1-7 量産化


 赤土人形の作成に成功したことで、今後の方針が決まった。

 ミニャのオモチャ箱を見ている全ての賢者の下に、全体アナウンスが届く。差出人はニーテストだ。


■■■■■■■■■■■■■

【全体:ニーテスト】

『件名:報告と短期的な方針について及び機能テスト』

 生放送を見てすでに知っているかと思うが、赤土人形に賢者が宿れることが判明した。

 今後は作成した赤土人形を活動のメインにし、活動時間が長い女神製の人形は何体か緊急用に充填してストックしたい。

 召喚についてはチャットルームのメンバーに限らず、どんどん行なっていくつもりなので少し待ってほしい。

 大きな方針を立てるには情報が少なすぎるので、まずは今日一日を無事に乗り越えたい。

 日が暮れる前に多くのことをしなければならないので、協力してほしい。

 また、このアナウンスは『告知』機能のテストでもある。悪しからず。

■■■■■■■■■■■■■


 というわけで、活動が開始された。


『工作王:そうと決まれば、ネムネム、ふともも男爵、アレを作るぞ!』


『ふともも男爵:了解!』


『ネムネム:あれってなに!? あたし、絵師だからわかんないんですけど!』


 テンションが高い工作班の3人は、さっそく次なる作品の制作に着手した。


 まずは河原へ行っていい感じの石材を見つけると、それをパワーがある花崗岩人形たちに運んでもらう。

40cm×30cm×3cm程度の平たい石だ。おそらく石同士が当たって割れたものだろう。自然石なのでもちろん均等の寸法ではないが、これから作ろうと思うものに最適な石と言えた。


 工作王とふともも男爵は、生産属性の『石材変形』と『工作道具』の魔法を駆使して、平たい石を真っ平の石板状にする。

 出来上がった石板に、今度はネムネムが石でひっかいて人形の立ち絵を描いた。


『工作王:ほう、言うだけあって上手いな』


『ネムネム:ったりめーよい! あたしが何年こんなことしてるか知ってるの!?』


『工作王:いや、知らんが』


 工作班のテンションは依然として高い。たぶん、彼らが一番エンジョイしている。


 ネムネムが描いた絵を元にして、工作王とふともも男爵は余計な部分を時にダイナミックに、時に繊細に取り除き、形を作っていく。


『工作王:よし、これで完成だ! 硬化!』


 作業はどんどん進み、30分程度でそれは完成した。


『ネムネム:ミニャちゃん、おいで!』


「できたぁ?」


 なにかを作っていたのは知っていたので、ミニャは嬉しそうに見にきた。

 この幼女、実はプレゼントを貰えると密かに期待していた。スコップで味を占めたのだ。そして、実際にそれはプレゼントだった。


『ネムネム:ミニャちゃんにまたプレゼントがあります! これです!』


「わぁ、なんだこれ!」


『ネムネム:これは型枠です!』


「かたわく!」


 そう、それは石で作られた型枠であった。

 石材というのは意外なほど重くなりがちだが、この型枠は幼女のぷにぷに筋肉でも持てるように無駄を削ぎ落されており、それによって頼りなくなった強度は『硬化』によって補われている。


『ネムネム:それじゃあ使い方を説明します!』


「はい!」


『ネムネム:まずは、この葉っぱの上に型枠を置きます!』


「置いた!」


『ネムネム:そうしたら、ここの泥んこをこの中に詰めていきます!』


「はい!」


『乙女騎士:ミニャちゃん、私も手伝います!』


「うん! 一緒にやろー」


 ミニャは言われた通りに、赤土をせっせと詰めていく。

 その作業をネコ太、ネムネム、乙女騎士が一緒に手伝い、ミニャはとても楽しそう。


『ネムネム:そうしたら型枠をそーっと上に持ち上げてみましょう!』


「そーっと! そーっと! ふ、ふぉおおお!」


 小さなお手々でそーっと型枠を外して、本日何度目かわからない吃驚仰天!

 なんと、いつの間にかお人形さんが出来上がっていたのである!


『ネコ太:ミニャちゃん、超上手!』


『ネムネム:いいねいいねぇーっ!』


『乙女騎士:素晴らしいです!』


『ふともも男爵:凄い!』


 全肯定!

 幼女期に見られるスーパー褒め褒めタイムである。


『工作王:あとはコイツをはめ込むぞ。ふともも男爵はつま先を頼む』


 工作王は別に作ったミトン型の手を差し込み、ふともも男爵はシンプルなつま先を作る。

 ミニャが扱える型枠では手や足の立体感が再現できないので、そのあたりは完成後に加えられる。

 ほかに細部の補修を行ないつつ、『乾燥』と『硬化』で仕上げを行なえば、あら不思議、あっという間に赤土人形が完成した。

 型枠で作られたので、平面的で角ばったシンプルな形だが、逆に味がある。


 さっそく、ニーテストを召喚して検証してみると、先ほどの赤土人形試作機よりも、量産型のほうが魔力と活動時間が上だった。


■賢者メモ 人形■

『赤土人形量産型』

・ボディタイプ:赤土人形

・魔力:120~140点。

・活動時間:55~70点。

※注 数値のばらつきは後の調べより。

■・■・■


『ニーテスト:スペックは先ほどより高くなったようだが、個人的には先ほどのほうが違和感は少なかったな。このあたりのことも検証してほしい』


 そう感想を言って、ニーテストはクールに帰還する。


『工作王:試作機は別にクオリティが低いわけじゃなかったんだけど、こっちの活動時間や魔力の方が多いんだな』


『ふともも男爵:ミニャちゃんが圧縮してくれたからじゃないかな?』


『工作王:あー、圧縮ってのはあるかもな。あとはデコボコの有無とか。まあこのあたりも要検証だな』


 工作王たちが話し合っていると、ネムネムがひとつ発見をした。


『ネムネム:2人とも見て! 影響制限の「生産」が30点も上がってるよ!』


『工作王:ホントだ。でも、俺はたぶん40点だ』


『ふともも男爵:僕もたぶん40点だと思う』


『工作王:となると、型枠制作に対する貢献度が関係しているんじゃないか?』


『ふともも男爵:試作の赤土人形を作っても1人あたり3点しか上がらなかったのに、かなり上がったね』


『ネムネム:型枠は人形を量産できるから影響が大きいってことじゃないかな?』


『工作王:たぶんそうだな。あと、これって製作物に設定されている点数が3人に振り分けた感じがあるな。つまり型枠は110点を3人で割った感じだ』


『ふともも男爵:そうなると、やっぱり人数を増やした方が影響制限に到達する時間を伸ばせるかもしれないね』


『ネムネム:影響制限が100点を超えたらどうなるかわからないのがなぁ』


『ふともも男爵:強制送還くらいだと思うけどな。永久に召喚されないってことはないと思うよ。それだと誰も働かなくなるし、オモチャ箱の根幹が揺らいじゃう』


『工作王:まあなってみないとわからんだろ。とにかく、この件は生産のスレッドにあげておくよ』




 赤土人形が量産化できる目途が立ったので、ニーテストがチャットルームから提案を出した。


≪ニーテスト:みんな、聞いてほしい。赤土人形の量産が可能になったので、まずは川の下流を探索したい。少し下って人里があるなら選択肢が広がるからな≫


≪覇王鈴木:じゃあ俺が行こうか? 新しい賢者だと人形の体に慣れるのに時間がかかるだろ≫


≪ニーテスト:え、お前が行くの?≫


≪覇王鈴木:え、ダメ?≫


≪ニーテスト:まあ別にいいけど。だが、使い捨てにできる赤土人形に乗り換えてもらうぞ。女神の人形は捨てられん≫


≪覇王鈴木:花崗岩人形は予備としてストックに回すんだろ? なら、俺の花崗岩人形は早いところ充填を始めていいよ≫


≪ニーテスト:わかった。じゃあ頼む≫


 覇王鈴木は、いま宿っている花崗岩人形の活動時間をまだ2時間以上残していたが、赤土人形に乗り換えての探索に名乗りを上げた。それは大人の対応か、あるいは賢者ナンバー5の余裕か。


 覇王鈴木を赤土人形へと入れ替えた。

 型枠で作った赤土人形が動き出したことで、ミニャはにゃふぅと大興奮。


≪覇王鈴木:あー、これは明らかに女神様製よりもスペックが低いな。それにニーテストが言っていたみたいに違和感がある。特に顎がないから顔に違和感が多いな≫


 ミトン型の手をニギニギして、覇王鈴木はそう感想を言った。


≪ニーテスト:覇王鈴木、時間も惜しいから出発してほしい≫


≪覇王鈴木:わかった≫


 そうして出発しようとする覇王鈴木だったが、そこでネムネムとネコ太が水を差した。


≪ネムネム:小人化して異世界の大自然へ一人旅に出るとか勇気あんなぁ(;’∀’)さすが覇王やな!≫


≪ネコ太:私はミニャちゃんの近くがいいな≫


 覇王鈴木はそのコメントを読むと、周りの光景を見回し、次いで川へと視線を向けた。

 こんな場所を小人の体で冒険するのか?


≪覇王鈴木:よく考えてみれば正気の沙汰じゃねえな。やっぱりやめていい?≫


≪ニーテスト:いや、行けよ≫


≪覇王鈴木:いやでも、ミニャちゃんの護衛が少なくなっちゃうし≫


≪ニーテスト:こっちは十分にいるからとっとと行け≫


≪覇王鈴木:おのれぇ!≫


 どうやら覇王鈴木がどこかへ行くみたいなので、ミニャが残念そうにした。


「覇王鈴木さん、どっか行っちゃうの?」


『ネコ太:覇王鈴木は川の下の方を見に行ってくれるんだって。いってらっしゃいって言おうね』


「川を下るの?」


『覇王鈴木:あ、ああ、うん……』


「そっかー。いってらっしゃい。気をつけてね」


 ミニャはそう激励してくれた。


『覇王鈴木:いってきます……』


 こうして覇王鈴木は旅に出た。




>>>>>>>>>>>>>>>


 とある雑談スレッド。


544、名無し

 おいおいおい、どんどん生放送が見られる賢者が増えていくんだが!?


545、名無し

 これもうガチだろ? いま召喚された4人の生放送を見たけど、完全に映像がリンクしている。


546、名無し

 ダメだ、どんなに調べてもAI生成の新技術の発表なんてないわ。


547、名無し

 もう俺の画面分割はいっぱいだよ!


548、名無し

 いや、さすがに取捨選択しろよ。それかリサイクルショップでディスプレイ買ってこい。


549、名無し

 クソッ、こんな名無しばかりの雑談スレになんて1秒だっていられるか! 俺は覇王鈴木のスレに行くぜ! (。-`ω-)っ|彡 バタンッ!


550、名無し

 それ死亡フラグや。


551、名無し

 でも実際問題、ニーテストが摂政ポジションについてるし、名無し表記じゃ見つけてもらえんぞ。


552、名無し

 ふっふっふっ、俺はすでに別のスレッドでネームを晒して活動中だ。


553、名無し

 は? 抜け駆けかよ!


554、ギーンズ

 お、俺は騙されないぞ! 何度も何度も騙されてきたんだ! 車に飛び込み、神社の裏の森で宿泊し、変なサイトに誘導され……っ! 全部違った! もう騙されない!


555、名無し

 と、ギーンズさんが仰っています。


556、名無し

 体張るなぁ。でも、嫌いじゃないよ。


557、名無し

 どこまでガチかわからんけど、変なサイトは引っかかってそう。


558、名無し

 き、聞いてくれみんな。俺、生産属性なんだが、ニーテストから異世界に行ってくれって連絡がきたんだが!?


559、名無し

 えーっ、ズルいズルいズルい! ニーテスト、闇属性の方が役に立つぞ!


560、名無し

 あー……闇かぁ。


561、名無し

 実際問題、異世界に行けるとして、闇属性って何ができるんだ?


562、名無し

 俺がニーテストの立場だったら、今の状況なら闇属性よりも生産属性を優先的に送るわ。闇属性は適当に1人送って検証させれば十分だし。すまんな。


563、名無し

 こういう仕様の異世界転移だって書いておいてよ女神様! それなら俺も生産属性にしたのに!


564、名無し

 闇属性が無能なんてまだわからないじゃないか(震え声)


565、名無し

 558はいつ行くの?


566、名無し

 数人分がすでに順番待ちにしているから、30分から1時間くらいを目途に考えてくれだって。やべえ、すげぇソワソワする! 本当に異世界かな!?


567、名無し

 俺も別スレッドでいい感じのこと書いてくる!


568、名無し

 お前にその能力があるかな?


569、名無し

 なあ、異世界に行った証拠を持ってきてよ。


570、名無し

 どうやって? 物なんて持ち帰られるの?


571、名無し

 ニーテストの話だと異世界に行っている間は体が消失するってことだから、本体が消えるのを撮影すれば?


572、名無し

 その動画を撮っても、このサイトって画像を添付できないぞ。


573、名無し

 外部の掲示板に貼ればいいじゃん。


574、名無し

 わかった、それじゃあやってみるよ。


575、名無し

 待て待て待て。それはダメだ。外部スレでそんなもんを流出させたら、ミニャのオモチャ箱に人がなだれ込んでくるぞ。オモチャ箱の名前を出さなくても、興味を持たれるようなことはするべきじゃない。


576、名無し

 掲示板が賑わったら楽しいじゃん。


577、名無し

 アホか。人が増えるだけ、俺たちが召喚される確率が減るだろうが!


578、名無し

 ほんまや!


579、名無し

 外部サイトに流出させるのは却下で。絶対にやるんじゃねえぞ!

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