2-23 南探索班★
南に向かったのはサバイバー班。
メンバーは、土属性の平社員、闇属性のダーク、自由枠で生産属性の
賢者たちの中で最もサバイバル能力が高いサバイバーがリーダーをするチームなわけだが、それに反して南は最も安全な方向だった。
南西と南東で狩りをしているジタタキが森からあまり離れないため、丘に暮らす生き物たちの生活を騒がしくしないのだろうというのは、後々の考察だ。
サバイバーたちが走っているのは、右手に川が見えるように進むルートだ。
これは冒険者たちが使っている道だと思われるもので、人の往来で地面は踏み固められ、歩きやすいように石が退かされているのが確認できた。
そういった道を進んでいるので、森での探索の数倍は行軍が速い。走っている賢者たち自身も、石製人形がこれほど速く走れるのかと驚くほどだ。
2kmほど南下すると人工物を発見した。
『サバイバー:橋だ』
それは川に架かった丸太橋。4本の丸太の上に板が等間隔に乗せられただけのシンプルなものだ。
森の入り口のすぐ近くにも同じような橋があるので、2本目となる。
『髑髏丸:真鍮(しんちゅう)のかすがいや釘が打ち込まれているな』
生産属性だが探索クエストをゲットした髑髏丸が、橋の造りを見てコメントする。
髑髏丸は個性的な作品を作る賢者だ。普通のゴーレムでもどこかホラーチックに作ってしまう。フィギュアだと幽霊チックになる。
そういう賢者だが、物作りの知識はしっかりと持っている様子。
『平社員:まだ製鉄が未成熟な文化ということか? それとも逆に凄い感じ? ていうか、真鍮って名前は聞いたことあるけどそもそもなんだ?』
『髑髏丸:真鍮は銅と亜鉛の合金だ。真鍮は紀元前からあるし、今の日本でも真鍮製の釘は普通に使われているから、これを見て文明度を推し量るのは難しいな。それよりも、俺たちの魔法の価値は高いかもしれないと感じた』
『ダーク:どういうことだ?』
『髑髏丸:この橋も『石材変形』や『木材整形』で接続すれば十分に丈夫な物ができるはずだ。石なんてそこらに転がっているし、これらの丸太を切りだしたなら枝だって大量に出る。そういったものを使わずに、わざわざ真鍮のかすがいで接続するということは、俺たちが使う魔法の中にはレアなものが混じっているのかもしれない』
『サバイバー:ミニャちゃんの話だと、女神様に会った人の中には王様になったり、ドラゴンを倒すほどの勇者になった人物もいるみたいだからね。ミニャちゃんの配下である俺たちの力が優れている可能性は十分にあると思うよ』
『髑髏丸:まあその分、活動時間や影響制限に縛られるがな』
『平社員:生産属性が言うと重いね。俺なんて影響制限がマックスになったことなんて一度もねえわ』
『髑髏丸:お前だって土属性なんだから、人形作りをすれば半日でマックスだよ』
『平社員:不器用なんだもん!』
『髑髏丸:女神様ショップが開くんだから、そんなことも言ってられないだろ。お前だって会社辞めるんだろ?』
『平社員:それな。名前どうしよう。平社員ですらなくなっちゃう』
『髑髏丸:心だけ平社員で居続けろ』
『ダーク:それで、これからどうする?』
『サバイバー:予定通りに南下する。こっちの道の続きは南西のライデン班が見つけるだろう』
スレッドでライデン班に道が続いている可能性を報告して、一行は再び南下する。
すると、今度は川が2つに分かれていた。
2つに分かれた川の間は小さい洲となっており、護岸もされていた。
右手へ行く川筋には道はなく、左手へ行く川筋にある道を南下する。
ほどなくして、再びの発見。発見の連続に4人は人の文明圏に入っていることを強く認識した。
今度の発見は、東に向かう道だった。橋などはなく、そのまま丘を縫うように道が続いている。
『平社員:今度は南東方面か』
『ダーク:この道から見れば北東だな。これなら、覇王鈴木たちが見つけるだろう』
そんなことを話し合っていると、東の方からバンッと破裂音が轟いた。
『髑髏丸:覇王鈴木の雷魔法か?』
『ダーク:結構聞こえるもんだな。俺たちもかなり進んでいるはずだし、たぶん1、2kmは離れているんじゃないか?』
『平社員:夜の電車の音の原理か』
『髑髏丸:ガキの頃は夜に遠くから聞こえる電車の音は、死者を乗せる幽霊列車だと思ってワクワクしたもんだ』
『平社員:しねえよ!? 普通は布団にくるまってガクブルするもんだよ!』
『サバイバー:東はジタタキっていう鳥の魔物と大きなネズミが多いみたいだよ』
『ダーク:こっちはそんなの全然見ないけどな。人の領域が近いからか?』
『サバイバー:そうかもね。まあ、すぐにはっきりするさ』
スレッドで雷魔法の音が南にも聞こえたことや、東へ続く道があったことを報告して、どんどん進む。
森の入り口から5kmほど進んだ頃、それは見えた。
『ダーク:城壁か!?』
川筋を辿った先に、大きな人工物が見えたのだ。
満月に照らされた石の壁は、威圧感や不気味さよりもファンタジー大好きな賢者たちに強い感動を与えた。
『平社員:行ってみよう!』
『サバイバー:待て待て。大物に釣られ過ぎだ。これだって重要な発見だよ』
サバイバーが指さしたのは、すぐ近くにある石橋だった。
たしかに今までだったらしっかりと調べる発見だが、テンションが上がった平社員はこれをスルーしていた。
足を止め、改めて調査する。
『ダーク:これは車輪の跡か? 想像していたよりも太いな』
『平社員:こっちはたぶん馬のひづめの跡だよな?』
この石橋は2つに分かれた川それぞれに架かっており、この橋を境にして南の道は様子が変わり、車輪の轍や馬のひづめの跡が見られるようになった。
『髑髏丸:これはどういう道路だ? あれだけの城壁を作るなら石畳にしそうだが』
『ダーク:冒険者が使うような裏門なんじゃないか?』
『髑髏丸:なるほど、馬車は業者用として少数が通るだけって感じか』
スレッドの賢者に地形を記録してもらい、いよいよ城壁に近づいていく。
それに伴い、土の地面から石畳の地面へと変わり、周辺の丘が整備されている様子が伺えた。
森の入り口から推定で6、7kmの場所に人里はあった。ミニャの家から二十数kmの距離だ。
城壁の外には、城壁に寄り添うようにレンガ造りの大きな建物が3つあった。それらの建物を囲うように、小さな塀と丸太を使った柵が張り巡らされている。
『平社員:俺の考えていた城壁前と違うな。あの建物はなんだ? 兵舎か何かかな?』
『サバイバー:たぶん冒険者が成果を提出する場所じゃないかな? 獣の臭いがする』
『ダーク:獣の臭いがするってあんた』
『平社員:そういうのって普通は町の中に作らない? ラノベだといい感じの立地に建っているもんだよ』
『サバイバー:いや、よほどの事情がない限り、現実的には中になんて作らないだろう。冒険者たちがどういう獲物を狩ってどんな処理をしているか知らないけど、それが成果になるのなら死体を持ち歩くんだ。それなら町の外か、中に作るにしても入ってすぐの方が都合はいいはずだよ』
『平社員:あー、イノシシの死体を担いで町中に入られても困る感じか』
『サバイバー:そういうこと。猟師は君らが考えるよりもずっと肩身が狭いもんさ』
『ダーク:町の中心にあるような冒険者ギルドはファンタジーだったか……』
『髑髏丸:俺だったら魔物の死体なんて喜んで見に行っちゃうけど』
『平社員:町人をお前と一緒にすんな、ホラーアーティスト』
4人はひとまず秘密工房を作ることにした。
場所は最も近い丘の内部。
むむむっ、ネズミが巣を作ったか? 残念! 賢者でした!
一度帰還したサバイバーたちが1時間少しで再び召喚された頃には、新しい石製人形が数体増えていた。ネズミより酷い繁殖力。
別動隊が2名、城壁の西を見に行った。
新たな別動隊は、ライデン班が石橋に辿り着いたのとほぼ同時刻くらいに石畳で舗装された道や大きな門、その門の前にある広場を発見した。この舗装された道はライデン班が見つけた石橋に繋がっているのだろう。
大きな門の規模から考えて、やはりサバイバーたちが見つけたのは裏門のようだった。
しかし、別動隊が発見した門もまた正門とは限らない。城壁はさらに西へ伸びており、かなり巨大な都市であることがわかった。
■注※■
南部の地図イラストを近況ノートに投稿します。興味がありましたら、見ていただけると嬉しいです。
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