1-44 新拠点作り1
平日の昼に動ける人員は約230人。
もう終わりだねこの国。いや、始まりだ猫の国。
常に総動員するのは不味いので、基本的に半分が召喚され、半分が外部にいるという体制を取ることになった。
召喚されていない人は、パソコンで情報を集めて助言をしたり、連絡係をしたりと活動する。もちろん休憩に入ってもいい。深夜になったら全員が寝るというのは絶対に避けたいので、休憩も仕事なのだ。
というわけで、理想の猫の国を作るためにニート共は人形に宿って異世界へ働きに出た。
「にゃふぅ!」
お人形さんにうじゃうじゃと囲まれてふんすぅとするのはミニャ。
今日からミニャもお外で元気に活動だ。
具体的に言えば、みんなと一緒にお家作りをするのである。
【59、工作王:サバイバー、ネコ太、くれぐれも頼むぞ】
【60、サバイバー:ああ、任せてくれ】
【61、ネコ太:命に代えても守るわ!】
ミニャはこれまで、拠点からほとんど移動しなかった。
安全面から考えても、今回の家作りだって全てを賢者にやらせるのが本当はいいのだろう。
しかし、それでは力を目当てに軟禁する者たちと何も変わらない。ミニャには自由であってほしい。その自由を守るために賢者たちがいるのだから。
お外に出てワクワクしているミニャに、ネコ太が言った。
『ネコ太:お仕事に行く前に、ミニャちゃんにプレゼントがあります!』
「にゃんですと!」
ミニャは目を大きく見開いて吃驚仰天!
生産属性の賢者たちが、そのアイテムを運んできた。
「ふぉおおお、なんだこれ!?」
それは木を彫って作られたヘルメットだった。
ミニャはネコミミがあるため、ネコミミの部分がお山になっている。顎の下で留める紐はコルンの内樹皮を割いて編まれた紐である。
なお、布がないため、残念ながら内側に緩衝材などは仕込めていない。
さっそくミニャはヘルメットをかぶってみた。
『ネコ太:どう、ミニャちゃん。こすれたり痛い場所はない?』
「ううん、ぴったり! みんな、ありがとう!」
ミニャのニコパ光線を正面から受けてしまった製作者たちは、腕を胸の前で畳んでブルルとした。場所次第ではパトカーが出動することになるキショいリアクションだ。
『ネコ太:じゃあじゃあ、ミニャちゃん。くのいちさんの生放送を見てみて』
ネコ太に言われるままに、ミニャはウインドウでくのいちの生放送を見てみた。するとそこには、ヘルメットをかぶった自分の姿が。
「わぁ、これミニャだ! 帽子かぶってる!」
ミニャは女子の本能なのか、角度を変えて似合っているか確かめる。
そうして、にゃふぅとご満悦。なお、ミニャはヘルメットを知らないので、帽子らしい。
ちなみに、ミニャには耳が4つある。
人間としての耳と頭頂部についたネコミミだ。
面白いことにネコミミは内部に穴が空いておらず、鼓膜もない。しかし、間違いなく何らかの音を聞いている様子である。人間の耳の方は普通に音を聞いている。
ボディガードは近衛隊とサバイバー。
主要メンバーは新しく増えたフィギュアに宿り、現状で最高の力を持っている。
『サバイバー:みんな、気をつけるのは3つ、ヘビと猛禽類、あと小型の魔物だ。これだけ人形がいるから地面からの敵の発見が遅れることはないと思うが、上からの攻撃は十分に注意してほしい。無理に攻撃に参加せず、シールド系の魔法で守備に回るんだ』
『くのいち:わ、わかりました!』
『サバイバー:まあ、そこまで気張らなくていいから。ネコ太は常にミニャちゃんと一緒にいてほしい。攻撃を受けたら状況確認よりもすぐに回復だ。わかったね』
『ネコ太:わかった!』
『サバイバー:では出発しよう』
サバイバーが合図を出すと、ヘルメットを被ったミニャがニコパとして宣言した。
「しゅっぱーつ!」
ミニャちゃん軍がいざ出陣!
というわけで、ミニャが参加してのお仕事なので、賢者たちの士気も高い。
本日は斜面を登って、少し北側へ移動した場所に新拠点を作る。
斜面の下だと地崩れや川の増水が心配なのだ。
北側を選んだのはルミーナ草の香りのバリア内へ確実に入るためである。
少し移動すると、10m四方ほどのスペースに大きな木が立っていない場所があった。賢者たちはそこを新拠点にすることとした。もちろん、今日までに調査されて目をつけていた場所である。
まずは下草の処理から始まった。
『ヨシュア:殺虫! 殺虫!』
『闇人:去れ! 不浄なる者共よ! 殺虫!』
最初に殺虫。
ダニやヒルは草刈りの天敵。普通は草刈りの前に殺虫などコストや手間の問題でできやしないが、賢者たちにはそれが容易にできた。
虫を殺す黒い煙が闇属性の賢者たちの手から噴射され、作業予定地を蹂躙する。
それが終わると、次は風属性によるウインドボールの乱射だ。
ボール系の攻撃魔法は属性によって特性がある。火属性なら延焼するし、雷属性なら感電状態にする。
ウインドボールの場合は球体状に渦巻く風の刃で、インパクトの瞬間に裂傷ダメージも追加で与える。
今回はこの魔法を使って背の高い草を直線状に一気に薙ぎ払った。12人の賢者たちが5回ずつ放つと、作業予定地周辺は非常に見通しが良くなった。
『クインシー:魔法やばいな』
『カムシーン:めっちゃ楽しかったわ!』
『ブレイド:こんなに魔法放ったのは初めてだからね』
風の賢者たちは魔法が使えて大満足。
しかし、茎の上は刈り取られたが、根っこは全部残っている。
ここからは手作業だ。
ミニャは建築場所の外側から内側へ向かって草刈りを始めた。
「うんしょうんしょ! お願いしまーす!」
『キャンパー:はーい!』
賢者たちが作ってくれたスコップを使って、ミニャが土をサクサクする。
そこには茎を折られた雑草が植わっており、サクサクしたことで根っこから簡単に抜けるようになった。ミニャの前に並んだ賢者たちが抜けやすくなった草を抜き、少し離れた場所へ捨てに行く流れ作業だ。
もちろん、他の場所でもミニャの役を他の賢者が請け負って、同じことがされている。
建築予定地には大きな木こそないが低木は生えており、小規模の茂みを作っていた。茂みの伐採はケガをしやすいので、賢者たちが請け負うことに。
『平和バト:生命循環』
植物を捨てる場所は少し離れており、群生地から運ばれてきたルミーナ草が10株植わっている。そこに雑草を捨て、回復属性の『生命循環』の効能実験に使用することにした。
また、建築現場の反対側にもルミーナ草を植えて、そちらは生命循環をかけずに観察する。
生命循環は死体を何らかのエネルギーに還元するということだが、どれほどの効果があるか不明なため、こうして実験が必要なのだ。
「あーっ、モグちゃんもお手伝いしてくれるの?」
「モグッ!」
ミニャのお仕事を見ていたモグが自分もやるとばかりに、両手を上げた。
モグブシンはハリネズミの顔をしたモグラっぽい生き物だ。穴を掘るための爪を持っており、草むしりに適した生き物であった。
モグの前にもさっそく賢者が並び、柔らかくなった草を引っこ抜いていく。
そんなモグには、昨晩の定例会議で話された飼育員さんが早速ついていた。
『キツネ丸:サバイバー、虫は食べさせていいの?』
『サバイバー:森で過ごす以上はそのあたりは仕方ないね。賢い生き物なら、じきに俺たちが与えたエサを常食するようになると思うよ』
『キツネ丸:じゃあいいのね?』
『サバイバー:ああ。でも、木属性や回復属性の賢者とよく連携して健康に気をつけて』
『キツネ丸:わかった!』
そんなふうに、ミニャの周りではわいわいと作業が進む。
そんなミニャの安全を陰から支えている存在もいる。
『カーマイン:こっちは大丈夫そうですね。パットマンはどうですか?』
『パットマン:こっちも大丈夫。外区画の手伝いに行こう』
『カーマイン:わかりました』
植物鑑定が使える木属性の賢者たちが、ミニャが触る前に植物を鑑定しているのだ。
どうやら、家を作る区画に危険な草はない様子。続いて、周辺の調査を開始した。
「終わったーっ!」
1時間ほどで草刈りが終わった。
一人一人が小さい賢者だが人数は多いため、作業の速度も早い。もちろん、ミニャも大活躍である。
石の水盤に水属性が洗浄の魔法水を張り、ミニャが手を洗う。
すると、ぷにぷにお手々が少し擦り切れてしまったようで、皮がむけていた。
これは大変と、ネコ太がすぐに回復魔法で癒した。
そうしたら、10時のおやつだ。
「んふふぅ、美味しいね?」
「モモグ!」
賢者たちとプッチン苺をモグモグして、ミニャはニコパとした。
一生懸命仕事をして、幼女やもふもふ生物と一緒におやつを食べる。これが労働というものか。賢者たちに勤労精神が芽生えていく。
危険である。この職場は限りなくホワイトゆえに、現実ではきっと通用しない。
草むしりが終わると、今度は測量が始まった。
ミニャにツルを巻いた木の棒を立ててもらい、ツルのもう一方を賢者が持つ。ツルとツルでミニャと繋がるこのお仕事は取り合いである。
そのツルを目印にして、地面に線を掘っていく。本当なら糸で作業範囲を囲うのが良いのだろうが、ツルは貴重なので線を掘るだけだ。
「おーっ」
4m×4mの綺麗な四角ができて、ミニャは大喜び。
「次、ミニャなにやる?」
ワクワクして尋ねる労働幼女。
『ハイイロ:ここからはちょっと見学だよ。ちょっと見ててね』
「わかった!」
現場監督の生産属性持ちハイイロに言われて、ミニャはステイ。
モグをお膝に抱っこして、賢者たちのお仕事を見学した。
土属性持ちの賢者たちが線の中に入り、一列に並んで『穴掘り』の魔法で穴をモリモリと掘っていく。
壁際は『穴掘り:圧縮』が使われて壁の強度を高め、それ以外は『穴掘り:ストック』が使われる。『穴掘り:ストック』は5分間だけ異空間に土を貯蔵できるので、手際が重要だ。
「ふぉおおお、賢者様凄い。モグちゃん、早いね?」
「モッモグゥ!」
小さい人形たちが力を合わせて大きなことを行なう姿に、ミニャは大喜び。
穴を掘る生き物だからか、モグもかなり興奮気味だ。
しかし、穴掘りをしている本人たちは5分以内に土を所定の位置に捨てなければならないので、大忙しである。
「いいないいなぁ。ミニャも魔法使いたいなぁ」
ミニャは魔法に憧れがあった。
『ミニャのオモチャ箱』という唯一無二の超魔法を持っているが、それはそれ。自分の手で魔法現象を起こしたいのだろう。
『ネコ太:ミニャちゃんの知っている人で魔法を使える人はいなかったの?』
「いっぱいいたよ。みんな生活魔法っていうのを使えるの。でも、ミニャねーえ、まだ教わってないんだ。ネコ太さん、教えてくれる?」
『ネコ太:え。う、うん、わかった。使い方を調べておくから少し待っててね?』
「わかった、ミニャ待ってる!」
幼女のニコパ光線を浴びながら、ネコ太は素早く報告スレッドへ書き込む。
【439、ネコ太:ミニャちゃんに魔法を教えることを議題に加えておいて】
【440、工作王:オッケー。やっぱり、町を見つけて忍び込まないとダメそうだな】
ミニャの知識は、田舎の幼女の知識だ。
町での常識とかけ離れている可能性がある。
一度町へと入って、人間の強さをよく調べる必要があるだろう。
『サバイバー:それじゃあミニャちゃん、ここはみんなに任せて、俺たちは木を探しに行こう』
「お仕事!」
お手伝いしたい系幼女はピョンと跳ねてやる気を示す。
「よーし、モグちゃん行くよ!」
「モグ!」
賢者たちに護衛され、ミニャちゃん陛下とモグがいざ出発。
「これ切る?」
ミニャはさっそく木をペシペシ叩いて、ネコ太に質問した。
ミニャの胴回りよりも遥かに太い木だ。
『ネコ太:うーん、それは切らないよ。そういうのじゃなくて、もっと細いのを探してみてくれるかな』
「わかった!」
しばらく歩くと、賢者たちがそわそわし始めた。
それに気づかないミニャは大発見をした。
「あっ、あれはどうかな?」
ミニャがズビシと指さした。
『くのいち:わーっ、あれは凄く良さそうだよ!』
『士道:おー、良い感じの木だな!』
「にゃふぅ! モグちゃん、あれミニャが見つけたんだ!」
「モモグゥ!」
賢者たちに褒められて、ミニャはモグにドヤ顔マウントを取った。
そう、これは接待である。
すでに周辺は調査されており、良い木がある場所に誘導されたのだ。
ミニャが発見したのは、一昨日も賢者たちが切ってきたコルンの木。
幹が8cm~12cmほどに成長する細い木で、真っすぐに生える特徴があった。この付近ではかなりポピュラーな木だ。
■賢者メモ 植物鑑定■
『コルンの木』
・針葉樹。外樹皮に虫よけの効果があり、虫がつきにくい。
・ミニャにとって、毒性なし、薬効あり、食用可。ただし、外樹皮は非常に消化されにくいので、食用にすべきではない。
■・■・■
『士道:それじゃあミニャちゃん。俺たちが木を切るから、少し見ていてね』
「はーい!」
営林署に務めていたという士道の監督の下、賢者たちが木を切り倒す。木が倒れる様子を見て、ミニャとモグはピョンピョンと喜んだ。
切られた木はすぐに枝打ちされていく。
葉を取った枝が集められ、2つの盛り土の上に橋のように並べて置かれた。
『ネコ太:ミニャちゃん、これにツルを巻こう!』
「わかった!」
賢者たちに補助されながら、ミニャは枝の束をツルでひとまとめにする作業に従事した。
『ネコ太:そうそう、そっちをグルッとして、ギュッギュッてするの』
「ギュッギュッ!」
『くのいち:わぁ、ミニャちゃん上手!』
「んふぅ! ミニャ、ギュッギュッてするの得意なの!」
ミニャは得意そうにニコパとした。
この作業も別にミニャがやる必要はない。木属性の賢者は植物を操れるので、ミニャがやったよりも頑丈にまとめることだってできる。実際に、他の場所では木属性の賢者たちがテキパキと作業をしていた。
しかし、重要なのはミニャも頑張っているという事実なのである。
温室育ちが多い世界にあっては、泥にすら触ったことのない温室育ちでもまあ良かろう。だが、雑草の如く生きている人々が多い世界において、そんな温室育ちは短命になりかねない。
様々なことを経験させ、ミニャちゃん陛下は雑草の中に咲く大輪の花となるのだ。
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