3-5 参拝


 翌日も新米賢者が増えた。

 本日は土曜日なので先輩賢者にも余裕があるため、前日よりも増加人数は多い。


 賢者登録最大数は女神様ショップのラインナップが開示された時は850人だったが、本日までの観測で1日50人ずつ増えていくと判明していた。なので、現在は1350人まで登録が可能になっている。


 しかし、クエストを発行するニーテストたち委員会の手に負えない人数まで増えるのは不味いので、毎日50~100人前後を追加して、ひとまずプラス500人だけ増やそうと考えていた。

 朝が来る頃にはプラス40人。昨日分を合わせて90人増。最初の300人から考えると30%の増加。女神がミニャに与えた能力の本領が発揮され始めた。

 こうして賢者たちはどんどん増えていくのである。


 さて、異世界に感涙している新米賢者たちは置いておき。

 この日は一昨日の定例会議で提案された作戦が実行されようとしていた。


『南の町からいつ人が派遣されるかわからないから先に牽制したろ作戦』である。

 その作戦に使用されるのは女神像なわけだが、それが予定通りに完成したのだ。


 朝ごはんを食べ終わったミニャたちは朝の会が終わると、湖方面へお散歩に向かった。

 広場と湖は500m程度離れているのだが、湖から200mほどの位置に女神の祠が設置された。完成した女神の祠を、まずは子供たちに見せようというわけである。


「あっ、あれだ!」


 ミニャがズビシと指さして、わーいと走り出した。

 ミニャが走れば護衛も走る。護衛が走ればイヌミミ姉妹も走る。


 広場から湖までは獣道より少しまともといった程度の小道があったが、そこだけは小さな広場になっていた。

 女神の祠はまるで地蔵の祠のように、この道を歩く人に向いていた。


「ふぉおおお、しゅっげー!」


「な、なんて綺麗な……」


 ブンブンと手を振るミニャの横で、ドワーフっ子のシルバラが震えながら言葉を絞り出す。子供たちがビシバシと情操教育されている横で、製作者である生産賢者たちはドヤドヤだ。


 それは神殿風の石造りの祠だった。

 高さは120cm、横幅と奥行きは100cm。円柱や平たい屋根は石で作られた花々で飾り付けられており、その円柱の奥には石の扉がある。使用された石は花崗岩で、磨きあげられてツルツルだ。


 お祈りをする人は円柱の外、祠から一段下がった石畳を使用することになる。

 石の扉は引き戸となっており、今はまだ閉まっていた。本当は外側に開く両扉にしたかったのだが、強度の関係で左右に開く引き戸である。


『ネコ太:それじゃあミニャちゃん、みんなと一緒にこうやって膝をついてね』


「わかった。みんな、こうするんだって」


 ミニャを扉の正面に座らせ、その後ろに子供たちも同じように座らせた。お世話になっているのは賢者たちも同じなので、護衛以外は膝をつく。


『ニーテスト:それじゃあ、工作王、ふともも男爵、頼む』


 このお披露目には珍しくニーテストも参加しており、式を始めるように頼んだ。

 工作王とふともも男爵の手によって、花々の彫刻が施された引き戸が左右へゆっくりと開かれた。


 祠は箱型なので普通なら中は暗いはずなのに、引き戸の隙間からは眩しい光が零れた。


「あ、あわ……」


「へ、へへぇ……っ!」


 その神々しい光景にスノーがあわあわし、エルフ姉のレネイアは開き切る前に平伏した。


 開き切った引き戸の向こうに現れたのは、希少石の花々に囲まれた純白の女神像だった。女神像は50cmほどで賢者たちと並ぶとかなり大きく見える。

 その頭の上にはミニャがプレゼントしたというエピソードになぞらえて、希少石の花冠が乗っていた。


 この祠には、仕掛けがひとつ施されていた。

 天井に水晶で作られた小窓があり、天井裏のスペースで光魔法のライトを使うと女神像と足元の花々に光が降り注ぐようになっているのだ。子供たちが見た光の原因はつまりこれであった。


 天井からではなく後光にしてはどうかという提案もあったが、女神像の製作者たちがこれに異を唱えた経緯があった。せっかく超絶綺麗に作ったのに、背後から光を照らしたら逆光になって見えないじゃないかと。生産賢者たちは良くも悪くもオタク気質だった。

 なんにせよ、ライデンからの『神秘的にしてほしい』というオーダーは叶えられた。


 子供たちの先頭にいるミニャは目を真ん丸にしてワタワタしたかと思うと、近くに座っているネコ太を両手で捕獲し、女神像へ向けた。


「女神様。ミニャ、賢者様と一緒に頑張ってます! 素敵な魔法をくれて、ありがとうございます!」


『ネコ太:え、あ、あわ……ネコ太です! ミニャちゃんと一緒に頑張ってます! 賢者に選んでくださり、心から感謝しています!』


 ミニャの元気なご挨拶に、ネコ太もプラーンとしながら思わず挨拶した。

 ネコ太の言葉に続くように、賢者たちもフキダシで感謝の言葉を捧げた。


『ニーテスト:幾度か女神様の威光に縋りました。そして、今回もお借りしたく存じます。事後報告となり申し訳ございません』


 そんな中で、ニーテストは他と違って謝罪をした。

 拉致事件から幾度か、女神の威光を借りた。それで悪事を働いているわけではないが、黙って威光を借りるのはあまりよろしくないだろう。


 ニーテストはウインドウの女神様ショップから『お布施』を選択した。そして、お仕事ポイント3000点を奉納すると、静かに頭を下げた。

 同じく女神の威光を借りる作戦の立案者であるライデンもまた同じように3000点を奉納した。


 他の賢者たちもこの機会にお布施をする者が多かった。

 さすがに3000点を出したのはこの2人だけだったが、大体の賢者が1000点のお布施を奉納した。賢者に選んでくれたという恩義をみんな感じているのだ。


『ニーテスト:むっ』


『ライデン:ござる!?』


 3000点を奉納したニーテストとライデンに、揃ってウインドウにお知らせが入った。

『レベル2の魔法が解放されました』と。


 しかし、ここで検証だ情報だと騒ぐわけにもいかないので、2人はちょっとそわそわしながら頭を下げた。


 どうやら一定額をお布施をすることで、新たな魔法が解放されるらしい。100点などでは解放されないのはすでに検証済みなので、3000点までのどこかで一定額を越えたのだろう。

 お仕事ポイントの説明で『お仕事ポイントは異世界パトラシアに還元される場合がある』と明言されているので、つまり、この世界の循環の輪の中に入った者だけが、より高度な魔法の行使が許可されるのかもしれない——と、ニーテストは考えた。


 ニーテストたちにプチイベントが発生した時であった。

 ふいに女神像から神々しい光が放たれた。


 すわっ、女神様降臨か!? と賢者たちが期待する中、その光は女神像から抜け出してミニャの胸元で一つの石板に姿を変えた。


「わぁ、にゃんだこれぇ!」


 ミニャは石板を掲げてネコミミをピコピコした。


「や、約束の石板です……」


「約束の石板だ……」


 レネイアとシルバラが息を呑んだ。

 なにそれなにそれぇと賢者たちが2人に詰め寄る。


「え、えっと、森の開拓の許可を得た時に女神様から授かる石板です。私たちが暮らしていたグルコサの町もそうやって女神様から森の開拓を許されて作られたんです。あの町以外にも、女神の森に隣接する町の多くはそうやって許可を貰って森を切り開いて作られたと聞きます」


「その石板にどこまで開拓していいか地図で描かれているはずです」


 レネイアに続き、シルバラがそう教えてくれた。

 ちなみに、グルコサの町とはレネイアたちがいた南の町のことだ。


 シルバラのいう通り、石板には文字と共に地図が描かれていた。

 それによれば、南は大滝の崖まで、東は湖まで、西はグルコサの町に堤防がある大きな川まで、北は未確認の情報だったが15kmくらい先にある小さな泉まで。まとめると南北に20km程度、東西に9km程度の開拓が許可されたことになる。


『ニーテスト:こんなものがあったのか。というか、もう結構開拓しちゃったんだが』


『ライデン:主殿は元からこの森にいたわけだし、最初から許可は降りていたのではないでござるかね。これから証明が必要な時が来るから、改めて授けられたのかもしれないでござる』


『ニーテスト:あるいはミニャがこの土地に村を作ることになり、女神を祀ったからか。なんにしても良い物を貰ったな』


 女神様からの粋な計らいを受けては賢者たちの財布の紐も緩むというもの。お布施がブンブン奉納された。投げ銭文化が変なところで作用している。


『工作王:そうだ。少し時間があったから、ミニャちゃんにプレゼントがあるんだ。これをあげよう』


 工作王はそう言うと、祠の中から鮮やかな翡翠色の希少石で作られた珠をミニャにあげた。ビリヤード球くらいの大きさで、工作王がするその珠の説明を聞いたライデンは大至急もうひとつ作るように要請した。


 こうして女神像が完成した。

 これにより、ミニャが南の町の人とコンタクトを取る時が近づいていた。


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【4月18日】雑談スレ PART2


1、名無し

 ここは雑談スレ。先輩も新人も自由に書き込んでくれ。

 基本的に日付変更でPARTをリセットするから、スレ立てする人は気をつけて。

 次回は970を踏んだ人がスレ立てよろしく。

   ・

   ・

   ・

116、名無し

 ミニャちゃんたちとのお散歩、超楽しかった!


117、名無し

 うぉおおおお、俺を招待してくれた友人に感謝を! 女神様とミニャちゃん陛下にはその100倍の感謝を!


118、名無し

 ミニャちゃんとイヌミミ姉妹のフリフリおシッポについていくのに夢中な人生になりそうな予感!


119、名無し

 新人だけど僕も参拝に参加してきた! 僕、神様の像を見てこれほど感動したのは初めてかもしれない!


120、名無し

 いいなー! 俺、知らなくて通常クエスト受けちゃったよ!


121、名無し

 昨晩の定例会議で告知されてたぞ。


122、名無し

 僕も定例会議で見て、絶対に受けようと思って頑張った。


123、名無し

 マジか。定例会議って参加した方が良い感じ?


124、名無し

 俺の優先順位はクエスト>寝る=定例会議>風呂や食事、みたいな感じかな。定例会議は議事録が作られるから参加しなくても問題ないけど、翌日に行なわれる面白そうなクエストの情報は一番に定例会議で出ると思った方が良い。


125、名無し

 あと意見や要望を言いたい時は定例会議が一番いいぞ。提案したことが通った場合、優先的にクエストを受けられるようにしてくれる。ジャスパーとか今じゃ希少石採掘のリーダーだからな。


126、名無し

 へえ、そうなんか。今日の夜は参加しよ。


127、名無し

 先輩たちはこんな凄い作品を作れんの!? なんかレベルアップ的なことしてるの? ちなみに俺も生産属性!


128、名無し

 この世界の召喚術は召喚された生き物の成長速度を上げるらしいぞ。たぶん、それで器用さが上がっているんだと思う。女神様ショップが使えるようになると、この世界で得た力を本体に移せるようになるから本体もヤバヤバになる。


129、名無し

 これがマジでヤバい。俺とか何年も運動してなかったのに、全然息切れせずにランニングできるようになったからな。まあその分、異世界で相当頑張ったけど。回数を重ねればさらにパワーアップすると思う。


130、名無し

 うぉおおおおお、絶対に1万点貯める!


131、名無し

 先輩たちがなんかウインドウでしてたのはなに?


132、名無し

 お前らも女神様ショップのラインナップだけは見られるだろ? そこにある『お布施』だ。


133、名無し

 女神様にスーパーチャットした感じか。


134、名無し

 まあそうだな。


135、名無し

 聞いてくれ! 2500点お布施したら、魔法レベルが2に上がった!


136、名無し

 なにぃ!?


137、名無し

 すぐお布施の追い金をする!


138、名無し

 いま俺の闇の種が花を咲かする時!


139、名無し

 ていうか2500点もお布施したの!? 3日分の給料だぞ?


140、名無し

 ニーテストとライデンは3000点らしいぞ。魔法レベルのことを報告したら、すでに知ってた。女神様の威光を借りて作戦を展開したからだって。ちなみに、このあとに全体アナウンスで告知するって。


141、名無し

 女神様のことを女神って呼ぶくせに変なところで誠意を見せる奴だな。


142、名無し

 なんにせよ、これで闇属性の時代が来るな。俺もお布施を上乗せしよう。


143、名無し

 それも最高のニュースだが、それ以上に開拓許可が女神様から降りたことだよ。これって完全に王権神授だろ。


144、名無し

 ミニャちゃん村長からミニャちゃん大帝にクラスチェンジだ! ネコミミ帝国バンザイ! ミニャちゃん大帝バンザイ!


145、名無し

 わずか2日でクラスチェンジか。やはり子供の成長は早いな。


146、名無し

 レネイアの話だと色々な国で許可が降りているみたいだし、さすがにこれだけで王にはなれないんじゃね?


147、名無し

 レネイアちゃんから約束の石板の仕様をよく聞いた方が良いと思う。南の町は明らかに侵略に備えた造りをしているし、約束の石板が絶対の防御とは限らない。


148、名無し

 それもそうだな。午後から作戦を実行するみたいだし、ちょっとニーテストにその辺りのことを忠告しておくか。


149、名無し

 でも他の町は約束の石板だけだけど、ここには女神の使徒もいるぜ? あっちはプリンだが、こっちはプリンアラモードだ。


150、名無し

 ミニャちゃん最強! 賢者最強!


151、名無し

 おっと、クエストの時間だ。今日も一日頑張るか!


152、名無し

 土日は人が多いからやっぱり一番楽しいな。


153、名無し

 僕、今日明日はずっとクエスト受けるつもりです!


154、名無し

 新人か? 安心しろ、みんなそうだから。


155、名無し

 それな。俺も土日は取り貯めていたアニメを見る日だったけど、今期からはほとんど見てないわ。昔から追ってた作品の1本だけだ。それも生放送を見ながらだし。


156、名無し

 やはりネコミミ幼女との異世界生活はキラーコンテンツだったんだ……(; ・`д・´)


157、名無し

【悲報】俺氏、賢者の勧誘のために今日はあまりログインできない模様。


158、名無し

 そうか、これからは勧誘員がチラホラ活動するのか。陰キャな俺は気楽なもんだぜ! がんばえー!


159、名無し

 殴りてぇ。


160、名無し

 俺も勧誘は無理だな。上手く説明できる自信とか皆無だわ。


161、名無し

 あ、あの、いせ、異世界があって、あのその、みんなでネコミミ帝国を作っててへへへっ……。


162、名無し

 知らない人にそんな説明されたら逆に優しくなるわ。


163、名無し

 お茶噴いたけど、残念ながら俺もそんな説明しそう。


164、名無し

 いよいよ大型新人が入ってくるのか……。


165、名無し

 おいおい、俺も新人だが大型を越えた超新星だぞ? いや、闇属性だから全てを飲みこむブラックホールかな。


166、名無し

 サバイバーやニーテストくらいバグったヤツだったら超新星だな。


167、名無し

 あとは工作王とかふともも男爵、ハイイロあたりの人形が作れたら超新星でもいいぞ。ネムネムみたいな一芸特化でもでも可。


168、名無し

 RPGで数々の世界を救ってきたぞ。俺がいるからにはお前らも大船に乗っていろ。


169、名無し

 バカがっ! そんなヤツは闇属性に腐るほどいるわ。どんだけニートがいると思ってんだよ。


170、名無し

 おい、闇属性を貶すのはやめろ。魔法レベル2になって、これからとんでも性能になるんだぞ。

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