2-40 事件の後も大忙し
事件の後も賢者たちは大忙しだ。
スノーたちを迎え入れたことで、全体としてはむしろここからの方が忙しくなった。
新しくスレッドが立てられ、ニーテストから指示が下る。
【3、ニーテスト:我々はミニャに恥をかかせるわけにはいかない。子供たちを不安にさせるわけにもいかない。可能な者は夜通しクエストに参加してくれ。仕事や学校がある者も、今夜ばかりはあと1時間ほど付き合ってほしい】
【4、平社員:1時間だと? ぬるいわ! 今日は徹夜じゃ!】
【5、闇の福音:だな! おらっ、ニーテスト、早くクエスト寄越せ!】
というわけで、スノーたちが連れていかれたのは、崖から300mほど離れた拠点の建設予定地だった。そこを中心地として徐々にネコミミ帝国の領土を拡大していこうという算段になっていた。
すでに家を一軒建てられるだけのスペースが整備され、その周辺も間伐がされている。間伐とは木の間引きであり、周辺の木の密集率はかなり減少していた。伐採された木は建設予定地に運び込まれ、かなりの数が確保されている。
あとはミニャが現地入りすれば、いつでも拠点の建設が始められる状態になっていた。
子供たちはそんな広場に通された。
(スノー:ここが女神の園……?)
スノーが滅茶苦茶不安そうにした。
というか、女神の園に連れて行ってもらうつもりだったことに、賢者たちは今さら気づいた。それは無理である……!
とりあえず、キッズの扱いに長けた近衛隊を呼び寄せて、スノーたちの相手をさせる。
人形を踊らせておけばキッズはキャッキャする。
そんな浅はかな考えのもと、近衛隊は焚火の周りでズンズンダンスを披露した。
スノーの弟妹とエルフの妹が魅了状態のデバフを喰らった。対象年齢が低い。
その間に、土木作業の賢者たちが大急ぎで穴を掘り、仮屋の建設を始めた。
【41、ニーテスト:お前らならできる。2時間以内に一晩過ごせる状態にしろ】
鬼のニーテストからの指示で、2時間以内に建てることになった。
とはいえ、木材も人数も人形も揃っている。やってやれないことはなかった。
『サバイバー:お待たせ!』
今まで戦っていたサバイバーも森に狩りに出かけ、鳥を仕留めて帰ってきた。元気いっぱいだ。
さらにミニャが来た時のために貯蓄を始めていた鬼芋や森塩、各種山菜も開放する。
スラムの子供ならご飯を食べさせておけば不安も解消されるだろ、という浅はかな考えのもと、トマトン率いる料理班が大急ぎで料理を始めた。
ミニャちゃん陛下に恥をかかせてはいけない。
子供たちを不安にさせてもいけない。
ニーテストの言葉は正しいと賢者たちは全員が理解しており、死に物狂いでもてなした。
これが誰かに仕えるということか。
執事やメイドがなぜゲストをしっかりともてなすのか、賢者たちはその気持ちを真に理解できた気がした。7歳の主だが、ミニャをバカにされたくないという気持ちが賢者たち全員に宿っていた。
(ルミー:美味しい!)
(パイン:こえも美味しいぉ、もっもっ、うまぁ!)
ルミーとパインのイヌミミキッズがニコパと笑いながら、蒸かし鬼芋と鳥の塩焼きをモグモグした。
そんな2人のお膝には貰った2体の人形が乗っているのだが、宿っている賢者は近衛隊に替わっていた。幼女のお膝でぬくぬくと、近衛隊は繁忙期でもホワイト任務なのである。
(ラッカ:うまうま!)
(ビャノ:ラッカ、美味しいな!)
双子の兄弟も夢中で食べている。
2人にはお肉のポイントが高そうだ。
食事に一番反応したのはエルフの姉妹だった。
よほどお腹が空いていたのか、物凄いがっつきっぷりで食べている。
(レネイア:美味しい、美味しい!)
(マール:はぐはぐはぐ、ぴゃー! はぐはぐはぐ!)
レネイアは姉、推定12歳。
マールは妹、推定8歳。
2人は涙を流すほどだった。
たぶん、丸1日か2日はろくに食べていなかったのではないかと賢者たちは推測した。
もう一人の少女・シルバラ。
鑑定によると、シルバラはどうやらドワーフのようだった。
見た目は12歳くらいで、料理を口に運んでいるが、それよりも人形たちをとても気にしていた。人形の造形ももちろんだが、人形たちが作る物にも興味を示していた。きっとドワーフだからご飯よりも生産が好きなのだと、賢者たちの名推理がキュピンと光る。
(スノー:うまぁ……)
そして、スノー。
状況はよくわかっていないながらも、美味しい物を食べさせてもらえて、スノーはとても安心したような顔をしていた。
やはりご飯を食べさせておけば間違いなかった。
『チャム蔵:やればできるもんだな』
『絶狼:俺たちももう何回も家や秘密工房を作ったからな』
1時間30分で8人の子供たちが泊まれる屋根付きの穴ができた。
賢者たちお得意の竪穴式住居だ。ただし、天井は斜め屋根ではなく平屋根、つまり開いた穴に木を渡して固定しただけである。
中には暖炉もあり、夏前の気まぐれな寒さに備えている。
地面には殺虫が行なわれた柔らかい草を敷き詰めた。これが一番時間のかかる作業で、建設が始まると同時に多くの賢者が草を集めに走り回った。
実に150人体制の仕事である。
良いご飯を食べたからか、仮屋の中を見た子供たちに不安の色はない。
夜も遅いこともあって、子供たちは草の上に寝転がると一瞬で眠りに落ちてしまった。
『栗田ニアン:事件で緊張していたから疲れたんでしょうね』
『平和バト:僕、回復魔法をかけておきます!』
『栗田ニアン:君、たぶん学生だよね? 明日は大丈夫なの?』
『平和バト:はい、このくらい大丈夫です!』
『栗田ニアン:眩しい!』
フィギュアに宿り替えた平和バトは、最後までやり遂げたいという気持ちがあった。それはみんな同じで、むしろ救出作戦に参加できなかった賢者たちは、ここで活躍するぞと意気込んでいた。
子供たちを寝かしつけても、賢者たちの仕事は終わらない。ニートが大半を占めているとは思えない突発的繁忙期!
少女たちが眠ったところで、ニーテストはひとつの重要なお知らせを全体に行なった。
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【全体アナウンス:ニーテスト】
『件名:死に戻りについての報告』
本日、覇王鈴木が賢者たちの中で初めて死に戻りを経験した。
とりあえず覇王鈴木は五体満足だ。
死に戻りについて検証が終わったので報告する。
・死に戻りは受けたダメージの感覚が多少残るが、外傷は一切ない。
・デスペナルティとして24時間の召喚禁止状態になる。これは影響制限Max時の0時回復ではなく、やられた時から24時間だ。
・このデスペナルティは1時間あたり100点のお仕事ポイントを払うことで時短できる。
以上だ。
人形の状態では俺たちは死なないことが判明したが、精神的に良いことではないだろうから、引き続き死なないように気を付けてほしい。
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512、名無し
24時間のデスペナルティか。時短が1時間100点はきついな。
513、名無し
なんでもない時にうっかり死に戻るなら24時間待てるけど、今日みたいな時だったら即座に使うだろうな。
514、名無し
これ、危険任務を行なうヤツに保険を作ってやるべきじゃないか? 全員で毎日10点ずつ寄付するとか。
515、名無し
それは良い案だと思う。サバイバーはなかなか死ななそうだけど、覇王鈴木とか割とすぐ死んじゃいそう。
516、名無し
覇王鈴木、なんですぐ死んでしまうん?
517、覇王鈴木
ニーテストに無茶ぶりされるからだ。
518、名無し
なにが無茶ぶりか。本当は好きなクセに! 俺、生放送で見たからな? アニメの主人公みたいな人生になっちゃったなって言ってたの!
519、名無し
それ俺も見た!
520、名無し
あー、これはやっちゃいましたね覇王鈴木さん。アーカイブに残る黒歴史ですわ。ていうか、図鑑の名シーン集に書いとこ。
521、覇王鈴木
やめろぉ! バトルでテンション上がっちゃってたんだよ!
522、名無し
あの時の覇王鈴木の脳内ではアニソンが流れてたんやろな。
523、名無し
アニメ12話目の盛り上がりだな。
524、名無し
女神様ショップが解放されたらお前の過去動画売ってくれよ。俺がBGMつけてやるから。一緒に最高の動画を作ろうぜ!
525、覇王鈴木
やめろぉーっ!
526、名無し
www
527、名無し
それで、覇王鈴木はその時短機能は使ったのか?
528、覇王鈴木
いや、今回は使わないことにした。お前らが働いている中、俺は堂々の休憩だ。
529、名無し
もう前夜祭は始まってるんだよ? お前だけ前夜祭の思い出がないでちゅねー。
530、覇王鈴木
凄く時短したくなるからそういうこと言うのやめてくれる?
531、名無し
話を戻すが。女神様ショップの支払い機能は手数料で10点かかるから、毎日じゃなくて10日に一度100点とかの方が良いと思う。
532、名無し
そうね、毎日10点払うと手数料合わせて倍だ。最初は週イチで、プール金が貯まったら月イチとかで良いと思う。
533、名無し
気になったんだけど、サバイバーは死に戻りじゃなかったのか?
534、ニーテスト
サバイバーは俺が強制送還して、すぐにフィギュアを指定して召喚要請をした。船がぶつかった場所が階段のすぐ下だと、階段作りをしていた賢者たちが気づいたからな。
535、名無し
はえー、ニーテストもクーザー戦に参加してたんか。
536、ニーテスト
まあな。さて、いろいろ意見があると思うが、死に戻り保険の件はまた今度話し合おう。
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・
580、ニーテスト
全員ご苦労! さて、ゴールデンウイークから始める予定だった拠点建設計画だが、こうなった以上は前倒しにしたいと思う。誰か反対意見はあるか?
581、カーマイン
ミニャさんはどうしますか? ミニャさんはみんなで家を作るのを楽しみにしていましたし、勝手に進めるのは不味いと思います。
582、名無し
俺もそれは思う。いかなる理由であれ、ミニャちゃん陛下は最優先だ。
583、ニーテスト
その意見は尤もだ。ミニャには明日の朝からこちらに来てもらい、昼に到着してもらう。これでどうだろう?
584、名無し
じゃあ今晩中に道の草刈りが必要ってことだよな?
585、名無し
よし、議論している時間が惜しい! ニーテスト、草刈クエストを出せ。やってやるよ!
586、ニーテスト
では、草刈り班は覇王鈴木が召喚の管理をしてくれ。暇だろ。
587、覇王鈴木
まあ暇になっちゃいましたが。じゃあクエスト作るから、みんな受けてくれ。
588、名無し
いっそのこと神輿でも作るか? 30人くらいで担げば、ミニャちゃんくらいの体重なら余裕だろ。
589、ニーテスト
草さえ刈ってあれば、ミニャの身体能力なら神輿よりも歩いた方が速いだろう。むしろ、俺たちの方が走るくらいだ。しかし、荷運び用の神輿は欲しいな。
590、工作王
じゃあ、荷運び用の神輿を作るか。持っていく物のリストをくれ。
591、ニーテスト
そのリストは工作王が作ってくれ。明日は平日だから200人参加と仮定して、ミニャの移動は120人で行なう。荷運びは30人だ。それで無理なく積載できる神輿を作ってくれ。
592、工作王
オッケー。
593、名無し
明日は会社休んでも良いのよ!?
594、ニーテスト
そこは個人の判断に任せる。参加人数が多ければ楽になるが無理は言わん。
595、名無し
よし休もう! 申し訳ないが、親戚には死んでもらうことにする。
596、名無し
頭痛とかにしろやwww どうせ辞める会社だろ?
597、ニーテスト
ネムネムは起きているか?
598、ネムネム
もちろん(*’▽’)さっきまで草集めしてました!
599、ニーテスト
お前は明日、絵でスノーたちとの意思の疎通をしてくれ。必要な物があれば工作班と相談して準備してくれ。
600、ネムネム
白っぽい石と炭があれば問題ないかな(=゜ω゜)ノ了解!
601、名無し
スノーたんたちと意思の疎通ができないのがなー。
602、名無し
モグはフキダシを見られるし、女神様ショップで誰かがパトラシア言語を習得すれば、フキダシにパトラシア言語を書き込めるんじゃないか?
603、名無し
天才か?
604、竜胆
いや、それはわからないよ。彼女たちの識字能力が不明だから、フキダシが見られるようになっても文字でのやり取りができない可能性は十分にある。
605、名無し
真の天才か?
606、名無し
こいつぁいよいよ賢立ネコミミ学園を始動させる時が来たか。
607、ニーテスト
まあ、文字が読めない場合は、しばらくはミニャにも翻訳を手伝ってもらうことになるだろう。
608、名無し
それよりも他に仕事はないか? なんでもやるぞ。
609、ニーテスト
草刈り係と護衛以外は食料を集めてほしい。とにかく、スノーたちの心を掴むには食料が重要だ。ミニャの村にいれば食べ物に困らないと思わせるために、明日の夜は宴会を行なう。ちょうどクエストができたから発行する。
610、名無し
よしきた!
611、ニーテスト
あと、クーザーの船からの戦利品の回収と船の動力の調査を今のうちに行ないたい。これは異世界研究委員会が主導で行なってくれ。
612、クラトス
了解した。調査した後の船はどうする? アイツがあると漁師の興味を引くぞ。
613、ニーテスト
その件についてはライデンから策がある。
614、クラトス
ほう、面白いな。どんな策だ?
・
・
・
644、ニーテスト
それからサバイバー。お前にはちょっと無理をしてもらいたい。
645、サバイバー
聞くよ。できるかは内容によるね。
646、ニーテスト
警備隊長の発言から、あの町には領主がいることが確定した。そいつの館に忍び込んでもらいたい。
647、サバイバー
うーん、厳戒態勢が敷かれているだろうからなー。ちょっと難しいかもしれないよ。館の場所も特定できていないわけだし。
648、ニーテスト
その時は仕方ない。幹部とはいえ賊のクーザーですらあの強さだ。領主の護衛ならそれ以上の可能性は十分あるから無理はしなくていい。
649、サバイバー
まあ、とにかく行ってこよう。今の町なら忍び込んで無駄はないだろうし。
650、ニーテスト
では頼んだ。
651、名無し
いよいよ隠密プレイが始まったか。
652、名無し
ゴブリンの時から始まってるだろ。
653、ニーテスト
さて、ここからは交代で休憩しながら活動するぞ。今日の徹夜は明日に響く。明日の0時には女神ショップが解放されるが、そのタイミングでどうせみんな起きているのだろうから、これから数十時間は眠るチャンスが少ないぞ。
654、名無し
たしかに。ちょっと時計と相談して活動するかな。
655、名無し
明日も徹夜になるだろうからなー。どこかで4時間も寝られたらいいや。
656、名無し
女神様ショップは逃げないんだからしっかり寝ればいいやん。
657、名無し
バカが! こっちは学校の前夜祭に縁がなかった人種やぞ! ここで青春を取り戻すんだよ!
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そんな議論をしながら、賢者たちのお仕事は続く。
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