2-24 密漁
同じメンバーで再び召喚されたサバイバー班。
メンバーの中には勤め人もいるが、美味しいところ取りはさせねえとばかりに深夜の活動。
『ダーク:ていうか、お前明日の仕事は良いのかよ。もう12時回ってんぞ』
『平社員:え、仕事? いや、俺の仕事はミニャのオモチャ箱で……う、うぅうう頭が……っ!』
『髑髏丸:強気なのか弱気なのか』
『平社員:わかってるって。このミッションが終わったら今日はもう寝る』
そんなことを話しながら、4人は建物を囲う柵の陰に隠れてコソコソした。
『サバイバー:みんな、あそこを見て』
サバイバーが指さす先にはとても小さな小屋があった。
『平社員:うわっ、あれって番犬か?』
そう、建物の敷地内には犬がいたのだ。
女冒険者セラが飼っていたような大きな犬ではないが、賢者たちからすれば化け物サイズである。それに、魔物がいる世界なわけで、建物を守る番犬は日本の犬よりも遥かに強い可能性だってある。
幸い、犬は小屋の中ですやすやしている様子。
『サバイバー:あれに気づかれたら最悪だ。向こうから入るよ。ヤツの視界に入るエリアに行くのは厳禁だからね』
4人は犬小屋から見えない位置で柵を越えて、建物へと近づいた。
建物の周りに犬こそいるが、人の見張りはいない。ただし、城壁の上には見張りが立っていた。体が小さいからと過信せずに行動は迅速にコソコソと。
『平社員:面白くなってきたぜ!』
『髑髏丸:俺が敵地潜入任務をすることになるとはな。人生わからないものだぜ』
コソコソしているが、賢者たちのテンションは高い。
サバイバーがレンガの壁をヤモリのように登り、窓の木戸をそっと開いた。それを見た3人は、キモイなーと感心した。
ところが、サバイバーはすぐに降りてきてしまった。
『サバイバー:ダメだ。質が悪そうなガラス窓が嵌っていて入れない。曇りすぎていて中の様子はわからなかった』
『ダーク:じゃあ、どこかに穴でも空いてないか探してみよう』
『平社員:いっそ俺が穴を掘って、地下の基礎を石材変形で変化させつつ内部に侵入するか? レンガにそのまま石材変形を使ってもいいけど。あとで直せばわからないと思うぞ』
『サバイバー:下から行くのは面白いアイデアだが、宿直がいたらなぁ……町の外にあるわけだし、たぶん2人くらいはいると思うんだよ』
『髑髏丸:ここが本当に冒険者ギルドなら、わざわざここを最初に狙う必要はないと思う。報告によると城壁の外にもチラホラ建物があるようだし、そちらを狙う方が安全だ。そこから順番にランクアップしていけばいい』
『平社員:狙うって言うな。覗くって言え』
『ダーク:覗くのもヤバいだろ』
『サバイバー:とりあえず、外から見て回ろう。隙間がありそうなら内部を見学、なさそうなら今日は大人しくしておこう』
というわけで、建物沿いに調査する。
だが、思いのほかしっかりと作られており、内部に入れる隙間などは見つからない。
『髑髏丸:丘にはネズミがいるという情報もあるし、そりゃそうか』
『ダーク:だけど、外からでも得られる情報は多かったな』
サバイバーが見た曇ったガラス窓やそれを守る木戸、建物の隅に置いてある木桶、木製のリヤカーやその車輪など。
木製品が多いが、金属製品も普通に使われている。しかし、金属を無駄に使うようなことはしていないように思えた。
また、地球上にはない合金も発見された。
生産鑑定で見つけた『魔鉄』『魔銅』『エダロナ銅』だ。
■賢者メモ 生産鑑定■
『魔鉄』『魔銅』
魔石紛と鉄(銅)の合金。
生物の魔力を吸収し、硬度を高める。魔力を吸収できない状態だと普通の鉄(銅)と変わらない。
『エダロナ銅』
エダロナと銅の合金。
非常に錆びにくい。柔軟な金属であり、変形しやすい。
■■■■■■■■■■■■
エダロナという物質がすでに知らない件について。他にも魔石の存在が新たに示唆された。
しかし、賢者たちにとって知らないということは良いことだった。地球上の誰も知らない物質がひとつ増えるだけで、商売のタネがひとつ増えることになる。
もちろん、そういった発見はミニャの生活を豊かにすることにも繋がる。みんな幸せ!
建物はサバイバーたちが調べているここひとつではない。
わざわざ気配に敏感そうな集団が使う建物を調査するのもなんなので、一行は城壁の調査に切り替えた。
城壁はレンガで造られており、その間の繋ぎはおそらくセメントか。
『髑髏丸:これはただのレンガじゃないな。魔物の骨粉が入っているらしい』
生産属性の髑髏丸はたまたまクエストをゲットしたのだが、文明圏に入ったいまではサバイバー以上に役に立っていた。
■賢者メモ 生産鑑定■
『骨粉レンガ』
粘土に魔物の骨粉を混ぜ込んで作るレンガ。
魔法と衝撃に強い。
■■■■■■■■■■■■
『平社員:俺の想定よりも文明的な件』
『ダーク:あとは中の様子か。覇王鈴木たちが湖を見つけたし、おそらく湖岸都市だと思うが』
城壁の西方面は新しく作られた石製人形に宿る賢者たちが見に行っているので、サバイバーたちは東側へと進んだ。
3つのチームの賢者たちは人形の活動時間の充填をしている際に、お互いの班の動画をチェックしていた。そのためお互いに森の外の地形が大体把握できている。
それによれば、このままサバイバーたちが東に向かうと湖が見えるはずだ。
その推測は当たり、2kmほど移動すると浜辺と湖が見えてきた。
その地点から見て北東方向には断崖があり、断崖をさらに北東に行けば覇王鈴木たちが見つけた浜辺があるはずだ。
湖を見つけた4人は喜んだが、それ以上にテンションを上げたのは地図を作製している外部チームだ。測量こそしていないので正確な地図ではないが、どんどん地形が判明していき、寝る暇もない。
『サバイバー:みんな! 注意しろ!』
唐突に、サバイバーがそう呼びかけた。
コメントを読んでハッとした3人は何事かと周囲を見回す。しかし、全然わからん。
『ダーク:何があったんだ?』
『サバイバー:人の気配だ』
『平社員:マンガみたいなヤツだな』
気配を辿るサバイバーは、しばらくして「アレだ」と指さす。
城壁は湖の手前、地盤がまだしっかりとしている辺りで奥へと曲がっている様子なのだが、そこから誰かが出てきた。
月夜の中、こそこそと移動する小さな人の影は、籠を背負って浜辺に向かっているようだった。
夜目を持つ賢者たちは目を凝らす。
『ダーク:あれってスノー少年か?』
そう、それは昼間に森の入り口で見た、薄幸そうな子供だった。
その視線は城壁の上を警戒している様子。人には見られたくないのが行動からわかった。
浜辺に降りるには一度、城壁の上から見える位置を通らなくてはならないようで、タイミングを見計らっているようだ。
『サバイバー:うん。あの子だね』
『髑髏丸:もう1時になるぞ。何をしてるんだ? 犯罪行為じゃないだろうな』
賢者たちは今日のスノーのヘマを見ている。スノーは賃金を貰えなかったようなので、犯罪に手を染めようとしているのではないかと心配した。
『サバイバー:さてね。ニーテスト、どうする?』
サバイバーはニーテストに向かって問う。すぐにスレッドで返答があった。
【721、ニーテスト:お前らはスノーを追え。城壁前の工作班は至急作って欲しいものがある】
と、ニーテストが何やら悪だくみを始めた。
というわけで、4人はスノーを追いかけることにした。
スノーはコソコソと浜辺へと降り、浜辺の右手へ移動した。
そこは右手に城壁が乗る崖が続いており、角度的に城壁の上から見えないようだ。正面には岩が頭を出す湖面が続く。
『平社員:もしかして密漁ってヤツか?』
賢者たちは崖の上からコソコソとスノーを観察した。
『髑髏丸:たぶんそうだろうな。湖岸都市なら森に入らなくても魚捕りをすれば最低限は飢えを凌げそうだが、それをしないところを見ると魚捕りにも漁業権的な料金が必要なんだろう』
『サバイバー:もしくは漁師組合のなわばり意識が強いのかもしれないね』
『髑髏丸:なるほど、そういう可能性もあるか』
『ダーク:手慣れてそうだが、その割にはあの子の鑑定では犯罪歴がなかったな』
良いところに気づいたダークの発言に、賢者たちはたしかにと思った。
『平社員:不憫っ子属性の臭いをプンプンさせてたし、情状酌量的なものが働いているんじゃない?』
『ダーク:まあ10歳くらいであんなことしてんだもんな。苦労人なことはたしかだな』
スノーは浜辺の砂を掘り返す。
すると、そこから隠していた紐が出てきた。
その紐を引っ張ると湖の中から仕掛けが出てきた。
どうやら草で編まれた罠籠のようだ。
『サバイバー:へえ、モンドリか』
『平社員:見たことはあるけど、あれってモンドリっていうの?』
『サバイバー:うん、別名はいろいろあるけど』
モンドリの中には2匹獲物が入っていた様子。
スノーは嬉しそうに顔を綻ばせて、蓋を外して獲物を持ってきた籠に入れた。
モンドリは他にもあったようで、全部で4つ引き上げられる。
3つのモンドリに全部で4匹の獲物が入っていたようだ。そして、最後の1つにはザリガニのような生物が入っていた。
(スノー:1匹足りないな……)
スノーの小さな呟きが賢者たちのウインドウに翻訳された。
不憫っ子属性の発動に、賢者たちはちょっと可哀そうになった。
だが、スノーは気を取り直して作業を続ける。
ザリガニを石の上に置き、その上から石を添え、音を立てないように頭を潰した。同じ要領で甲殻を割り、出てきた身を分けてモンドリの中に入れていった。罠の餌に使ったのだ。
『平社員:たくましすぎんだろ』
『髑髏丸:お前、さてはシティボーイだな? あれくらいなら俺も子供の頃にやったぞ』
『ダーク:俺も昔やったな。さすがに罠じゃなくて釣り用だけど』
わざわざ言わないが、当然サバイバーもやっているはずだ。下手をすれば昔ではなく今でも。
『平社員:マジかよお前ら。お前らが田舎ライフしている時に俺は遊戯姫カードでデュエルしてたわ。俺のマジックプリンセスを破いたアツシ君を俺は一生許さない』
『髑髏丸:アツシ君ド畜生だな』
スノーはボロボロの靴を脱いで、湖に入り、そっとモンドリを入れていく。投げ入れないところを見ると、水が跳ねる音を立てたくないのだろう。
そんな作業を見ている4人に、他の賢者が声をかけてきた。
『ホムラ:諸君、お疲れ様ふっふーい!』
『ルナリー:みなさん、お疲れ様です』
『雷光龍:よう、面白いことになってきたな』
火属性のホムラと、生産属性のルナリー、雷属性の雷光龍だ。重要なのは前者の2人であり、雷光龍は護衛である。
ルナリーはダンスが上手な女子高生なのだが、女神様ショップの件や町の発見で、明日の学校を忘れて夜更かし中。本日はこういう賢者が非常に多かった。
挨拶もそこそこに、髑髏丸が言った。
『髑髏丸:へえ、短時間で上手いこと改造したな』
髑髏丸はホムラやルナリーが宿る人形の腕や足をまじまじと見た。髑髏丸は男子で、ホムラとルナリーは女子なので痴漢行為である。
ルナリーが宿るのは木製人形。秘密工房を作るためにおんぶして運んできた1体。
ホムラは石製人形。秘密工房で新しく作られた物。
これらは本来なら関節などついていない人形だったのだが、ニーテストの要請で肩と肘と足と膝に関節がつけられていた。木製人形の方は短時間で木を彫るのは不可能なので、関節部分は石で接合されている。髑髏丸が感心したのは、短時間でこれを仕上げたことに対してだった。
そんな2体の人形を使って、先ほどニーテストがしていた悪巧みが始まろうとしていた。
『サバイバー:時間もないし、始めようか』
『ホムラ:わかった!』
『ルナリー:が、頑張ります!』
湖へ入って作業を続けるスノーに気づかれないよう、ホムラとルナリーが移動する。
移動する先はスノーが持ってきた背負い籠の後ろだ。魚を入れていたので
この魚籠はツルを編んだ物のようで、おそらくは素人の手作りだ。
2人は魚籠の後ろで寝転がると、ホムラが片手を魚籠に引っかけた。
ほどなくして、スノーは仕掛け終わり、靴を履き直して魚籠を手に取った。
すると何かが引っかかっているような感触。
隠密行動中のスノーは声を出さずに、『石にでも引っかかったかな』みたいな顔で持ち上げた魚籠の下を確かめた。残念! 賢者でした!
しかし、スノーからすればそれは残念ではなく、とても喜ばしい物だったようだ。
持ち上げた魚籠に引っかかっていた石製人形がポトリと下に落ちると、そこには他にも木製人形が寝転がっているではないか。
2つの人形を拾い上げたスノーは、パァーッと顔を明るくした。
ここは浜辺。もともと漂着物もあるのだろう。だから、スノーは人形の発見を特に不思議に思わないようで、魚籠の中に入れてネコババした。
『ホムラ:ぎゃーっ、魚がビチビチしとる!』
『ルナリー:生臭くてぬるぬるしてるですぅ! あっ、ちょっ、そんな、まっ!』
女子2人に突如として薄い本のような展開が襲い掛かる。
ウインドウに流れてくるコメントを見て、賢者たちは興ふ……合掌した。
【882、ニーテスト:おい、お前ら動くな。人形のふりを続けろ】
ニーテストが無情な命令を下す。
そう、2人に求められているのは人形のふりなのである。
だから、木製人形に宿ったルナリーの股の間に魚が口先を突っ込んでビチビチし始めたとしても、決して動いてはいけないのだ!
こうして、ニーテストの狙い通り、2体の人形がお持ち帰りされた。
果たして2体の人形は売られるのか、飾られるのか。その行きつく先は拾ったスノーのみぞ知る。
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