3-16 休日午後の部と小宴会


 お昼ご飯を食べ、いつものようにお昼寝タイム。

 子供たちは全力で遊んだからか健康的なすやすやっぷりを披露。お昼寝ひとつとっても、『暇だから寝るか』みたいな思考だったかつての賢者たちとは違うのだ。


 そうして午後の部が始まると、さっそくミニャちゃんハウスの中に工作セットが運び込まれてきた。


『ネムネム:午後からはおウチの中で遊ぶお時間です!』


「なにして遊ぶの?」


『ネムネム:工作とかかな』


「工作!」


 ミニャが座りながら肩を弾ませズンズンする。


「何か作るんですか?」


 ミニャの翻訳を聞いたドワーフっ子のシルバラが目を輝かせた。


『ネムネム:ここに材料をたくさん用意したから、好きなのを作っていいよ』


「ここにあるので好きなのを作って良いんだって!」


「わぁ! 本当ですか!?」


 賢者たちが揃えた材料の中にはキラキラしたビーズが大量にあるので、女子たちのテンションが上がる。


「これはなぁに?」


 そんなビーズセットをひとまず置いておき、ミニャがさっそく謎の材料を指さした。


『ネムネム:これはブンブンゴマ! シリウスっていう新しい賢者さんが作ってくれたんだよ』


「ブンブンゴマ! シリウスさんが作った!」


 ミニャは復唱して脳内子猫たちにインプット。

 職場でそれを聞いたシリウスはあと半日を乗り切る気力が沸き上がった。


『ネムネム:よし、それじゃあ見本を見せてあげよう。おい、者共、かかれ!』


『ジャパンツ:合点!』


『クライブ:承知!』


 ネムネムの指示で、賢者たちが両サイドからブンブンゴマを持って操った。


 ブンブンゴマは、直径10cmほどの平たい板や紙の中央付近に2つの穴を空け、そこに糸を通した遊び道具だ。

 両手で糸の両端を持ち、その中央にコマが来るようにセットしたら準備オッケー。

 糸に捻りを加えてから両端を引っ張ると、糸が元に戻るためにコマが勢いよく回転する。この板の回転が生み出した慣性によって糸が逆向きに捩れ、また糸を引っ張れば、今度は先ほどと逆回転で板が回る。

 要は板の回転の慣性を使うことで、紐を引っ張るだけでコマを順回転と逆回転に回し続けることができる遊び道具である。


『ジャパンツ:ヤバいぞ、これ! 凄まじい運動量なんだけど!?』


『クライブ:手よりも足がヤバい!』


 賢者たちにしてみれば巨大なブンブンゴマだ。

 実演係の賢者は必死にコマをブンブンした。ブンブンゴマは糸が捩じれるので、長さが伸び縮みする。2人は前後に忙しなく移動しながら、振動する糸と戦った。


『ネムネム:賢者は小さいから2人でやっているけど、本当は1人でやるんだよ』


「ふむふむ」


 肩で息をする2人の仕事のかいもあって、ミニャは全てを理解した。

 さっそくミニャもチャレンジ。


「しゅごー、ビュオンビュオンしとる! ねえねえ、ビュオンビュオンしとる!」


 ミニャは回転するブンブンゴマを見せながら、シルバラに教えてあげた。

 凄くやりたそうにしているので代わってあげると、シルバラはパァっと目を輝かせた。


「ホントにブンブンします!」


「ルミーも、ルミーも!」


 ブンブンゴマの人気が熱い。


『ネムネム:なんと、そんなブンブンゴマがミニャちゃんたちも作れちゃいます!』


「にゃんですとっ!」


「ミニャさん、なんて言ってるんですか!?」


「ビュオンビュオンゴマが作れるって!」


「おーっ!」


 やはりシルバラは工作が好きなようで、パチパチパチと手を叩いた。

 なお、ミニャの呼称がいつの間にかビュオンビュオンゴマに変わっていた。


『ネムネム:まあまあ待ちなさい。他のも説明するからね』


 ネムネムは他の物も説明し始めた。


『ネムネム:これはオハジキ! これは工作じゃなくて、指で弾いてオハジキ同士に当てて遊ぶ道具です』


「ふむふむ」


 賢者たちは木の板に石を薄く敷いて、オハジキ用のバトルフィールドを作っていた。

 盤上の真ん中あたりには丸が11個描かれており、自陣からオハジキを交互に弾いて、その丸を多く制圧した方が勝ちということにした。

 丸の大きさはまちまちで、オハジキが1、3、5と奇数個入るようになっている。もちろん、多く入っている方が陣地を取ったことになる。入っている数が同じだったらその陣地はドロー。


 賢者たちはインドア派なので、色々なルールを作って戦略ゲームを完成させようとしたが、子供たちが遊びやすいように、ひとまずは交互に弾くだけのシンプルなものとした。


 なお、子供同士でやらせると喧嘩になりかねないので、相手は賢者である。


「わぁ、楽しそう!」


 とりあえずオハジキは置いておき、説明が続く。


『ネムネム:こっちはビーズ! 糸に通して自分だけのアクセサリーが作れるよ。いろいろな色や形を用意したから、作ってみてね』


 地球においてビーズアクセサリーの歴史はとても古く、異世界にもすでにあるようだった。年長組の驚きはビーズ玉の色鮮やかさに向かっているようだ。


「お姉ちゃん。マール、ビーズやりたい」


「そ、そうですね。私もビーズをやってみたいです」


 女子たちの反応は明らかに良かった。やはり女子特効のキラーコンテンツ、制作者のネムネムとルナリーは慧眼であった。


 というわけで、さっそく子供たちが工作を始めた。

 せっかくなので順番にやることにして、まずはみんなでビーズ細工。


 みんなが使うテーブルは、クーザーの船からパクった板と石材で作られたローテーブルだ。その上に道具と一緒に賢者たちも乗っかってお手伝い。


 子供たちは思い思いに糸をビーズに通して作品を作っていく。

 上手いのはシルバラとエルフ姉のレネイアだ。次に上手いのは双子のラッカである。3人は色使いのセンスが良く、派手なビーズを使いまくったりしない。


 双子のビャノはラッカとは違い、若干センスが未成熟な様子。ビャノはどちらかというとアウトドア派で、ラッカはインドア派なのだ。そっくりな2人だがそんな違いがあった。


 スノーも案外器用だ。

 青が好きなのか、青や白で統一しようとするのもコンセプトがあって丸。


 エルフ妹のマールはビーズを入れたり外したりをして、全体像が定まっていない感じだった。

 ビーズ細工はスケッチを描いてから作る人もいるので、そんなマールにお手伝いの賢者がアドバイス。スケッチは描けないが、まずはビーズをテーブルに並べてみてはどうかと。


「それがいいかも。さすが賢者様!」


 マールはふんふんと頷いて、ビーズを並べる。

 気を良くした賢者は左右対称にすると素敵に見えるということも教えてあげる。マールのお手伝い賢者は教えたがりだった。


 イヌミミ姉妹は滅茶苦茶だった。

 ネムネムたちはビーズの他に様々な形のチャームも作った。チャームとは十字架や蝶みたいな最初から形になっている物だ。

 幼い2人はそういった物をいっぱい付けようとしていた。

 なので、賢者たちがつきっきりでお手伝い。本当なら子供の好きにさせてあげたいところだが、チャームはそこまで多くないので、それだけで作品を作ってほしくないのだ。


 最後に我らがミニャちゃん陛下。

 ミニャもチャームが気になるようで、すぐに4つのチャームを確保していた。

 そのラインナップは、赤茶色のドングリ、青いお魚、緑色のネコ、そして賢者を象った人形のチャーム。どうやら好きな物を選んだようだ。

 統一感はないが、賢者としては非常に可愛く思えるラインナップだ。これを改善できる賢者はいやしない。


「んー!」


 腕組みをしたミニャは、紐の外側に並べたチャームを睨んで可愛く唸った。

 マールと一緒で賢者からアドバイスを受けて、紐に通す前にイメージを固めている様子。


 ミニャちゃん細工師の目がキラリと光る。


「これはここ! そんでこうしてぇ、こうしてぇ、こう! ……やっぱりこう!」


 ミニャはチャームとチャームの間にビーズを配置し、あれこれ替え、納得がいったのか『うむぅ』と陶芸家のように頷く。


『ネムネム:そうしたら、紐のこっちから順番に入れていくんだよ』


「わかった!」


『ネムネム:このビーズの列は崩さないようにね』


「うん!」


 そうして出来上がったそれぞれのアクセサリーは、なかなか素敵な物だった。


 色やチャームにコンセプトを持たせるタイプと、好きな色やチャームをとりあえずぶち込むタイプに分かれた。


『ネムネム:みんな上手だねぇ!』


『リッド:すんごい上手!』


『くのいち:さっそくつけてみようよ!』


 とにかく褒めて伸ばす。

 怒られて伸びたタイプの賢者はほぼいなかったので、己の人生から学んだ結論である。


 みんなが作ったのはブレスレットだ。

 子供たちの服は決して良い物ではないため、ネックレスでは希少石のビーズの煌めきに合わないと思ったのだ。


 ビーズを通した糸が弱いのでお部屋の飾りになる予定だが、せっかく作ったのでつけてみる。


『ネムネム:わぁ、ミニャちゃん可愛い!』


「ホント!? にゃふぅ!」


 好きな物がごちゃ混ぜにつけられて統一感がないと思われたブレスレットだったが、実際に細い手首につけてみれば、なかなか素敵だった。


 他の子のブレスレットも素敵だ。

 イヌミミ姉妹も賢者たちにお手伝いしてもらったので、ゴチャゴチャせずにいい感じ。


『ネムネム:あ、あのね、ミニャちゃん。それは糸が切れやすいからお外にしていっちゃダメなの。あとでお部屋に飾ろうね?』


 全員がとても気に入っているので、ネムネムは気まずく思いながらそう言った。

 ミニャはちょっとしゅんとした様子。


「そっかー。みんなー、切れやすいからお部屋に飾るんだってー」


 ミニャが告げると、みんなもしゅんとした。

 全員が初めてのアクセサリーだったのだろう。


 賢者たちは慌てて丈夫な糸の開発について議論するのだった。




 ブーンブーンとブンブンゴマの音が鳴る。

 瞬間楽しい風速が激高のブンブンゴマにみんな夢中だ。


 ブンブンゴマは、短時間で作れるので1人1個ゲット。

 板に色をつけられたらもっと楽しいのだが、残念ながら賢者たちはまだ絵具を開発できていなかった。なので、炭で模様を描いて、ちょっとだけそれらしくした。


 しかし、ブンブンゴマはあくまでも瞬間的に楽しいアイテムである。

 ビュオンビュオンする不思議と折り合いをつけた子から順番にブンブンゴマを置いた。


 そして、残るはオハジキ。


 特製の遊戯盤に座ったミニャは、ちっちゃな指で丸を作り、エネルギーを溜める。

 狙うは遊戯盤の中央で帯状に並ぶ丸の一つ。


「んー……にゃしゅ!」


 ミニャの指がズビシとオハジキを弾き、対戦者の賢者をダイレクトアタック!


「みゃー! 賢者様ごめーん!」


『ブリザーラ:だ、大丈夫っすよ!』


 スレッドでは『むしろご褒美』という意見が多い。次いで多いのは『避けないお前が悪い』。他人にとても厳しい。


 とりあえず、ゲームを中断して素振りをさせて、改めてプレイボール。


「入った!」


 オハジキが丸の中に入り、ミニャはニコパ。


 だが、このゲームはカーリングから構想を得ており、丸の中に石が入っても安心はできない。そして、対戦者のブリザーラは大人げなかった。


 ブリザーラは自分の手番でせっかく入ったミニャのオハジキを丸の中から弾き飛ばした。

 これにはスレッドではブーイングの嵐だ。夜道には気をつけろとまで言われる始末。


「むむむぅ! そういうこと!?」


『ブリザーラ:勝負の世界は非情っす。ミニャちゃん陛下でも手加減はないっす』


「よーし! ミニャ負けないぞー!」


 王はブリザーラの暴挙を許した。

 これが器の違いである。


 結果、ミニャが丸を7つ制圧し、ブリザーラを下した。

 ミニャちゃん陛下の周りで近衛隊によって勝利の踊りが踊られる。


『ブリザーラ:さすがミニャちゃんっす! 初めてなのに強かったっす!』


「ブリザーラさんも強かったよ。またやろうね?」


『ブリザーラ:もちろんっす!』


 他の子もプレイし、ギリギリで勝ったり負けたり。

 必ずしも勝たせるわけではない教育スタイル。


「賢者様、俺、ラッカとやりたい」


 ビャノが言った。

 喧嘩しないように賢者を対戦相手にしたが、絶対に不可なわけでもない。喧嘩して仲直りすることも大切なのだから。


 そんな賢者たちの心配とは裏腹に、ラッカとビャノはそもそも喧嘩なんてしなかった。

 ピシピシとオハジキを弾いて楽しそうにしている。


 それからもビーズで2作品目を作ったり、オハジキゲームを代わりばんこで遊んだりして、午後も楽しく過ごすのだった。

 なお、ブンブンゴマはたまにブンブンされて、コマの回転に納得すると放置される運命を辿った。そんなものである。




 夕方になると、子供たちは食堂に向かった。

 みんなご飯を食べるのが大好きなので、ワクワクしながら着席。ミニャを筆頭に小躍りしちゃう子もいる。


 賢者たちがせっせと食器を運び、ローテーブルの下で子供たちが受け取っていく。


「あっ、おもてなしだ!」


 水差しを見たミニャがパァーッと顔を輝かせて、さっそくぷにぷに筋肉を奮い立たせておもてなしスキルを披露した。コップによって量がちょっと違うのはご愛敬。


「ありがとうございます」


「ミニャお姉ちゃ、あぃがと!」


 年長組はミニャにやらせてしまったことに恐縮している様子だが、年少組は素直に喜んだ。


 ドリンクとお皿の準備が終わると、ローテーブルの上に乗った乙女騎士がミニャへ言った。


『乙女騎士:みんなが頑張ってミニャちゃんのおウチを作ってくれたので、今日はちょっと豪勢な夕飯です!』


「にゃんですと!?」


 サプライズ献立にミニャは吃驚仰天。

 慌てて乙女騎士の言葉をみんなに教えてあげた。


「「「わぁ!」」」


 すると、他の子供たちの顔が眩いばかりに輝いた。


 いよいよ賢者たちが料理をお盆に載せてご入場。

 キャッキャとしていた子供たちは、料理が運ばれてくるとお膝の上に手を置いて静かになる。いつものことだ。


 まず運び込まれてきたのは、鬼芋粉をクレープ生地のように薄く焼いた物。それがたくさん重なって、なんとも甘い香りが漂う。それがテーブルの2か所に置かれた。


 続いてサラダが入ったボウル。

 サラダと言っても山菜の葉っぱなのだが、子供たちのテンションは明らかにスンとした。エルフ姉妹も同様だ。この世界のエルフは野菜好きな種族ではないらしい。


 その次はホカホカな湯気が立ったスープ。

 一人一人の前に置くと、子供たちはキラキラ視線をスープにトッピング。


 そして、メイン料理となるお肉類が運ばれてきた。


 お肉で最初に出てきたのはコジュコジュだ。

 一口サイズで焼かれているが、まあこれは見慣れたものなので、子供たちもニコニコ程度。


 続いて湖で獲ったお魚。

 本日はお魚がメインではないが、ミニャにとってお魚はデザートなので宴会となれば出さないわけにはいかない。1人1匹ずつ、20cm程度の魚の塩焼きが出された。当然、お魚を見たミニャはズンズンダンスを踊った。


 最後にドでかいウサギの丸焼きが入場した。

 首と内臓と一部の骨が取られた丸焼きである。


「ふぉおお、アルミラージのお肉だ!」


 ミニャが一瞬にして見切った。

 母親が狩ってきたことがあるのだろう。首が落とされた丸焼きなのにわかるということは、日常的に見ていたのではないだろうか。


「えーっ、アルミラージの!?」


 スノーが驚愕する。


「あたし、アルミラージって初めて食べる!」


「わ、私もです!」


 シルバラやレネイアも初めて食べるらしい。

 年長組がざわつくので、年少組の期待感はマッハ。


 少なくとも食べてはいけないと魔物という認識は誰にもないようだ。

 強さや好戦的な生態から考えて、おそらくはちょっと良いお肉くらいの位置づけなのではなかろうか。


『乙女騎士:それにしても、ミニャちゃんはよくアルミラージだってわかりましたね?』


「だってアルミラージの匂いがするもん!」


 大きさや形よりも匂いらしい。凄く獣人らしい一面を見せた。いずれはイヌミミ姉妹も言い当てるようになるかもしれない。


『トマトン:それじゃあ、あたしたちが作るから見ててね』


 料理委員長のトマトンが言うと、ここ数日でかなり増えた料理人賢者たちが目の前で料理を始めた。


 ウサギ肉を魔法の包丁で切り分け、それを鬼芋の生地に野菜と一緒に乗せる。

 お料理委員会は、最近、少量ながら植物から油を採取することに成功していた。その油を用いて塩だれやハーブソースが開発され、本日はそれも使用。

 料理とタレが乗ると、鬼芋の生地を巻き巻きして、アルミラージのトルティーヤの完成だ。


 まず、トルティーヤ第一号は誰もいない上座へ。

 ミニャも賢者も信心深いので女神様の席を用意しているのだ。


 子供たちの目は第一号に向けられ、すぐに現在進行形でトルティーヤを作っている賢者たちの様子に釘付けになった。


 次に完成したトルティーヤは王たるミニャちゃん陛下へ。

 パァッと目を輝かせるミニャだが、良い子なのでみんなの分ができるまでステイ。


 そう間を置かずに全員分のトルティーヤができあがると、期待感をフルバーストさせていただきます。


「いただきます!」


「「「いただきます!」」」


 ミニャの号令に子供たちが続き、我先にとトルティーヤにかぶりついた。


「うっ、みゃーっ!」


 ペカーッと瞳を輝かせたミニャの口から美味いの鐘が可愛らしく鳴った。


「もももも! うま、うま! もぐもぐ!」


「美味しい! もぐもぐもぐ、美味しい!」


 子供たちにも大好評。

 特にエルフ姉妹のがっつきっぷりがヤバい。


「これがみんなの言ってたアルミラージかぁ。うまぁ!」


「美味しいですねぇ! お酒が飲みたくなります!」


「シルバラはお酒飲むの!?」


「ドワーフですからね!」


「あー」


 スノーは冒険者たちから話を聞いていたのか、アルミラージの肉を食べてニコニコだ。スノーと会話するシルバラは、賢者的にはアウトな年齢だが酒を飲んだことがあるらしい。

 飲酒が認められる年齢は地球でも国によってかなり変わるので、日本の常識で語るわけにもいかないだろう。


「姉ちゃん、美味しいな!」


「お姉ちゃん、美味しいね!」


「はははっ、二人ともほっぺについてるよ」


 そんなスノーにビャノとラッカが同じ位置に食べかすをつけながら笑いかけた。スノーとシルバラは双子の奇妙なシンクロ具合に笑った。


「はむはむはむ!」


「おいちぃ、ミニャお姉ちゃ、これおいちぃね!」


「にゃむ、美味しいね!」


 イヌミミ姉妹もシッポをパタパタ振りながら、ちっちゃなお口と手で一生懸命食べている。


『トマトン:みんな、どんどん作るよ! 1、2、3班は子供たちの分ね。4、5班は賢者たちの分! 賢者たちには良い部位じゃなくていいから! コジュコジュも賢者に回しっちゃって!』


 酷い指示が飛び、料理人たちがどんどんトルティーヤを作っていく。


『グラタン:水差し班、レネイアちゃんのお水がなくなりそうだよ!』


『ラディッシュ:スープ班、レネイアちゃんとマールちゃんのおかわりを持って来て!』


 戦場である。主にエルフ姉妹のせいで。

 なお、ジョブ料理人でなくてもお手伝いはできるので、水差し班やスープ班はそういった賢者が受け持っている。


 一方、料理班以外の賢者は小宴会を楽しんでいた。

 新人枠で120人、自由参加枠で150人という新人優遇の参加条件だ。


『シリウス:うっまーい!』


『オメガ:くわーっ、これが魔物肉か! 最高じゃんかよ!』


『シリウス:会社の近くのホテルに泊まったかいがあったよ!』


 オモチャを作った新人賢者たちも参加している模様。

 地球上では食べられない魔物肉を食べているわけで、会社の近くのホテルをわざわざ取るだけの価値は確実にあったはずだ。

 もちろん、クエストを取れなかった賢者たちは血の涙である。


 こうして、ミニャと子供たちの休日を目一杯楽しむのだった。

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