1-10 影響制限Max
賢者たちの召喚祭りの立役者の3人。
ネムネム、工作王、ふともも男爵。
絶対幼女王ミニャは他の追随を許さないレベルで一番凄いが、この3人の活躍によって多くの賢者たちが楽しめているのは間違いない。
この3人は『影響制限:生産』が100ポイントの目前まで溜まっていた。
影響制限が溜まるとどうなるのかまだわからないが、字面からして強制帰還されるものだと思われる。だって『制限』だもの。
そんな折に、ニーテストから『石製人形』を作ってほしいというオーダーが入った。
赤土より石で作った人形のほうがハイスペックだと思うのは当然だ。これにサバイバーを宿らせて、対岸の森でゴブリンの情報を得ようという作戦である。
工作王は生産に携わっている賢者たちに向けてフキダシで言った。
『工作王:おそらく、俺はこの仕事で影響制限が100ポイントになると思う。どうなるかわからんけど、たぶん強制送還になるだろう。ネムネム、あとのことは任せたぞ』
生産属性の賢者たちも増えたので、工作王がいなくなっても回るだろう。
『ネムネム:工作王、死ぬなよ……』
『工作王:さすがに死なんだろ。……死なないよな?』
ミニャの人形工場の監督はネムネムに任せ、工作王とふともも男爵の2人は石製人形の製作に入った。
やることは簡単で、いい感じの大きさの石を『石材変形』で人形の形に加工していくだけだ。
『工作王:魔力消費とかを度外視すれば、粘土で作るよりも簡単だな』
『ふともも男爵:うん、粘土は水分で緩くなってたり、乾燥で割れたりするからね。まあこっちは魔力がモリモリ減るけど』
もう何度も赤土人形を完成させているだけあって、2人の共同作業は息がぴったりだ。15分ほどかけて、石製人形が完成した。
すると『影響制限:生産』が100ポイントを超え、工作王の宿るカカロン人形が唐突にパタリと倒れてしまった。
『ネムネム:こ、こうさくおーっ!』
カカロン人形を抱きしめて、ネムネムがフキダシで叫ぶ。
友が……一緒に戦った友が逝った……っ!
『ネムネム:ミニャちゃーん、カカロン人形が空いたー』
しかして、次の瞬間にはそんな報告を出した。女心と秋の空である。
一方、ふともも男爵はまだポイントが残っているようだ。ミニャ用スコップの分だけ工作王よりもポイントに余裕があったからだ。
ミニャは工作王が宿っていたカカロン人形と、最新のお人形をむむむっとした顔で交互に見る。同時にイベントが起こって対応できない様子。
「ネコ太さん、工作王さんは?」
『ネコ太:うーんとね、たくさんのお人形を作ったから疲れて帰っちゃったんだ』
「そっかー。工作王さん、ありがとう!」
『ネムネム:ちゃんとお礼が言えて偉い!』
お礼を言えるだけで褒められる。それが幼女のエンペラータイム。
「このお人形にも賢者様を召喚する?」
ミニャはそう言いつつ、シュババと賢者召喚画面を出した。
お手伝いできる系幼女は拙速を貴ぶのだ。
『ネコ太:じゃあミニャちゃん、サバイバーをこの新しくできたお人形に移し替えようか』
「はーい!」
ミニャはサバイバーを新しくできたお人形に移し替えた。ちょいちょいやっている作業なので、もう慣れたものだ。
■賢者メモ 人形■
『安山岩人形』※数値のばらつきは後の調べによる。
・女神製のカカロン人形よりもパワーはあるが、女神製の花崗岩人形よりも弱い。
・活動時間:150~170分
・魔力量:170~200点
・生産コスト
・時間的コスト:2人で15分
・『影響制限:生産』コスト:20点×2人
・魔力コスト:60点×2人
※作業参加人数が増えることでコストは変動する。
★・★・★
『サバイバー:おーっ、かなり良い人形だね』
石製人形に宿ったサバイバーはちゃんと作られている5本指をニギニギして、そう感想を述べた。
「良い感じ?」
『サバイバー:ああ、とっても良い感じだよ』
「んふぅ!」
サバイバーの返答に、ミニャは我が事のように嬉しそうにした。
そこでチャットルームにニーテストから指令が入った。
≪ニーテスト:それじゃあサバイバー。さっそく調査を開始してくれ≫
≪サバイバー:了解≫
「サバイバーさんもどっか行っちゃうの?」
チャットルームの書き込みを見ていたミニャがしゅんとした。
『サバイバー:あっちの森にたぶんゴブリンの巣があるんだ。どこら辺にあるのか知っておかなければならないんだよ』
「にゃんですと!」
ミニャはぴょんと体を弾ませた。
「ゴブリンはとっても怖いってお母さんが言ってたから、気をつけてね?」
『サバイバー:ああ、大丈夫さ。それじゃあ行ってくるね』
ミニャとお別れをして、サバイバーは川向こうへと走っていった。
さて、イベントは同時にやってきている。
工作王の『影響制限:生産』が100ポイントになって強制送還された件だ。
チャットルームに工作王が現れた。
≪工作王:もういいか? 無事帰還したぞ≫
どうやらサバイバーの出発を待ってくれていた様子。ゴブリンの調査の重要性を工作王も理解しているのだ。
≪ニーテスト:待たせたな。報告を頼む≫
≪工作王:ああ。まず、なんといってもかなり腹が減ってる。朝飯はちゃんと食ったし、召喚が原因なのは間違いないと思う≫
≪ニーテスト:やっぱり魔力消費か?≫
≪工作王:たぶんそう。悪いんだけど、いまカップラーメン食いながら打ち込んでるから≫
≪ニーテスト:わかった。ひとまず食事を優先してくれ≫
今まで何人かの賢者が活動時間を終えて帰還したが、その中の何人かは帰還後にお腹が空いていることを報告した。
そういう賢者は決まって活動内で魔力をある程度消費していたので、魔力を消費すると空腹状態になることは推測できていた。
≪覇王鈴木:ということは魔力量1000点の人形とかが完成したら危なくないか?≫
下流探索中の覇王鈴木も話に混じって、そんな意見を言った。
≪ニーテスト:いや、おそらく魔力消費割合で空腹度が決まるんじゃないか? 赤土人形で50点消費してかなり腹が減ったというヤツはいたしな。それだと400点くらい使っていた工作王は餓死していてもおかしくない≫
≪ネムネム:当たり前のように餓死とか言うな(;’∀’)次はあたしなんだけど!≫
≪覇王鈴木:ダイエットになるだろ≫
≪ネムネム:あたしは十分に痩せてるわ(;’∀’)これ以上は死んじゃう!≫
≪覇王鈴木:しかし、それだと俺も結構魔力を使っているから、帰ったら何か食うべきか≫
覇王鈴木の活動時間はそろそろ終わりそうだった。
下流に300mほど移動したが、ゴブリンの一件以外は特に何も見つかっていない。
≪覇王鈴木:そういえば、ミニャちゃんは召喚を凄く使ってるけど大丈夫なのか? 誰か聞いた?≫
≪ニーテスト:さっきネコ太が聞いた。全然減ってないみたいだな。オモチャ箱の燃費が良いのか、持っている魔力が桁違いなのか……。とりあえずサバイバーの魔法で出した水だけはあげているから、本格的な食事はもう少し経ってからでいいだろう≫
≪覇王鈴木:オッケー≫
そんな話をしていると、工作王が帰ってきた。
≪工作王:飯を食い始めたら、ステータスの魔力充填率ってのが回復し始めた。特にスープを飲んだらいい感じだな≫
≪ニーテスト:スープを飲んでということは、満腹度よりも栄養吸収で魔力を回復しているのかもしれないな。なんにしても、魔力を全て消費するのはやめるように注意喚起しておこう≫
≪ネムネム:それで影響制限の件は(; ・`д・´)気になります!≫
≪工作王:特にこっちでは確認が取れないな≫
≪ニーテスト:じゃあ少しだけ召喚してみるか。ネコ太、頼む≫
チャットを読んだネコ太が、ミニャにフキダシでお願いした。
『ネコ太:ミニャちゃん、工作王を召喚してみてくれるかな?』
「工作王さん大丈夫? 疲れてなぁい?」
≪工作王:全然大丈夫だよー!≫
コテンと首を傾げて言うミニャ。ミニャのウインドウに表示された工作王のコメントは、デレデレしていることが窺える気持ち悪さがあった。
いざ、召喚。
しかし、今までは問題なく召喚できたのに、工作王は召喚できなかった。
ミニャの召喚画面には、工作王の欄だけ『クールタイム中』と表記されていた。
「はえー、クールタイム中だって」
『ネコ太:うーん、疲れちゃったからダメみたいだね』
「そっかー。工作王さん、ゆっくり休んでね。また遊ぼうね?」
≪工作王:うん、俺、遊ぶ! また遊ぼうね!≫
これが幼女とのお砂遊びを体験してしまった大人のコメントである。
≪覇王鈴木:影響制限が満タンになるとクールタイムを食らうのか≫
≪工作王:これ、クールタイムが終わる時間表記がないけど、どれくらいだと思う? 1か月とかだったら泣くんだが≫
≪ニーテスト:おそらく日付が変わるタイミングか、次の日の出のどちらかだろうな≫
≪覇王鈴木:その根拠は?≫
≪ニーテスト:まず、1週間とか1か月みたいな長いクールタイムや特殊な解除アイテムが必要なことはありえない。そういう設定にすると誰も働かなくなる≫
≪ネムネム:労働についてお前が語るな(;’∀’)ニートの王≫
≪ニーテスト:次に活動時間や魔力充填率は数値化されているのに、クールタイムが数値化されていないのは不自然だ。つまり、全ての賢者のクールタイムが一律で解除されるタイミングがあると予想できる。そうなると、星の動きで考えるのが自然だと思った≫
≪ネムネム:凄くそれっぽい(; ・`д・´)あたしが言ったことにしようぜ!≫
≪工作王:くそー、そうなると今日はもうお預けか!≫
というわけで、工作王は外部活動班になるのだった。
『影響制限:生産』が100ポイント間近なのは工作王だけではない。ふともも男爵も目前であった。
そして、最後の赤土人形が完成する間際、ふともも男爵はミニャにお別れを言った。
『ふともも男爵:ミニャちゃん。僕……僕、夢みたいな時間だったよ! 召喚してくれて本当にありがとう!』
ふともも男爵がお別れを言うと、ミニャはしゅんとした。
お砂遊びをしてくれた賢者なので好感度が高いのである。賢者ネームはあれなのに。
「ふともも男爵さん、ミニャもとっても楽しかったよ。また遊んでね?」
『ふともも男爵:うん! また遊ぼうね!』
ニコパと笑うミニャの笑顔を見るふともも男爵は、激しく後悔していた。
なぜこんな賢者ネームにしてしまったのだろうと。カッコイイ名前や本名の下の名前にすれば良かった。このネームのせいで、幼女と握手するカカロン人形の姿は完全に事案である。
しかも恐ろしいことに、現状で賢者ネームを変更する手段は発見されていなかった。絶望である。名前を変えられるのなら有り金全部課金するくらいの覚悟だってあるのに。
製作途中の赤土人形に『硬化』をかけて完成に導くと、ふともも男爵が宿ったカカロン人形は自立ができなくなって背後に倒れた。
夢のようなひと時を楽しんでいた賢者が宿っていたため、森のさざめきと川のせせらぎも相まって、その光景には物悲しさがあった。
こうして、賢者たちはまたひとつミニャのオモチャ箱のルールを把握した。
攻略本もヘルプ機能もなく、手探りの攻略に賢者たちのやる気は落ちることはない。
■賢者メモ 影響制限について■
・影響制限のいずれかが100ポイントになるとクールタイムが発生する。
・クールタイムがいつ終わるのかは不明。
『帰還後について ※通常の帰還でも同様』
・魔力消費の割合に応じて空腹状態になる。
・満腹度よりも栄養吸収のほうが重要か? 要検証。
・魔力を100%使わずに、80%程度まで留めておく方が無難か。
■・■・■
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます