3-4 新拠点建設中
「みんなー、お昼ご飯だよー」
「お昼ご飯? お昼にもご飯が食べられるの?」
ミニャの呼びかけに、スノーがキョトンとした。
昨日はお昼近くに起きたので、スノーたちは朝飯兼昼飯と夕飯しか食べていないのだ。
しかし、今日からは違う。朝、昼、晩と3食出る。なんならちょいちょいおやつも出る。
本日のお昼ご飯は、鬼芋を粉状にして焼いたガレットに近いものだった。
それに山鳥の肉や山菜を巻いて提供された。
「うままま!」
甘みのある生地とさっぱりした山鳥の塩焼きはよく合い、ミニャちゃん陛下も満足じゃ。当然、お昼からしっかりとしたものが食べられた子供たちもニコパである。
ちなみに、そんなお昼ご飯には、朝に参加できなかった新米賢者をミニャへの挨拶のために参加させていた。こちらもミニャと新米賢者双方が円満に顔合わせできている。
お昼ご飯に喜んでいる子供たちの裏側で、賢者たちはスレッドで話し合っていた。
【432、ユズリハ:子供たちが増えたから、少し鬼芋が不安ね。たぶん、『生命循環』で育てているのが育つよりも早く、消費しきっちゃうわ】
【433、ニーテスト:別種の芋を発見したという報告があったがあれはどうなった?】
【434、トマトン:食べられるけど、主食にするにはちょっと味が悪いんだよね。ちなみに今日のお昼ご飯はそのお芋の粉も混ぜて嵩増ししてるよ】
【435、ニーテスト:やはり南の町との取引は重要課題か……。とりあえず、みんなには悪いが俺たちが食べる鬼芋は減らそう】
鬼芋は森塩の影響下で群生していたが、さすがに自生している分だけでは9人を養うのは無理があった。
回復属性が『生命循環』という便利な魔法を使えるのですでに鬼芋は育て始めているが、ユズリハの報告通り、消費の方が早そうだった。
ちなみに、話題に上がった別種の芋はつい最近発見されたものだが、芋というよりも根っこに近いもので、味はあまり良くなかった。しかし、粉にして鬼芋の粉と混ぜるというアイデアはなかなか見事で、鬼芋の消費量は抑えられそうだった。
さて、お昼ご飯を食べ終わったら30分の自由時間。
いま、ミニャは真剣な顔をして、両手を少しずらす形で合わせていた。
その手の間には賢者たちが作ってあげた竹とんぼが。いや、木製なので正確には竹とんぼではない。
旧拠点では仕事ばっかりやらせるのは可哀そうということで、午後になると遊んでいたミニャだが、こういった日本の昔の遊びを賢者から教わって楽しんでいた。
精神を集中したミニャはカッと目を見開いた。
「んー……にゃしゅ!」
ポテン!
ミニャは飛ばずに落下した竹とんぼを無言で拾い、再びセッティング。
このプレイングに「良いもの見せてあげる!」と言われた子供たちは困惑顔。
『くのいち:ミニャちゃん、手が逆だよ逆!』
「むむっ、こっちだった! んー……にゃしゅ!」
ミニャは手をこすり合わせる。すると、竹とんぼはピューンと空に舞った。
「と、飛んだー!」
「すげーっ!」
子供たちから驚愕の声が上がる。
その中でも一番テンションを上げたのはドワーフっ子だった。
ミニャがむふぅとしたところで、賢者たちが人数分の竹とんぼを持って登場。
『乙女騎士:ミニャちゃん、みんなにもやり方を教えてあげてくださいね』
「はーい!」
これもまた賢者たちの作戦である。
子供たちと遊ばせることで、ミニャへの好感度を爆上げさせるのだ。
「ここにこうやって挟んでねぇ、にゃしゅって! にゃしゅってやるの!」
そんなふうに楽しそうに説明するミニャの姿を見て、賢者たちはやはり同年代の友達がいるのは良いことなのだと再認識した。
30分休憩が終わったら、今度は40分のお昼寝タイムだ。
ご飯を食べた後にポカポカ陽気の中で竹とんぼを追いかけて走り回ったので、イヌミミ姉妹と双子兄弟は物凄く眠そうである。
「おいらたちも本当に昼寝なんてしていいの?」
スノーがへにょんとした顔で尋ねた。待遇が良いことに落ち着かないのだろう。
しかし、昼寝に年齢など関係ないのは賢者たちがその人生で立証しているので、なにも問題ない。むしろ寝てくれた方が精神衛生上助かる。
賢者たちは腕でマルを作って、スノーの質問への返答とした。
このジェスチャーは、ミニャが文字の読めないスノーたちに教えたものだ。
質問に対して、良いならマル、ダメならバツで示す単純なものである。どうしてその答えなのか知りたいのなら、ミニャやレネイアを通してやりとりすることになる。
ミニャたちが昨晩泊まった寝床はまだ残されているので、子供たちはそこですやすや。
その間も賢者たちは作業を続けた。
子供たちは予定よりも少し多めの50分ほどお昼寝をしたが、お昼寝と言いながら7、8時間は平気で寝る賢者も多数いるので可愛い誤差である。
目覚めた子供たちは顔を洗ってしゃっきりすると、ミニャちゃん陛下の昼の会に参加した。
「今からお家の柱や屋根を作っていきます。木材は賢者様たちが運んでくれて、こうやって置いてあります。大きな穴もあるので、足元にはよく注意しましょう!」
「「「はい!」」」
子供たちは午前中の仕事を通して、ミニャをリーダーと認めたようで、お返事も気合十分だ。
さて、昼の会というか昼礼でミニャが言ったように、午前中に加工された木材が建設予定地に運び込まれていた。あとはこれを組み立てていくだけとなっている。
「この棒はここの穴ねー」
「それじゃあ、おいらたちがやるよ」
「じゃあ、あっちを持ってあげて。賢者様はちっちゃいから棒を立てるのが苦手なの」
ハイスペックなフィギュアに宿った賢者たちは力持ちだが、背が低いので地面の穴に長い棒を立てるという単純な作業の適性が非常に低かった。ミニャはそういう賢者たちの弱点もしっかり覚えており、立候補してくれたスノーへの指示も的確だった。
イヌミミ姉妹は、自分たちが測量した場所に柱が1本立つたびにシッポをパタパタとさせ、棟木が通されて固定されるとエルフ妹がぴゃーっと目を真ん丸にする。
「次はこれです?」
「うん、そうだって!」
ドワーフっ子は物作りに対する理解力が高く、すでに生産賢者たちをワクワクさせていた。賢者たちは、ドワーフっ子と一緒に剣などを作りたいと思っている様子。ロマンチストである。
「シルバラ、そっちはいいか?」
「うん、大丈夫」
スノーはシルバラと一緒に賢者が固定してくれるまで木材を支えたり、率先してお手伝いしている。
「レネイアちゃん、いくよー」
「は、はい!」
「「せーの!」」
別の場所では同じ仕事をミニャとレネイアも行なっており、ミニャ1人の時よりもずっと早く組み上がっていく。
「はい、賢者様!」
「うんとうんと……次はこぇ!」
パインやルミーも頑張ってお手伝いをしている。
重たい物を持たせるのは危ないので、屋根の骨組みに乗った賢者に枝やツルを渡す係だ。木属性の賢者は枝やツルで木材を固定することができるのだ。この方法だと、下手な紐よりもよほど頑丈になる。
パインは特に考えずに渡しているが、ルミーの方はこだわりがあるらしい。
「「賢者様、はい!」」
双子のビャノとラッカもイヌミミ姉妹と同じお手伝いを別の場所でやっている。
この双子は、ラッカが大人しい子でビャノが活発な子と性格が反対だったが、行動がシンクロすることがよくあった。性格が関わらない返事や小さな所作などはかなりシンクロした。
女性賢者たちにこれがかなり刺さっていた。きっと、あと7、8年もすれば彼女たちの妄想の餌食になるのだろう。
さて、前回の旧拠点はワンルームを作り、そこから十字型の廊下やお風呂場、おトイレを作って拡張していったが、この十字型の廊下が無駄だったと賢者たちは反省していた。
とはいえ、旧拠点はミニャの寝床を急いで作る必要があったため、拡張性が高い十字型の廊下になったのは仕方なくではあったのだが。
今回はその反省を踏まえ、廊下を極力短くし、日本の家のように無駄のない屋根にしようと考えていた。
子供たちが測量してくれた土地は4つだが、そのうちの3つはそれぞれがすぐ近くだった。120cmしか離れておらず、つまり、ごく短い廊下で繋がったお部屋が3つある建物が作られる予定なのだ。その分、屋根を支える柱も多く、全体的な骨組みは複雑になっている。
なお、残りの1つは単独の建物になる予定だ。
子供たちの手伝いもあって、夕方には4つ分の家屋の骨組みが完成した。
今日のお仕事はここまでで、本日は昨日と同じ借り宿舎で寝ることになる。
まだ骨組みだけだが、そこからでもどんなふうになるのか想像できるので、子供たちは大はしゃぎだ。続きを早くやりたいといったような子供らしい顔をしている。
「ねえねえ、ミニャお姉ちゃん。ここ! ここ、ルミーたちのおウチ?」
「こ、こら、ルミー!」
大きなおウチを指さして無邪気な質問をするルミーに、スノーが慌てて注意した。
問われたミニャはむむむっとした。
おウチを作るのが楽しくて、誰のためのおウチを作っているのか考えもしなかった。
「ねえねえ、ネコ太さん。これ誰のおウチ?」
ミニャは昼からやってきたネコ太に尋ね、その答えをルミーに教えてあげた。
「ここはみんなでご飯を食べるための食堂なんだって」
「ご飯を食べぅとこぉ! みんなでここでご飯たべぅの!?」
「うん!」
「ふぉおおおお!」
現状、雨が降ると調理が面倒になるので、まずは公共の場として食堂が作られる予定だ。部屋が3つあるのは食堂のほかに調理場と倉庫のためである。
ミニャは賢者から教えてもらい、家を建てる順番をルミーに教えてあげた。
「次にまたこれと同じくらいの建物を4つ作って、1つはミニャと賢者様ので、あとの3つはルミーちゃんたち、レネイアちゃんとマールちゃん、シルバラちゃんにそれぞれ住んでもらうの」
「ホント!? わーい!」
「こ、こんなに大きな家を作ってもらえるの?」
「うん! 賢者様は凄いんだから!」
ミニャはえっへんと胸を張った。
「だ、だけど、おいら、何を返せばいいかわからないよ」
スノーがしゅんとして言った。
ミニャはむむむっとしてネコ太を見た。
ネコ太の返答を読んだミニャは、それをスノーに告げた。
「これから村はどんどん大きくなるから、自分にできることを頑張れば良いんだよってネコ太さんが言ってる!」
「自分にできること……」
「うん。ミニャはねーえ、賢者様と糸を作ったり、布を作ったりしてるんだ。スノーちゃんにもそういうのを手伝ってほしいな!」
「わかった! おいら、頑張るよ!」
「ルミーもがんばぅ!」
ふんすとするスノーとはーいと手を挙げるルミーに、ミニャはニコパと笑うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます