1-8 斜面の上は
赤土人形の量産が始まり、賢者たちが宿っていく。
■稼働中■
・カカロン人形 4体
・花崗岩人形 3体
・赤土人形 6体
※ストック&充填
・カカロン人形 1体
・花崗岩人形 2体
■・■・■
『クインシー:手を休めるな! ミニャちゃん陛下のために働くのだ!』
『氷の神子:我らの血肉はネコミミ帝国の礎となるのだ!』
『チャム蔵:ひとつ掘っては幼女のため! ふたつ掘っては幼女のため!』
『村雨:ミニャちゃん陛下バンザイ!』
『幻魔:ネコミミ帝国に栄光あれ!』
クインシーの指導の下、新たに追加された賢者たちが赤土の掘り出しと、掘り出した赤土から不純物を取り出す作業に従事する。憧れだった異世界にありながら単調な作業に従事するその姿は、まさにドレ……幼女を守る大人たちの立派な姿であった。
ここで土属性の賢者であるチャム蔵は、新しい魔法を発見していた。すでに同じく土属性のニーテストが見つけていたが、その詳細が判明した形か。
■賢者メモ 土属性■
『穴掘り』
・魔力消費一律5点。
・一瞬にして最大20×20×20cmの穴を掘ることができる魔法。
・掘った土の処理は『ストック』と『圧縮』から選択できる。
・『ストック』は5分間だけ特殊空間に所持できる。5分後に強制的に放出される。
・『圧縮』は体積分を周囲の土に向けて押し出す。圧縮が行なわれた土に対して『穴掘り』を使うと、魔力消費が大きくなる。
■・■・■
あまりにも便利なこの魔法が発見されたことで、土属性の覇権が確定した。
賢者たちが粘土作りに勤しむ中、サバイバーがチャットルームにいるニーテストへ提案する。
≪サバイバー:ニーテスト、すぐに戻ってくるから、ちょっと斜面の上の状況を見てきていいかい?≫
≪ニーテスト:そうだな。護衛も十分にいるし、頼む。遠くには行かないでくれ≫
提案が承認されたサバイバーは、軽い探索に出発した。
ミニャがいる河原は、川と石場を挟んだ両側が斜面になっている。こちら側の斜面は高さ5m程度だが、人形の視覚だとちょっとした山にも見えた。
そんな斜面を花崗岩人形に宿ったサバイバーは、素早く登っていった。
先ほどまで使っていた魔法や身体能力の検証スレッドは、そのまま覇王鈴木の探索スレッドに使われてしまっているので、特に会話もなく黙々と移動する。
3分ほどで登り終え、斜面の上に出た。
斜面の先は森が広がっているが、人形視点では森の様子を確認できない。草の丈が人形よりも高いのだ。なので、サバイバーは近くの木に登り始めた。
≪ニーテスト:無理をして人形を壊すなよ≫
≪サバイバー:俺の心配もしてほしいものだね。まあヘマはしないよ≫
サバイバーは木に巻きついたツルを使ってすいすいと木に登り、木の枝に乗り移った。3mほどの高さの枝だが、30cmの人形からすれば相当な高さだ。
≪サバイバー:みんな見えているかい。斜面の上は大体こんな感じになっている≫
≪ニーテスト:見たところ、ここは山というわけではないのか?≫
森は上流方向にわずかな傾斜となっているが、都会人が考えるような山らしい急斜面ではなかった。
藪を形成している場所もあるが、人がまったく通れないほど全面に下草が生い茂っているわけではない。
≪サバイバー:山にもこういうなだらかなところはあるから、全体を見なければわからないよ。とにかく、森が広がっていてその間に川が流れている事実だけで、今のところは良いんじゃないかな?≫
≪ニーテスト:まあそうだな。それで、今後はどうしたらいいと思う?≫
≪サバイバー:まずはこちら側の斜面の上に見張りを立てた方が良い。ゴブリンが川沿いを歩いていたということは、川を挟んだ両側の森を行き来している可能性がある。斜面の上からゴブリンに急襲されるのは避けたい≫
≪ニーテスト:それは俺も危惧していた。ゴブリンの寝床はどっちにあると思う?≫
ニーテストの質問に対して、サバイバーはミニャが生放送を開始してすぐに現れたゴブリンを思い出して言う。
≪サバイバー:うーん、ゴブリンの強さや活動範囲がわからないからね、なんとも。喧嘩をして逃げ込んだ森があっち側だと考えると、あっちにあるようにも思える。仲間がいない場所に逃げ込んだら殺されそうな勢いだったし≫
≪ニーテスト:なるほど≫
≪サバイバー:なんなら少し偵察に行ってこようか?≫
≪ニーテスト:それは是非やってもらいたいが、少し待ってくれ。赤土人形がもう少し増えたらにしよう≫
≪サバイバー:了解≫
≪ニーテスト:ではまとめると、見張り、森の探索、ゴブリンの偵察、この3つが急務と考えていいか?≫
≪サバイバー:そうだね。ミニャちゃんの移動はゴブリンの根城がどこなのかわからないから、迂闊にしない方が良い。あと、人形が増え次第ミニャちゃんの寝床の心配をした方が良い。いくつか便利な魔法があるようだから、40人もいれば3時間でそこそこの物が作れるはずだ≫
≪ニーテスト:わかった。今の時間が10時30分だから、あと2時間で人里が発見できないようなら寝床の製作に舵を切ろう≫
≪サバイバー:個人的に人里は近くにないと思うよ。ミニャちゃんはゴブリンを危険だと言っているし、人里があるならゴブリンがウロチョロしていないと思う≫
≪ニーテスト:む、たしかにそうだな。そうなると覇王鈴木を派遣したのは無駄だったか≫
≪サバイバー:まあ下流の調査も必要だから、問題ないでしょ≫
調査を終えたサバイバーは、枝から吊り下がっているツルを水のナイフでスパスパと切っていく。支えを失ったツルは地面に落ちていった。
テキパキと作業を終え、今度は幹に絡まったツルを使って降り始めた。そうやって降りながらもツルを切っていき、下に降りる頃には地面に大量のツルが転がっていた。
≪ニーテスト:お前、すげぇな≫
≪サバイバー:地球でもこんなことばっかりやっているからね≫
これには素直に感心するスレ民たちが続出した。なによりも、自分が降りるためのツルが幹から剥れないように見極めて切っているのが凄い。
サバイバーは近くに落ちていた3本の枝を80cm程度に切って束ね、それにツルをグルグルと巻いていく。
それを今まで登っていた木に固定して、即席の梯子にした。
≪サバイバー:見張りをする人はこれを使うといい。正直、地面からじゃ何も見えないよ≫
≪ニーテスト:お、おう。それ登れるやつおる? ニートの集まりだぞ≫
≪サバイバー:必要は人を強くするものさ≫
サバイバーは残ったツルを束ねて真ん中で縛ると、縛った場所を持って引きずりながら斜面に向かった。人の体ならしっかりと持って運べるが、人形の体ではこんな方法しかなかった。
「なんか持ってきた!」
ミニャが型枠に詰めた土を圧縮する仕事を放り出して、サバイバーを迎えた。所詮は幼女、気が散りやすい。
「おかえりなさい!」
『サバイバー:ただいま、ミニャちゃん。あっ、ちょっとまって、ツルに触らないで』
ミニャはさっそくツルを触ろうとしたが、シュバと手を腰の後ろに隠した。
『カーマイン:ツルですか? これはまたたくさん持ってきましたね』
『サバイバー:カーマイン。植物鑑定は見つかったかい?』
『カーマイン:ええ、ありましたよ』
『サバイバー:それじゃあ使ってもらえるかい? キョウチクトウみたいにどこにでもある猛毒の木も存在するからね』
『カーマイン:たしかに。さっそくやってみましょう』
花崗岩人形に入ったカーマインは木属性で、ジョブは魔法使い。
カーマインはさっそく『植物鑑定』を使った。
■賢者メモ 植物鑑定■
『ヨロイカズラ』
・幼木の際には柔軟だが、老木となると非常に硬くなる。
・ミニャに対して、毒性なし、薬効あり、食用可能。
ただし、寄生虫の卵に寄生されているため食用不可状態。使用・服用には煮沸消毒か魔法消毒が必要。
■・■・■
『サバイバー:鑑定がミニャちゃん基準なんだね』
『カーマイン:はい、今までの鑑定は全てそうなりました。我々の存在がミニャさんベースだからなのか、あるいはこの世界における私の知識量の問題なのかは要検証です』
『サバイバー:なんにせよ、毒性と寄生虫の有無がわかるのはとても大きいね』
『カーマイン:ええ。寄生虫に関しては【殺虫の魔法】というものを発見しましたよ。複数の属性で発見されたので、サバイバーの水属性にもあるかもしれません』
『サバイバー:それは素晴らしいじゃないか。サバイバルで虫は大敵だからね』
『カーマイン:はい。いろいろな植物に虫や寄生虫がいると書かれているので、食べるのなら魔法で殺虫をして、火を通すのは必須と考えた方が良いでしょうね』
というわけで、すでに発見されている殺虫の魔法を他の賢者にさっそく使ってもらうと、植物鑑定から寄生虫の卵については文言から消えた。
それを確認して許可が出され、ミニャはツルを触った。
「うにゃにゃにゃにゃにゃっ!」
ブンブン振ってヘビのようにウネウネさせたのも束の間、1分ほどで飽きて、型枠のお仕事に戻っていった。ネコミミ幼女は気まぐれなのだ。
『サバイバー:とりあえず、何かに使えると思うから自由に使ってほしい。必要ならまた取ってくるから言ってね』
サバイバーは丸投げした。
しかし、人形の体では荷物を持つのが非常に不便なので、このツルは大いに役立つことになる。
■賢者メモ 魔法■
『鑑定の魔法』
・基本的に鑑定結果はミニャを基準にしている。
・植物鑑定は、種としての簡単な情報と個体としての状態の両方がわかる。
・詳しい薬効や調理方法の情報は出てこない。
・鑑定魔法を覚えられた戦士系ジョブの賢者は今のところいない。戦士系のジョブは覚えられない可能性が高い。
『殺虫魔法』
・虫や寄生虫を殺す魔法。
・今のところ、火、雷、氷、光、闇属性で発見されている。
・効果に違いは見られないが、属性によって消毒の手法が違う様子。シチュエーションで変える必要があるのかもしれない。要検証。
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