4-5 会談2 ネコ太のお披露目


 応接室に領主の奥さんと子供たちがやってきた。

 奥さんは優しい微笑を浮かべ、子供たちの方は少し緊張気味だ。


 ミニャは椅子からポインと跳んで立ち上がり、領主の家族を迎えた。領主やその家族が来たら立ってお出迎えをする、賢者たちから習った礼儀作法なのである。


 ミニャの興味は同年代の子供たちに向かうと思いきや、見つめていたのは領主夫人のアマーリエだった。母子の姿に、亡き母のことを思い出したのだ。


『ネコ太:ミニャちゃん……』


 腕の中のネコ太がミニャの胸にヒシッと抱き着いた。

 ミニャにはネコ太の切なさを理解できなかったが、いつも一緒の賢者さんが抱き着いてきたのでニパッと笑顔になった。


 領主が家族を紹介する。


「ミニャ殿。紹介しよう。妻のアマーリエ」


「ミニャ様、アマーリエと申します。お会いできて光栄ですわ」


 アマーリエは一歩前に出て、右手を腰の後ろに、左手を体の横に広げ、一歩足を引いてお辞儀した。この国の作法なのだろうが、長い年月で磨かれたその所作は賢者の目から見てもとても優美に思えた。


「長男のソラン」


「ミニャ様、ソランと申します。どうかお見知りおきください」


 ソランは、小学校高学年くらいの優しげな印象の少年だ。

 アマーリエと同じお辞儀をしており、性別による作法の違いがないのかもしれないと賢者たちは考察する。


「次男のクレイ」


「クレイです。ミニャ様、よろしくお願いします」


 こちらは10歳くらいの、ちょっと腕白そうな少年だ。


 ソランもクレイも親に似て美形である。

 こんなん日本にいたら勝ち組待ったなしだと男性賢者は嫉妬し、女性賢者はちょっとじゅるり。子供相手に……っ。


「最後に娘のアメリア」


「み、ミニャ様。アメリアです。おあ、お会いできて光栄でしゅ」


 噛んだ。

 しかし、貴族令嬢としての教育がしっかりされているようで、母親の後ろに隠れたりはせず、大人と同じようにお辞儀をした。


 アメリアは5、6歳で、ふわふわな紫髪の大変な美少女だった。

 領主は赤髪、アマーリエは青髪なのだが、なぜか紫髪だ。異世界人はカラフルな髪が多いので、髪の遺伝の法則が地球よりも複雑なのかもしれない。


 さて、4人から挨拶されたミニャ。

 その頭の中では脳内子猫たちが4連ご挨拶砲のボタンを叩いた。てぇーっ!


「ミニャはミニャです! 7歳です! あと、女神様の使徒で、ミニャンジャ村の村長さんです!」


 いつもの元気なご挨拶が飛び出した。


 ネコミミキッズの奇襲を受け、ポカンとする子供たち。上流階級の子供なので、こういうタイプの子供とは会ったことがないのかもしれない。もしくは女神の使徒のイメージが違ったからか。

 しかし、さすがにアマーリエは場慣れしているようで、すぐに口を開いた。


「まあ。とても元気で丁寧なご挨拶をありがとうございます」


「はい! んふぅ!」


 お母さんキャラに褒められてご満悦!


「アメリアは6歳なんですよ。ミニャさんと歳が近いですし、仲良くしてくださいね」


「はい! アメリアちゃん、よろしくね?」


「は、はい。よろしくお願いします」


 ミニャはニコパァと笑い、アメリアははにかんだように笑った。


「まあ立ち話もなんだ。座ろうじゃないか」


 領主がそう言い、ミニャはまたポフンと座った。この椅子との付き合い方はすっかりマスターした様子。


【671、ライデン:さて、それでは作戦開始でござるな】


【672、ニーテスト:全員、緊急事態に備えてくれ】


【673、ライデン:ネコ太殿。人数や賢者のことはバレても構わないでござるが、『異世界人の召喚』ということだけは隠すように立ち回るでござるぞ】


【673、ネコ太:わかったわ】


 ニーテスト専用スレッドで、作戦開始の合図が入った。

 領主は女神の話を期待しているのだろうが、賢者たちは違った。この作戦が始まれば、女神の話どころではなくなるだろう。


「さて、ミニャ殿がお前たちに女神様の——」


 領主が途中で言葉を止めた。

 ミニャのお膝に乗ったネコ太がピョンピョン跳ねているのだ。


「どうしたんだね?」


 室内の全員がミニャとネコ太を見る。

 特に子供たちは人形がめっちゃ動くので興味津々だ。美少女フィギュアなので、ソランとクレイの性癖がぶっ壊れる可能性も微レ存。


「どうしたの?」


 ミニャはネコ太を掴んで、テーブルに置いた。


 みんなに注目される中、ネコ太はミニャに向かって腕を体の横でパタパタしてみせた。

 フキダシが読めるミニャにとってそのアクションはあまり意味のないものだが、第三者から見ればなにやら伝えたいことがある感じ。


『ネコ太:ミニャちゃん。アメリアちゃんは病気みたい』


「にゃんですと!」


 ネコ太から告げられたことに吃驚仰天したミニャは、心配そうにアメリアを見た。

 その視線を受けて、アメリアは恥ずかしそうにもじもじした。どうやらミニャとお友達になりたい様子。


 ミッション:アメリアちゃんの治療。

 賢者たちはこの件についてミニャには説明していなかった。領主との会談だけでも7歳児にはきついのに、アメリアの治療の件まで詰め込むのは無理だと判断したのだ。

 なにより、このタイミングでミニャに告知した方が、演技ではない生のミニャがこの家族の信頼を得るのではないかと賢者たちは考えていた。

 その際には、相手方にミニャの能力がなんであるかの推理材料を与えてしまうが、メリットの方が大きいと判断された。


『ネコ太:ミニャちゃん。アメリアちゃんを治してあげたい?』


「うん!」


 ミニャが即答し、賢者たちはその力を使う大義名分を得た。


「ミニャ殿、どういうことだろうか? 貴殿は、その人形と話をすることができるのかい?」


 領主が問うた。


「うん、そうです。ちょっとだけ待ってください」


 いろいろ尋ねたそうな領主を放置して、ミニャはネコ太のフキダシを読んだ。


『ネコ太:領主様に、『ネコ太さんが、アメリアちゃんの病気を治せるけど治しますかって言ってます』って言ってほしいの。私のことを尋ねられたら、回復魔法を使えることや人の病気がわかることも言っていいよ。でも異世界から私たちを自由に召喚していることは秘密にしてね。私たちがなんなのか聞かれたら、『賢者』って答えればいいよ』


 ネコ太のフキダシを読んで、ミニャはふむふむと頷いた。


 異世界から召喚していることは言っちゃダメ。

 でも、賢者とは答えていい。

 ヨシッ!


 ミニャは大切なことを確認してから、領主に言った。


「領主様。ネコ太さんが、アメリアちゃんの病気を治せるけど治しますかって言ってます」


「え? な、なんだって?」


 これにはさすがの領主も目を白黒させた。

 当のアメリアはポカンとしている。


 領主は少し視線を彷徨わせ、ひとつひとつ確認を始めた。


「まず、ネコタというのは誰だ?」


「ネコ太さん!」


 ミニャはテーブルの上のネコ太を指さした。


「この人形の名前がネコタというのかね?」


「うん。ネコ太さんはすんごい回復魔法が使えるの。あといろんな病気もすぐにわかっちゃうんだ」


 2人で「ねーっ!」とちょっと体を斜めにした。


「それは……。では、アメリアの病気がなんであるのかもわかるのかね?」


「うん。ちょっと待ってくださーい」


 ミニャはネコ太のフキダシを読んで、ふんふんと頷いた。


「アメリアちゃんは暗い場所にいたり夜になると具合が悪くなるでしょ?」


「あ、ああ、その通りだ。寝る時にランプの灯を絶やすことはできないし、布団で顔を隠したりもできない。多くの医師や回復術士を頼ったが、誰もこの病気を治すことができなかった」


 領主が説明すると、アメリアはしゅんとした様子。自分の病気のことを説明されて、喜ぶ子供はいない。


 家族に心配をかけている負い目か、体が弱いからか、アメリアはどこか自信がなさそうな印象の子供だった。ネコ太はそんなアメリアの心境を読み解き、言葉を選んでミニャに通訳してもらった。


「アメリアちゃんは闇属性に対して凄く強い耐性を持っているんだって。それはとっても凄い才能なんだって」


「闇属性に対する強い耐性?」


 領主はわずかに胡散臭いものを見るような目になった。

 おそらく属性耐性のなんらかの法則を知っているのだろう。


 シンプルに考えるのなら、『火耐性を持つ者は火に手を突っ込んでもダメージを受けない』のような法則だろう。それに則るなら、闇の中でダメージを受けるアメリアが闇耐性を持っているのはおかしい。領主が怪訝な顔をするのも納得だ。

 しかし、属性アレルギーはそこに落とし穴がある。


「だけど、その耐性が強すぎるから、世界を作っている弱い闇属性にもすんごく反応して、暗いところにいると魂を疲れさせちゃうんだって。この魂の疲れがアメリアちゃんの具合が悪くなる原因なんだって、ネコ太さんは言ってるよ」


 領主は顎を撫で、難しい顔。


「……複数の医師の見解では、アメリアは闇に弱いから常に光を身の周りに置くように言っていた。ミニャ殿、いや、ネコタ殿の話ではまったく逆だ」


「はえー、そうなんだ。あっ、そうなんですか!」


 領主は疑っているわけだが、ミニャには通じていなかった。


 領主の話には、この世界の魔法におけるとても重要なヒントがあった。

 この世界で『健康鑑定』を持っているのは、おそらく賢者だけということだ。町に潜む水蛇を捕らえられないことから人物鑑定もない可能性が高いので、鑑定魔法全般がないのかもしれない。


 懐疑的な領主に対して、ネコ太はミニャに次のように伝えてもらった。


「うんとねー、執事さんは左の目がほとんど見えないって言ってます。あと、そっちのお姉ちゃんはエビとかカニを食べると死んじゃうかもしれないくらい具合が悪くなるって言ってます」


 領主は目を見開き、執事を見てから、人形使いが扮したメイドへ視線を移した。


「お前はエビやカニが食べられないのか?」


 執事へ質問しないのは、すでに知っているからだろう。

 問われた人形使いは慌てたように頷いた。


「は、はい。子供の頃はとても好きでしたが、成人を過ぎたあたりから、食べると蕁麻疹ができたり呼吸ができなくなったりするようになって、今では一切食べられません」


 アメリアや執事は調べればわかるかもしれない。

 しかし、人形使いのメイドは違う。ここには昨日来たばかりで、それまでは王都で冒険者をしていたのだ。


「ネコ太さんは、2人も治せるって言ってます!」


「ほ、本当ですか!?」


 ミニャがドヤッとしながら言うと、人形使いのメイドは顔に必死さを宿した。


 重度の食物アレルギーを持つ者は、食べ物に対してとても気を使う。アレルゲンの品目表示保証などなさそうなこの世界において、彼女の食べ物に対する心労というのは、賢者たちが考えるよりもずっと辛いものなのだろう。

 そのせいで、たぶん任務を忘れた様子。しかし、本物のメイドに肩を掴まれて壁際に戻され、無念のお預け。


 次男のクレイが身を乗り出して問うた。


「ミニャ様、アメリアの病気を治療できるというのは本当ですか?」


「クレイ」


 そんなクレイを領主が手で制すと、クレイは何かを言おうとして口を閉ざした。

 ミニャのことを『様』付けで呼ぶように、領主以外の発言権は低いのだ。


 ミニャはそういうのがよくわからないので、むむむっとした顔を2人の間で行ったり来たり。いったいどっちと話せばいいのか。


「ミニャ殿、試すようで申し訳ないが、この執事の目を治してもらえないだろうか。もちろん、礼はしよう」


「うん、いいよー! ……じゃなかった。はい、いいですよ!」


 敬語に言い直したミニャの下へ、執事が進み出る。

 領主と執事の間に遠慮するようなやり取りはない。執事はアメリアのための実験台だからだ。


「ミニャ様、お手を煩わせてしまい申し訳ありませんが、どうかよろしくお願いいたします」


「ううん、いいよ。えーっと、椅子に座ってくださーい」


 執事に椅子へ座ってもらい、その正面に立ったミニャはネコ太を両手で持った。


「うんとうんと。目を瞑って、ミニャがいいよって言うまで開けないでね」


「かしこまりました」


 ネコ太の言葉を伝えると、ミニャは執事の両目の中央付近にネコ太を掲げた。


 執事の両目の前に出したネコ太の両手がピカーッと光る。

 顔の上半分も光り、執事は眉間にしわを寄せながら背筋を震わせ、太ももに置いた手を静かに握った。

成り行きを見守る全員がゴクリと喉を鳴らした。失敗すれば町が敵になりかねないので、賢者たちもドキドキである。


 しばらくして執事の体から力が抜けると、やがて光も収まった。

 ミニャはネコ太を自分の方へ引き戻して、言った。


「うんとねー。もう治ってるけど、最初は自分の手で目を隠して、強い光を見ないようにしながら目を開けてね。あと、右目も少し悪くなっていたから治したよって、ネコ太さんが言ってます」


 本来なら、カーテンを閉めたりした方がいいのだろう。

 しかし、この場には、暗い部屋になると体調を崩すアメリアがいるので、手で光が入らないように指示を出した。


 執事はそれに従って、白い手袋に包まれた手で隠しながら目を開けた。

 その手が震え、頬に一筋の涙が流れた。涙を抑えるように手は顔にまで密着し、執事は深々と頭を下げた。


「ミニャ様、ありがとうございます。もうディアン様にお仕えできないと諦めておりました」


「んふぅ、お爺ちゃん、良かったね!」


 ミニャはニコパと笑った。

 お爺ちゃん呼びは全員がスルーだ。


 領主が問う。


「ミニャ殿、この執事の目は高価な目の回復薬や治癒術士の魔法では回復できなかった。いったい何が違ったのだろうか」


 ネコ太が手をパタパタして発言するので、ミニャはそれを通訳した。


「うんとうんと。執事さんの目が悪くなったのは、額や目の周りを強く打っちゃったからなんだって。悪くなっていたのは目の奥にある神経だったから、眼球の治療では治らなかったんじゃないかなって言ってます」


「頭を打った……セバルス、そんなことがあったのか?」


 どうやら執事はセバルスというらしい。


「申し訳ありません、記憶になく……ですが、治療していただいた際に、たしかに眼球ではなく、目のずっと奥やこめかみに治療されている気配を感じました」


「恐れながら」


 執事は特に思い当たる記憶がないようだったが、そこで本物の方のメイドが発言の許可を貰った。


「セバルス様は、昨年の祭りの準備をしている際に、屋根裏の祭り飾りの箱で額を打って、ほんの少しの間、気を失っておりました」


「あ……し、しかし、あの程度で? たしかに痛くはありましたが、目がおかしくなったのは1月の中頃のことでした」


 メイドの言葉にハッとする執事に、ミニャはネコ太からの言葉を告げた。


「それが原因かはネコ太さんもわからないって。でも、頭は打ち所が悪いと怖いことになるから気を付けてくださいって言ってます」


「はい。ミニャ様、ネコタ様、左目どころか右目も治していただいたようで、感謝の言葉もございません」


 執事はそう言って立ち上がろうとするので、領主に「少し座っていろ」と止められて、恐縮した。


 領主は言う。


「ミニャ殿、私からも礼を言いたい。これは親の代から尽くしてくれていてな。目が悪くなり、隠居を考えていたのだ。しかし、隠居をするにしても目が悪いままでは憐れに思い、方々をあたっていたのだが……まことに助かった」


「旦那様。目が治ったからには、まだまだ働かせていただきます」


 これが領主と執事の絆かと、男子賢者は涙し、一部の女子賢者は涎し、ミニャはニコパァ。教育係にさせてはいけないヤツらがいる模様。


「ミニャ殿、休憩を提案しておきながら、逆に疲れさせてしまったな。申し訳ない」


「大丈夫!」


 ミニャは「んっ!」と気合を入れた。


 領主は少し遠慮した素振りだったが、どうしても続けたかったようで、質問をした。


「そうか。では、アメリアの治療について具体的にどうするのか教えてくれないか?」


 ミニャは「ちょっと待ってくださいねー」とネコ太から教えてもらった。


「うんとうんと、アメリアちゃんの病気は属性アレルギーの中の、闇属性アレルギーっていうんだって」


「闇属性アレルギー……」


「闇属性アレルギーの子供を治す方法は2つあるって。1つは魔力の使い方を勉強して、大人になれば自然に治るって言ってます」


 ミニャの説明を、その場の全員が真剣に聞いていた。

 ミニャはその迫力をちょっと怖く思いながら、賢者たちとアメリアのために頑張った。


「えとえと。もう1つは、1週間くらい1日に3回、闇属性の魔法をアメリアちゃんにかけることだって。そうすると魂が闇耐性の正しい使い方を覚えて、暗闇の中にいても具合が悪くならなくなるんだって。うんとうんと、この方法を取る場合は、攻撃魔法だと危ないから闇属性の回復魔法を使うんだって、ネコ太さんが言ってます」


 ミニャはふぅと長文の通訳をやり切って、麦茶をゴクゴクぷはー。

 メイドがすぐにおかわりを入れてくれた。


「闇の回復魔法? 闇魔法にそんなものがあるのか……」


 領主が呟くと、アマーリエが口を開いた。


「闇魔法の使い手はとても少ないですから、秘術のような魔法があるのかもしれません」


 その発言に賢者たちはメモメモ!

 闇魔法はレアらしい。闇属性の賢者たちはパソコンの前でガッツポーズ。


 ネコ太から次のフキダシが出たので、ミニャは一服モードから再び頑張りモードへ。


『ネコ太:ミニャちゃん。ミニャちゃんたちは村に帰るけど、アメリアちゃんを魔法で治す場合は、アメリアちゃんにお人形を3つ貸してあげることになるの。それでもいーい?』


「うん、いいよ」


『ネコ太:それじゃあ、領主さんに言ってあげよう。魔法で治す場合は、お人形を3つ貸しますって』


 ネコ太との会話を領主に伝えた。


「人形を貸して、ミニャ殿は村に帰ると?」


「うん。ミニャ、村に帰ってお仕事するの!」


 普通に考えて、領主の娘の治療よりも重要な仕事などあまりない。

 しかし、ミニャは女神の森で村を作る女神の使徒な7歳児という特殊な存在。そもそも、領主と同じ国の所属ではないので、帰宅を拒むことはできない。


 賢者たちとしても、ミニャには帰ってきてほしかった。

 というのも、来週の中頃からゴールデンウイークが始まるのだ。みんな、ミニャちゃん陛下とお仕事して遊んでご飯を食べて、楽しみたいのである。そう、私情である。


 それに、万が一にも治療中にアメリアが死亡した場合、この場にミニャがいるのは不味すぎる。治療とは別の要因で死亡する可能性もあるので、あまり長居はしたくないのだ。


 領主は少し考えてから口を開いた。


「アメリアの治療については少し考えさせてもらってもいいだろうか?」


「「父上!?」」


 そう言った領主は、声を揃えて驚くソランとクレイを手で制し、続けた。


「先ほども見せてもらったので、ミニャ殿の女神の使徒たる力を疑うわけではないのだ。しかし、我々は闇魔法について明るくない。いや、ネコタ殿の知識に比べれば、回復魔法についても明るくはないのだろう。しかし、娘の治療となれば慎重にならざるを得ないのだ。失礼は承知だが、少しだけ時間がほしい」


 賢者が凄いと知っているミニャは治療を待つ領主の心情がちょっとよくわからなかったが、とにかくアメリアの治療を待ってほしいということだけはわかった。


「うん、わかりました!」


「ミニャ殿。今日中に帰らなければならないのだろうか? 今宵は泊まっていかぬか?」


 この提案は賢者たちが想定していたので、ミニャもばっちり答えられた。


「ミニャ、お泊まりします!」


 ミニャの元気なお返事を聞いて、領主は初めてホッとした顔を見せた。


 たぶん、領主の疲労はミニャを上回っている。

 それもそのはず。領主の相手は、ミニャと事前に相手の情報をゲットしている数百人の賢者なのだから。

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