第3章

3-1 増殖を始めた賢者たち


 ついにミニャのオモチャ箱に『女神様ショップ』が解禁された。


 さっそく賢者たちはいくつかの集まりを作って、検証を開始した。


 事前の話し合いで、まずは日本にいる本体でもホロウインドウが使えるようになる商品を買うことを義務にした。

 あまり義務は作りたくない賢者たちだが、ウインドウが使えれば、たとえ拉致されたとしても異世界に避難できるはずなので、防犯上の理由でこれだけは全員が真っ先に取ることで合意となった。

 とはいえ、想定しているものとは違ったら取り損なので、まずは検証から始まった。


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628、名無し

 うぉおおおお! マジでウインドウが使えるじゃないですか!


629、名無し

 パソコン一台でやりくりしてたから、これはマジで助かるわ。


630、名無し

 思考入力も可能だな。これはもうパソコンはいらんかも。


631、名無し

 いや、ネットで調べ物ができないのはきついし、回線は繋げといた方が良いぞ。


632、名無し

 異世界で使うウインドウとちょっと違うな。異世界のは『アラート』なんてなかったぞ。


633、名無し

 見た感じ、緊急時に寝ている人を起こせる機能だと思う。事件に対して一定数の賢者がボタンを押せば、全体に対してアラートが鳴るみたいよ。オンオフも可能だな。


634、名無し

 クソ便利やん。俺、誰とも電話番号交換してないから、昨日の救出作戦を知らずに寝てたんだよな。


635、名無し

 ( ;∀;)


636、名無し

 次からは頑張れ!


637、名無し

 おいおい、それよりも本体でも生放送機能が使えるぞ!


638、名無し

 俺、まだクエスト中だから買えないんだけど、それガチで? オンオフは?


639、名無し

 もちろんオンオフ機能付き。デフォルトはオフだから安心しろ。


640、名無し

 ミニャちゃんも見られるのなら夢が広がるな!


641、名無し

 アニメ見せてあげたい!


642、名無し

 俺が見ているアニメをミニャちゃんも一緒に見るとか、完全に俺がミニャちゃんの座椅子にされちゃってる構図じゃん。夢みたい!


643、名無し

 生放送の切り忘れとか鏡への反射で悲しい事件が起こらなければいいが……。


644、名無し

 それはマジで気をつけないとヤバイな。とりあえず、設定周りをよく調査した方が良いと思う。


645、名無し

 目的意識を持って使うようにしたらいいと思う。犯罪を目撃した瞬間に生放送に切り替えて犯人をお前らに知らせるみたいな。


646、名無し

 いやー、私刑に手を出すと組織として変な方向に向かいかねないし、そういうことには使わない方が良いと思う。


647、名無し

 なかなか難しい機能だな。ちょっとコイツは運用をみんなで話し合った方が良いと思う。


648、名無し

 うぉおおお、クエスト終わりに絶対買おう!


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 ウインドウを購入したら、次なる購入に向けて発行されまくっているクエストを受けていく。

 パワーアップ商品は召喚状態でなければ購入できないので、ごく短時間で入れ替わるクエストがたくさん発行されているのだ。


 こうして、賢者たちのお祭り騒ぎは続く。




 一方、そういった検証から少し離れて活動している賢者たちもいる。

 新米賢者を招待した賢者たちだ。

 自分も何かを購入したいが、新米賢者のお世話をしてやらなくてはならないので、そちらを優先しているのだ。


 日を跨ぎ1時。


 旧拠点の中で48人の賢者たちが一斉に起き上がった。

 48人のうち、22人は新米賢者、21人は彼らを招待した賢者、残りの5人はお世話の手伝いをする賢者だ。なお、1人だけ2名を招待した賢者がいる。


『ホクト:ふぉおおおおお!』


 ホクトは新米賢者の1人として起き上がった。


 まず目に飛び込んできたのは、ちょっとした武道場くらい広い石造りの部屋。天井もかなり高く10m以上あろうか。部屋の中には巨大な暖炉があり、室内をオレンジ色の光で照らしている。

 もちろん、この大きさで感じてしまうのは新米だからだ。人形視点6倍の法則を適用すれば、それが人間にとっては普通のお部屋の広さだと理解できるはずである。


 自分の周りには顔のない人形がたくさんおり、やはりワタワタと腕を動かしたり、ピョンピョンとジャンプして大興奮している。かくいうホクトも腕をブンブン振って歓喜を表現していた。しかし、人形たちが発する熱気や興奮とは裏腹に、室内は非常に静かだった。


 カツカツ! カツカツ!


 ふいに甲高い音がした。

 そちらを向くと、自分たちの体とは違う、まるでアニメの世界から飛び出してきたような美少女や美男子がたくさんいた。先輩賢者たちが宿る石製フィギュアである。

 カツカツの音は、フィギュアの先頭に立つ賢者が拍子木を鳴らした音のようだった。


 注目を集めると、その賢者が言う。


『カーマイン:こんばんは皆さん。ようこそ、異世界パトラシアへ』


 その言葉に、新米賢者たちは熱狂のフキダシを挙げた。


『カーマイン:すでに聞いているかと思いますが、これがフキダシです。みなさんが発言すれば同じように頭の上にフキダシが出てきます』


 ホクトはふむふむと頷いた。


『カーマイン:まずは私の方から注意を。それぞれが知人から招待されてこの場に来ているはずですが、この場では本名で呼ばずに、賢者としての名前で呼び合うようにしてください。これは2人きりの時でも同じです。賢者の見聞きするものは生放送として流れ、帰還後に過去動画となって保管されます。ですから、個人情報の取り扱いには十分に注意してください』


 フキダシの文字を読み、ホクトはハッとした。

 興奮しすぎて教えてくれた子の名前を普通に言ってしまいそうだった。

 他の賢者も同様だったようで、コクコクと頷いた。


『カーマイン:では、これからここに並んでいる賢者たちがみなさんの賢者ネームを呼ぶので、呼ばれた人はその人と合流していろいろと教わってください。今回は研修ですが、十分に楽しめるかと思いますよ』


 それから美少女や美男子のフィギュアに宿る賢者たちが前に出て、1人ずつ賢者ネームを呼んでいく。つまり、招待してくれた人と合流しているのだ。


『ルナリー:ホクトさん。こっちです』


『ホクト:は、はい!』


 ピシッと手を挙げて、ホクトは呼んでくれたルナリーの下へ小走りで走った。


『ルナリー:じゃあ私たちはあっちに行こうか』


 ルナリーはそう言ってホクトの手を握って引っ張った。

 人の温もりはなくカチカチの手だが、ルナリーはイケメンフィギュアだった。


『ホクト:は、はわわ……』


『ルナリー:どうしたの?』


『ホクト:だ、だって、めっちゃイケメンだから』


『ルナリー:これは人形だよ。ホクトさんも慣れたらこういう人形に宿れるよ』


 同じような驚きがそこかしこで起こっていた。

 友達に凄いことに誘われたと思ったら、なぜかそいつが異性のフィギュアに宿って自分の前に現れるという驚天動地イン驚天動地。

 別の性別のフィギュアに宿りたがるのは賢者最大の謎であり、さっそく新米賢者たちも異性の体に宿ってみたいという欲求がふつふつと沸き上がった。


『ホクト:まずはミニャちゃんにご挨拶?』


『ルナリー:深夜だし寝ちゃってるよ。朝、昼、夕にそれぞれ新米賢者が参加できる食事会があるから、その時に会えるよ』


『ホクト:わかった』


『ルナリー:まずは人形の体に慣れるところから始めようか。とりあえず、踊ってみよう』


 ルナリーはそう言うと、ステップを踏み始めた。

 それは高校の体育祭で一緒に踊ったボカロのダンスだった。ルナリーは以前、このダンスを宴会の席で披露して、大好評を得ている。

 ルナリーよりも運動神経がいいホクトは少しぎこちなく踊り出す。


『ホクト:あー、なるほど、わかってきた。この体は肉がないのか』


『ルナリー:そうそう! だから最初は違和感があると思う』


 ダンスで左右の手首を交差すれば、通常なら手首同士が触れあって肉の柔らかさを感じる。しかし、人形の体だと石がぶつかり合った音が鳴る。

 ダンスに限らず足や腕を組んでも同じで、繊細な人だと動きにくいと感じるので、早く慣れるのは重要だった。


 他の新米賢者たちも、腕立てやラジオ体操など、それぞれの方法で体に慣れようとしていた。


『ルナリー:じゃあ次に魔法を使ってみよう。ここでは使えないから、外に行くよ。ついてきて』


 ルナリーに連れられて、ホクトは部屋の外へ出た。

 部屋から続く長い通路を見たホクトは、物珍しそうに左右の壁や天井をキョロキョロ。


『ルナリー:この拠点はみんなで作ったんだよ。あっちはおトイレであっちはお風呂』


『ホクト:マジで!?』


『ルナリー:うん。でもここは旧拠点だから、新しくてもっと大きな拠点をこれから作るの。ホクトさんも一緒に頑張ろうね』


『ホクト:うん! でも、そのホクトさんってなに? ちゃんでいいじゃん』


『ルナリー:いつも呼んでない呼び方のほうが良いかなって思って』


『ホクト:いいよ、ちゃんで』


『ルナリー:じゃあ、ホクトちゃんね』


 外に出ると、すでに他の新米賢者が数名おり、魔法の使い方を学んでいた。

 光の玉を浮かべる者、穴を掘る者、ツルをヘビのように動かす者、とそれは非常にワクワクする光景だ。


『ホクト:すっげぇ……ルナリーは生産属性なんだよね? 見せてよ』


 ホクトにせがまれて、ルナリーは生産魔法を見せてあげた。

 近くにあった石を粘土のように扱って、5秒くらいで石の直棒を作ってしまった。


『ホクト:すげぇ!』


『ルナリー:生産属性は地味だけど、凄く便利なんだ。その人形も私の宿っているフィギュアも、だいたいは生産魔法で作られているんだよ』


『ホクト:はえー、まあでも、それも器用さあってだよね』


『ルナリー:まあそれはそうだけど。それよりもホクトちゃん、森の中を見てみて』


『ホクト:なになに?』


 ルナリーが指さすのは斜め上方の木々の先。


『ルナリー:薄暗いけど、ちゃんと見えるでしょ?』


『ホクト:そういえば!』


『ルナリー:賢者は暗視ができるの。だから、夜の探索クエストなんかでも、あまり光は必要ないんだ。覚えておいてね』


『ホクト:わかった!』


『ルナリー:じゃあ、ホクトちゃんの魔法、水属性ね。水属性だとまずは飲み水を出すヤツから始めようか』


『ホクト:念じればいいんだよね?』


『ルナリー:そう。魔法はイメージと魔力が重要なの。どちらかが足りなければ魔法は発動しないからね』


 ホクトは丁寧に人形のことを教わりながら、いよいよ魔法に挑戦。

 蛇口からいくらでも水が出てくる日本人にとって、手から水を出すのはとても簡単だった。

 ジャーッとかなりの量の水が手のひらから出て、地面を濡らした。


『ホクト:ふぉおおおお、すっげぇー!』


 魔法を使ってはしゃぐのは、誰しもが通る道。

 それから水の剣を作ったり、水のシールドを作ったり、一通りの魔法を学んだ。

 周りの賢者たちも同じように魔法を練習しているので、それを見るだけでも新米賢者たちは楽しかった。


『ルナリー:魔法を使うと本体のお腹が減るから、基本的に半分くらいまでに留めておくのがいいよ。頑張りたい時でも8割くらいまでにした方が良いかな。8割くらいでも目が回っちゃうくらいお腹が減るからね』


『ホクト:わかった、気をつける』


 初めての異世界経験は光の速さで過ぎていき、もうすぐ帰る時間となった。


『ルナリー:もうそろそろクエストが終わりの時間だけど、私は15分くらい帰れないの』


『ホクト:もしかしてショップってヤツ?』


『ルナリー:そうそう。だから、お部屋で待っててね。自分のページを見れば、自分の過去動画も見られるから。スレッドなんかを覗くのも楽しいと思うよ』


 新米賢者のクエストは終わりだが、ルナリーはついでに『ウインドウ』を買う予定だった。召喚中でなければ買えない商品も多いため、チャンスは無駄にできないのだ。


『ホクト:あー、あたしももっと異世界で活動したい!』


 それはその場にいる新米賢者全員が何度もフキダシに出しているセリフだ。少し前に300人の賢者たちが言っていたセリフでもあった。




 ホクトはハッとした。

 友人のベッドの枠に寄り掛かった体勢で目を覚ましたのだ。


「ゆ、夢?」


 慌てて片手に持っているスマホを手に取ると、画面には先ほどまで見ていたミニャのオモチャ箱のサイト画面が。


「夢じゃない!」


 すぐに自分のページを開くと、お仕事ポイントというものが20点だけ増えていた。

 特にお仕事をしたわけではないが、研修も仕事と判断されたのかもしれない。

 友人の言うように過去動画が1つだけ更新されており、それは先ほどまで自分が見ていたものの記録だった。


 友人が帰ってくるまで、ホクト改めナナセは思い切ってスレッドを覗いてみた。

 すでに新米賢者スレというタイトルのスレッドが立っており、丁度いいのでそれに参加してみることに。


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1、新米な名無し

 本当に異世界に行けて胸がいっぱいやばたにえん! 同期集まれぇ!


2、新米な名無し

 俺は今日ほどヤツの友人で良かったと思った日はない。


3、新米な名無し

 それ。最初はいつもの異世界談義をしたいのかなって思ったら、あの野郎、一足先に本当に行ってやがったwww


4、新米な名無し

 お前ら属性なに? 俺、土。


5、新米な名無し

 土は間違いないらしいから迷ったけど、俺は光にした。


6、新米な名無し

 外でピカピカやってたのはお前か。俺は闇。闇の剣クッソ楽しかった!


7、新米な名無し

 闇属性は飽和中とあれほど……。


8、新米な名無し

 それでいいんだし。まだ始まって1か月も経っていないわけだし、これから俺が闇属性に革命を起こす。


9、新米な名無し

 まあその意気だよな。


10、先輩な名無し

 馬鹿め。俺たちがどれほど魔法研究をしていると思ってんだ。


11、新米な名無し

 おっ、先輩やん。ちなみに何属性?


12、先輩な名無し

 闇。なかなか新魔法が見つからないんだよなー。女神様ショップで自分をグレードアップしたらワンチャンだと思ってる。


13、新米な名無し

 いいなー、女神様ショップ。何日くらいで1万点貯まるの?


14、先輩な名無し

 めちゃくちゃ早ければ11日だけど、それを成し遂げたのは1人しかいないからまあ無理だな。15日くらいが平均かな?


15、新米な賢者

 15日かー。クエストをガンガン受ければいいんだよな。頑張ろ。


16、新米な名無し

 僕の属性は水だよ。超楽しかった!


17、新米な名無し

 水には最強がいるらしいぞ。


18、先輩な名無し

 サバイバーな。アイツはマジで一人だけ別ゲーやってるくらい強い。次点で雷光龍とか覇王鈴木かな。戦闘係をしたいなら、サバイバーが山鳥の狩り方とかを教えてるから参加してみるといいよ。


19、新米な名無し

 その人、僕の友達も凄い人たちだって褒めてたよ。


20、新米な名無し

 覇王鈴木のネタ感www


21、先輩な名無し

 まあ先行組は名前が変えられないのを知らなかったからな。割と多くのヤツがゲームのノリでつけちゃったんだよ。


22、新米な名無し

 なにかアドバイスない?


23、先輩な名無し

 クエストを受けていればそのうち慣れるかな。あと、ボール系の攻撃魔法は無暗に放たない方が良い。ミニャちゃんを危険に晒すのは全賢者に嫌われる行為と思え。


24、新米な名無し

 やっぱりミニャちゃんが中心なのか。俺の友達も、何があってもミニャちゃんが最優先って何度も言ってた。いや、ミニャちゃん陛下って言ってたか。


25、先輩な名無し

 まあそうだな。いろいろな目的があっても良いと思うけど、ミニャちゃんの生活が第一ってのは肝に銘じないとダメだな。クエストの中にはあんまりミニャちゃんの生活に関係なさそうに思えるものもあるけど、基本的にミニャちゃんの生活を向上する目的で作られていると思っていい。


26、新米な賢者

 はえー、やっぱりそうなんか。


27、先輩な名無し

 最近は他に8人の子供の面倒を見ることになったけどな。300人じゃ手が回らんほど忙しいから、お前らも拠点作りに参加してくれよ。


28、新米な賢者

 300人もいて忙しいのか。


29、先輩な名無し

 学生や勤め人もいるし、休む時間も必要だから、実際に各時間帯で活動してるのは150~200人くらいなんだよ。


30、新米な賢者

 そりゃそうか。でも俺たちが来たからには弾数は増えるから安心しろ!


31、新米な賢者

 明日バイトだけど休むわ。


32、新米な賢者

 僕も学校休む!


33、先輩な名無し

 俺が言えた義理じゃないけど、ほどほどになwww


34、新米な賢者

 拠点と言えば、俺たちが見たあの家をお前らが作ったってマジ?


35、先輩な名無し

 マジマジ。全部を作り終えるのに3日くらいかかったけど、大部屋は1日で作ったな。作業部屋に行けば、巨大な機織り機もある。


36、新米な賢者

 機織り機とかマジかよ、超楽しそうじゃん。


37、先輩な名無し

 新しい拠点にまた機織り機を作るはずだから、参加するチャンスはあるぞ。子供たちも増えたから、機織り作業も楽しさ倍増だろうな。

   ・

   ・

   ・

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「機織り! 超楽しそう!」


 ナナセは生まれて初めて掲示板というものに参加してみたが、すぐに夢中になった。

 ちなみに、女だとバレたら不味いかもしれないと思い、一人称は『僕』と偽装。


 時間はあっという間に過ぎて、気が付けば友人が帰ってきた。


「おかえり!」


「ただいま。楽しかった?」


「すっごく楽しかった!」


 話したいことが山積みだが、ナナセはひとまず女神様ショップとやらで何を買ったのか問うた。


「私が買ったのはこれ。ウインドウ機能。日本でも異世界みたいにウインドウが使えるようになるの」


 ルナリー改めレイはそう言うと、何もない空間をジッと見つめた。

 すると、その場にナナセが人形の体で見ていたウインドウが出現した。


「「ふぉおおおおお!」」


 2人は手をブンブン振って大興奮。


 レイにとってはついに現実がファンタジーに侵食され始め、ナナセにとっては今日出会ったファンタジーが一段ギアを上げて加速した。


 こいつぁ、忙しくなってきた!


「あたし、明日、学校休む!」


「だ、ダメだよ。お泊りしたのに休んだらお母さんに怒られちゃう」


「でもでもでも、行きたい行きたい行きたい!」


「明日学校に行けば、明後日から休みだから、ね?」


「でも、明日からもう新しい拠点を作り始めるんでしょ?」


「う……」


 実は昨晩の定例会議で新拠点は本日の朝から造り始めると言われていた。


 先輩賢者たちとしては、新米賢者が参加しやすいように明日の土曜日からにしてあげたかったが、それは賢者の都合であり、ミニャと子供たち8人に不便な生活を1日延長させるわけにはいかないと判断した。


 かくいうルナリーもゴールデンウイークに始まる新拠点作りを楽しみにしていたので、明日から始めるという予定変更に愕然としたが、真面目なので泣く泣く学校を優先すると決めていた。


「ほ、ほら、学校からでも生放送は見られるから。どんな感じで作っているか見て楽しむことはできるよ。私もいいなぁって思いながらスマホを見ていたこともあるよ」


「ぬぅ……!」


 説得されるナナセ……無念、無念!


 しかし、翌日。

 不幸にもお泊り会を終えたナナセに急な腹痛が襲った。

 イタタタタ、これはちょっと学校には行けないかもしんない。いや、マジ、マジだから。イタタタタ!


 その日、日本各地で謎の体調不良を訴えて休みを取る学生や会社員が数十人現れた。

 素行が良い生徒や社員だったので、彼らの体調不良は特段疑問視されずに受け入れられるのだった。

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