂がヤバいんじゃない? カニチャーハンを作った鍋で、そのままニンニクチャーハン作るみたいな】


【157、名無し:それはありそう】


【158、名無し:酔っぱらって注文しちゃうというよりも、異物混入時に冷静に対処できなくなるのが怖いのかもな】


【159、名無し:次にミニャちゃんと会った時に、一緒に来るか聞いてあげた方が良いんじゃない?】


【160、名無し:今晩の定例会議で意見してみるか】


 賢者たちも、コーネリアにかなり同情的だった。


「それではこちらはお預かりして、明日までに送迎用の船へお運びしておきます」


「お願いします」


 メモ係の兵士さんにお願いして、シルバラのお引越しも終わった。


 シルバラもまた一度振り返り、一人だけで頑張ってきた日々を小さな部屋の光景の中に思い出した。

 これからは一人じゃない。道具も持っていけるので、賢者たちと一緒にいろいろな物が作れるかもしれない。そんなふうに思いながら、シルバラはゆっくりと家の戸を閉めた。


 こうして、子供たちはそれぞれが住んでいたお部屋から旅立った。

 賢者たちは、子供たちの過去の生活を知り、その旅立ちに立ち会い、必ず幸せにしてあげようと決意を新たに固めるのだった。

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