3-3 新拠点建設開始
新拠点の建設が始まった。
「子供たちはミニャのところに集まってぇ!」
パトラシア語でミニャが子供たちに呼びかける。自分自身も子供なので、賢者たちからするとほっこりする姿だ。
全体的にすぐに集まるが、イヌミミ姉妹は子供らしく駆け足だ。そのシッポはパタパタと振られており子犬そのもの。
「これからみんなでお家を作るんだけど、どんなお家を作るか教えるね」
「わぁ、どんなのー?」
「どんにゃのー?」
イヌミミ幼女のパインが問うと、その妹のルミーも真似っこした。
良い感じの反応を貰い、ミニャは良い気持ちになった。
「ミニャが使ってるこの板はウインドウっていうんだけど、賢者様も使えるの。みんなも見えるよね?」
ミニャの問いかけに子供たちは頷いた。
「じゃあ近衛隊のみんな、見せてあげて」
ミニャの指示で子供一人につき一人の賢者が、ウインドウを開いて『新拠点設計図』を見せてあげた。
それは完成図の外観イラストと間取りが描かれたものだった。ミニャにも理解しやすいようにされているため、子供たちにもわかりやすい。イヌミミ姉妹や双子には間取りは少し難しいかもしれないが、年長組には理解できるだろう。
「これは賢者様が描いてくれたお家の設計図だよ。賢者様はこんなふうに色々な物の設計図を描いてくれるんだ!」
ミニャはどうだ凄いだろとばかりに胸を張った。
賢者様たちは自慢のお友達なのである。
それに対して一番目を輝かせたのは、ドワーフっ子のシルバラだった。熱心に家の間取りを見ている。
「これから賢者様たちが穴を掘ってくれるから、ミニャたちは土地の広さを測るお手伝いをするんだよ。これ、ここの線を測るの」
ミニャが自分のウインドウの間取り部分を指さすと、近衛隊も同じように指さして教えてあげた。
ミニャはカンペを読まずにこんな説明をしていた。
今からあの作業をするよと言えば、キュピンとできるほどミニャはお家作りの達人なのである。
さっそく賢者たちが測量道具を運んできた。
数本の棒やミニャと賢者たちが作った糸で作られた巻き尺などだ。新アイテムとして、筒の中に十字の糸が張られたスコープもある。
ちなみに測量基準点は広場に建てた石柱とした。これを設定しないと測量は難しいのだ。
「じゃあレネイアちゃんはここで棒を持っててね」
「は、はい!」
新拠点はただ闇雲に家を作ればいいというわけではない。道路や水路、畑、隣の家を作ることを考慮しなくてはならないのだ。そのため、家の一辺の壁であっても適当に作ってはならない。
……というのは賢者たちの都合で、子供たちからすれば、これから始まるのは面白そうな遊びである。
「パインもお手伝いしたい!」
「ルミーも! ルミーも!」
「じゃあマールちゃんはこれで、パインちゃんとルミーちゃんはこれね」
ミニャはマールに第二地点の棒係を、イヌミミ姉妹に、目印の糸係を任せた。
それは賢者の指示ではなかった。
ミニャはこれまで賢者たちに教わったことをしっかりと覚えており、これからやることをちゃんと理解しているのだ。
これには近衛隊もビックリである。これが王の資質……っ!
しかし、ミニャも初めて見る道具はあった。
巻き尺やスコープはミニャがお家作りをしていた時にはなかった物だ。だから、それらの割り当てはせずに、賢者たちに任せた。
賢者が巻き尺やスコープを用いて位置を調整し、マールとレネイアが2点に棒を立てる。その棒の間にイヌミミ姉妹が糸を張り、その糸に添うようにして土属性賢者が『穴掘り』を真っすぐ行なった。
「「ふぉおおおおお!」」
自分が張った糸に沿って真っすぐな溝ができて、イヌミミ姉妹は凄い達成感を味わった。それを横で見るミニャはうんうんとお姉さんぶった。
「そうしたら今度はスノーちゃんが棒を持って、あっちに行くの。ラッカ君とビャノ君は新しい糸を持ってね」
「う、うん、わかった!」
「「はい!」」
マールを起点に、レネイアから90度の方角にスノーを派遣。スノーが持つ棒の位置をぴったり90度になるように修正して2ライン目を掘る。
人員を移動させつつ同じ要領で、あっという間に5m四方の土地が測量された。
「わー!」
「ここルミーとパインお姉ちゃんがやったところ!」
自分の仕事ぶりがよほど嬉しいのだろう、イヌミミ姉妹は尻尾をパタパタさせて近くの賢者に教えてあげた。賢者たちもピョンピョンと跳んで褒めてあげる。
「あとは賢者様がここを掘ってくれるからもうここはいいの。次を測りに行くよー」
ミニャが言う。
これは乙女騎士に教えてもらったことだ。
今までのミニャは1つずつしか測量をしたことがなかったので、その場を賢者に任せて自分たちは別の場所を測量していくという発想は出てこなかったのだ。ミニャはまたひとつレベルアップした。
ミニャが子供たちに教えている間、先輩賢者たちも新米賢者に教えていた。
『チャム蔵:俺たち土属性は建築適性が二重丸だ。『穴掘り』がとにかく便利でいくらでも仕事があるから、今回の作業でマスターしてくれ。とりあえず、この穴はアイツらが掘るからどんな感じか見ていてくれ』
フィギュアに宿った土属性の賢者たちが一列に並び、穴掘りを行使しながら後ろに下がっていく。20cm×20cm×20cmの穴が人数分だけ一気にできあがる。もちろん魔法は1回では終わらず、どんどん行使されていく。
これには新米賢者や次の測量場所から見ていた子供たちも大興奮。
『チャム蔵:難しいのは壁際だ。もう魔法図鑑は熟読していると思うが、穴掘りには『圧縮』と『ストック』があるんだ——』
チャム蔵は作業に加わらずに、新米賢者たちに作業のポイントを教えていた。
土属性に限らず、賢者の仕事はオーバーワーク気味なので、見て盗めなんてやり方では間に合わない。出し惜しみせずに、教えを乞う者にはどんどん教えていった。
『チャム蔵:よし、そろそろやってみようか』
チャム蔵の指示で列の真ん中あたりの先輩賢者と新米賢者を交代させて、実践していく。
たかが穴掘りと云うなかれ。
新米賢者からすれば目の前の土が魔法の力によって消える現象は超楽しかった。
4つの正方形の土地が測量されると、そこは賢者たちに任せて、ミニャは子供たちを率いて次の作業現場に向かった。
別の場所では、様々な属性の賢者たちが建設用に貯めていた木材を加工していた。
貯蓄している木の種類はいくつかあるが、建材として使うのは扱いやすいコルンの木である。
「ミニャたちはなにするぅ?」
ミニャが問うと、近衛隊はタガネや巻き尺を持ってきた。
それを見たミニャはキュピンとして、全てを理解した。
「ここではお仕事が2つあるんだよ。ミニャが見本を見せるから、みんなでどっちかをお手伝いしてあげてね」
まず、ミニャはタガネを手に取った。ミニャが超得意と自称する樹皮剥がしである。
多くのコルンの木は樹皮がすでに剥がされていたが、樹皮がついている木もまた多くあった。
賢者たちはコルンの木を作業台に乗せ、風のナイフで樹皮に切れ込みを入れていく。
その作業が終わると、ミニャは定位置について作業の説明を行なった。
「これはコルンの木の皮を取るの。こうやってねぇ、賢者様が木の皮を切ってくれるから、ここにこうやってコレを入れて、石でここをトントンってやるの」
こういうの得意と言うだけあって、ミニャはしっかりと作業を覚えていた。
タガネを樹皮の切れ込みに噛ませて、タガネのお尻をトントンと石で叩いた。
その隣ではモグも一緒にお手伝い。モグラの爪で樹皮の端をめくり、タガネを入れやすくしてくれる。
ある程度樹皮が剥がれたところで、「みんないーい?」とミニャから号令がかかり、賢者たちと呼吸を合わせてコルンの樹皮をベリベリと剥いた。
綺麗に樹皮が剥がれて、子供たちの目がキラキラと輝く。箸が転んでも笑う年頃である、樹皮が綺麗に剥がれるなんて特殊なイベントを見ればテンションも上がるというもの。
「それじゃあ、あたしがやります」
「わぁ、パインもやりたい!」
「ルミーもやぅ! ルミーもやぅ!」
「コイツらだけじゃ心配だから、おいらが一緒にやるよ」
「じゃあお願いねー!」
シルバラが名乗りを上げて、すぐにイヌミミ姉妹やスノーも立候補した。スノーが立候補したのは、イヌミミ姉妹には少し難しそうだからだ。
「じゃあほかのみんなはこっちねー」
ミニャは次に巻き尺を手に取った。
ミニャにとっても巻き尺は初めてのアイテムだが、難しい物ではないのですぐに理解した。
こちらの作業はシンプルで、樹皮が剥がされたコルンの木の長さを測って目印をつけるお手伝いだ。最終的にその目印の部分で切るが、それは賢者たちが魔法で行なう。
こちらは双子のラッカとビャノ、エルフの姉妹が担当した。
巻き尺が2つ用意され、兄弟と姉妹で分かれて、賢者たちにサポートされながら作業を開始。
説明が終わったミニャは、急いで樹皮剥がしの作業へ向かった。ミニャは樹皮剥がしが好きだった。
エルフの姉妹だが、2人ともパトラシア文字が読めた。
姉はかなり読め、妹は少し読める程度だが、これはかなり大きなことだった。
というわけで、レネイアはミニャの代わりにこちらの班で賢者と意思疎通をして、作業を進めてくれた。
また、レネイアはスラムにいたとはいえミニャとは違って都会人だ。その知識はミニャより豊富だろう。この世界の魔法の仕組みや女神の教え、町のことなど聞きたいことは山ほどあるので、あとで時間を作って聞き取り調査をすることが決定した。
町で不安いっぱいな生活をし、森の中でもこの先どうなるのか不安いっぱいだった子供たちだが、ミニャや賢者たちとお仕事をして、そんな不安は吹き飛んでしまった。
良い笑顔で笑って活き活きとお手伝いに精を出す。
作業はどんどん進んでいった。
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