1-6 人形製作 


『ネコ太:にゃんにゃん! にゃんにゃん!』


「にゃんにゃん! にゃんにゃん! にゃ、にゃんにゃしゅ! にゃしゅにゃしゅ!」


 ネコ太とミニャがにゃんにゃんとダンスする。

 お人形さんと遊べてミニャは夢中である。あまりに楽しくて途中から本能が出てしまっている。所詮は幼女。


 みんなが検証をしている間にネコ太は何を遊んでいるのだと思うなかれ。召喚された賢者たちの中で、現状で最も働いているのがネコ太だった。

 ネコ太の任務はミニャと遊ぶこと。ミニャに賢者たちへ悪印象を与えてはならないため、ネコ太の任務は責任重大なのだ。


 そんなネコ太に、チャットルームでニーテストから指示が入った。


≪ニーテスト:ネコ太、ご苦労。新しい賢者を召喚するから手を止めてくれ≫


≪ネコ太:わかったわ≫


 ネコ太は踊りを止め、腰を曲げて両膝に手をついた。声を発しないのでわかりづらいが、ぜえぜえと肩で息をしている様子。

 賢者たちは人形状態でも呼吸をしているのだが、実際に口から吸って吐いてをしているわけではなかった。目や耳がないのに見聞きできるように、呼吸も不思議な補正がかかっているのだ。

 図らずしも、ネコ太は運動による息切れがあることを発見していた。それと同時に、インドア派を他の賢者へ露見させてしまってもいる。


『ネコ太:ミニャちゃん、賢者召喚するんだって』


「新しい賢者様!」


 ネコ太のフキダシを読んで、ミニャはむむむっとした。

 さっそくネコ太に教えてもらいながら、ミニャは賢者召喚していく。


 新しく賢者召喚されたのは4人。

 カカロン人形に、ふともも男爵。

 花崗岩人形に、カーマイン、乙女騎士、クインシー。


■稼働中の人形■

・カカロン人形 4体

 ネコ太、ネムネム、工作王、ふともも男爵。

・花崗岩人形 5体

 サバイバー、覇王鈴木、カーマイン、乙女騎士、クインシー。


※カカロン人形1体はアルカスのせいで紛失中

■・■・■


『カーマイン:こ、こんなことが本当に現実に……っ!』


『乙女騎士:あわわわわ、こんなの牛丼屋のアルバイトしてる場合じゃないです!』


『クインシー:お、俺はいま猛烈に感動している……っ!』


 順番に召喚されていく賢者たちだが、全員がその不思議な体験に歓喜と驚愕のコメントを表示する。そうして、超おっきな幼女に挨拶されるとコロンと背後にひっくり返る者が続出。


『ふともも男爵:本当に本物の異世界だぁ……』


「ふともも男爵さん、よろしくお願いします!」


 そんな中で召喚されたのはふともも男爵。

 ミニャはニコパと笑いながら指を差しだした。

 ふともも男爵は感動に打ち震えながら、小さな両手でミニャの人差し指と握手した。


『ふともも男爵:み、ミニャちゃん。僕……僕、なんでもやるよ! なんでも言ってね!』


 なんだか良いヤツそうである。しかし、ネームがどうしようもなくアウトだ。実際に、掲示板ではアウトコールが噴出している様子。


≪ニーテスト:ネコ太、ミニャにみんなへ指示を出させてくれ。指示の内容はこうだ——≫


≪ネコ太:了解!≫


 ニーテストがネコ太に指示を出し、ネコ太がミニャに指示を出させる。

 ミニャはネコ太のフキダシを読みながら、嬉しそうにみんなに指示を出していく。


 この奇跡体験のリーダーは誰か。ニーテストはそれをミニャとした。

 まだ7歳であろうとも、これから長く付き合うのならミニャを下にするような扱いをしてはならないのだと。


「うーんと、新しくきた賢者様はミニャの護衛をしてください!」


 ミニャはネコ太のフキダシをカンペにして、みんなに指示を出す。


「えとえと、サバイバーさんと覇王鈴木さんは、カカロンのお人形を持ってきてください!」


 賢者たちもネコ太のフキダシを読むことができるが、カンニングはせずにミニャを見守る。まさにごっこ遊び。


「工作が得意な賢者様は、お人形作りを始めてください! えとえと、えーっとね、終わりでしゅ!」


 最後は噛みつつもちゃんとできたミニャに、ネコ太がカカロン人形の手でカチカチと拍手した。ミニャはむふぅと誇らしげ。


 一方、ここでネムネムが必殺技でも出すような大げさな手の動き。

 大気を練るように回転させた手が緩から急へと速度を変え、ビシッと止まる。


 にゃんのポーズである。


 それを見たネコ太が便乗してにゃんのポーズ。さらにサバイバーも続く。この男、ノリが良かった。

 1人、2人とノリのいい順番ににゃんのポーズが形成され、全員がにゃんのポーズで固まった。果たして、この中にいい歳のオッサンは何人含まれているのか。


 賢者たちの謎の行動に、ミニャはむむむっとした。

 しかし、ネコ太とのダンスですでににゃんのポーズは体得済み。ミニャもビシィとにゃんのポーズで迎え撃つ。ネコミミがピコピコと動くさまは真打登場の貫禄である。


 にゃんのポーズが、ミニャ軍団の敬礼に採用された瞬間だった。戦犯はネムネムである。




 それぞれが活動を開始する。

 誰も勝手な行動をしないあたり、ニーテストの選出は良かったようだ。


『ネムネム:ミニャちゃーん。あたしたちのお手伝いしてくれるかな?』


「お手伝い!? やう! ミニャやう!」


 それはお手伝いしたい系幼女への甘美な誘い。喜びのあまり噛んじゃうくらいだ。

 ミニャはワクワクしながらネムネムたち工作班の下へ行った。


『工作王:ミニャちゃん。土を触って手が汚れちゃうけど、お手伝いしてくれるかい?』


「うん、いいよぉー」


 軽い。ネコミミ幼女にとって泥んこ遊びなど恐れるに足らずなのである。


『工作王:よっしゃ、それじゃあネムネム』


『ネムネム:まずはミニャちゃんにこれをプレゼントします!』


「にゃんですと!」


 唐突なプレゼントにミニャは吃驚仰天!

 そこには、大きな葉っぱの上に恭しく乗せられた小さなスコップがあった。


 柄の部分が木でできており、グリップと刃の部分は石でできていた。

 これらは現状で発見されている生産属性の魔法で作られたものだ。

 柄の部分を完全に木のみにしていないのは、棘が刺さらないようにするためである。



■賢者メモ 生産属性■

・『工作道具』

 魔力を具現化して工作道具にする。手から離すと消える。複雑な仕組みの道具は作れない。他者にこの道具を貸すことはできない。


・『乾燥』

 対象範囲を乾燥させる。生えている状態の木を含め、生物に対しては効果がない。


・『硬化』

 消費魔力に応じて対象を硬くする。元から硬い物は消費魔力が大きい。効果時間や硬さの限度など、未検証の部分が多い。


・『石材変形』

 体の一部に魔法を宿し、石材を粘土のように扱える。この魔法は石に作用しているわけではないようで、他の賢者が石を粘土のように扱うことはできない。つまり、同じ魔法が使える賢者でなければ作業を手伝えない。

 また、異なる石同士を混ぜ合わせることはできない。ただし、石同士を嵌めこんで固定するなどして連結することは可能。未検証の部分が多い。


・『木材整形』

 木材を真っすぐにしたり、湾曲させたりできる。切断や枝の剪定ができるわけではない。『石材変形』のように粘土のように扱えるわけではないため、木の真ん中を盛り上げるといったことはできない。

■・■・■


「ふぉおおお……」


 ミニャは貰ったスコップを掲げた。

 木の棒を聖剣と名付けた幼女は、新たな武器を手に入れたのだ。


『工作王:ミニャちゃん、俺が作ったんだよ!』


 工作王がすかさずアピールした。


「わぁ、ありがとう、工作王さん!」


『工作王:へへっ!』


 幼女に褒められて、工作王はテレテレした。


『工作王:じゃあミニャちゃんには、このあたりの土を掘ってもらおうかな』


「ミニャ頑張る!」


 工作王が示した場所を、ミニャはスコップでせっせと掘っていく。

 刃が研がれていないスコップなので日本製のようにはいかないが、それでもちゃんと穴掘り道具として機能していた。


 工作王、ネムネム、ふともも男爵の工作班の3人は、掘り出された土から枯葉や木の枝、小石などを取り除いていく。


 そんな作業をしていると、カカロン人形を回収しに行っていたサバイバーと覇王鈴木が帰ってきた。


「お帰りなさい!」


 ミニャは一旦手を止めて、任務を終えた2人を迎えた。


『サバイバー:ミニャちゃん、ちゃんとカカロン人形はあったよ』


「わぁ、見つけてくれてありがとう!」


 ミニャはニコパと笑った。


 ひとまず、このカカロン人形はストックすることに。

 というのも、人形には活動時間の再充填が必要だからだ。活動時間は1分に1点回復することがすでにわかっていた。


 ほかの9体の活動時間が終わったら、活動時間が再充填されるまでミニャが無防備になってしまう。

 しかし、1体では心もとないので、いくつかの検証を終えたら、その検証次第では何人かの賢者を帰還させて、数体の女神製の人形はストックしておく方針となった。


 その検証のひとつが、いまミニャがお手伝いしていることでもあった。


 ミニャが掘り出した土から、みんなで小石を取り除いていく。人形の目線だけあって、小石を取り除くのはかなり早い。

 そうしたら、サバイバーの魔法で水を出してもらい、用意した土を湿らす。


『工作王:予想通りいい感じだな』


『ふともも男爵:うん、これならいけそうだね』


 この辺りは腐葉土の下が粘土質の赤土となっており、いい感じの泥ができあがった。


 工作班の3人は、大きな葉っぱの上に赤土粘土を乗せて整形していく。さすがと言うべきか、3人とも物作りが上手く、あっという間に人形の形を作り上げてしまった。


「ふぉおおお、上手!」


『ネコ太:ねぇー、上手だね、ミニャちゃん』


「うん!」


 お砂遊びをしてご機嫌なミニャは、ブンブンと手を振って大興奮。

 そんなミニャに、工作王がフキダシで言う。


『工作王:まだ感心するのは早いぜ。ここからこうするんだ。「乾燥」!』


 工作王が『乾燥』の魔法を使い、赤土粘土に含まれていた水気を飛ばす。

 急速乾燥させたことでひび割れが生じていないか3人でチェック。工作好きの集まりなので細かい。


 それが終わると、工作王は『硬化』の魔法で赤土粘土を硬くした。


『工作王:よし、完成だ!』


 そうして出来上がったのは、赤土粘土で作った『赤土人形』であった。

 トントンとボディを叩いてみると、かなり硬い。


『ネコ太:ミニャちゃん、それじゃあこれに賢者を召喚してみようか?』


「にゃんですと!?」


 お人形の出来栄えに「ふぉおおお……」と感心していたミニャだったが、ネコ太の発言に再び吃驚仰天!

 お砂遊びに大満足していたミニャは、賢者召喚用の人形を作っているつもりなんて全くなかったのだ。それが幼女マインド。


 ミニャは大急ぎで賢者召喚画面を出した。


『ネコ太:ミニャちゃん。ニーテストを召喚してあげて』


「わかった!」


『覇王鈴木:あいつ勇気あるなー』


『乙女騎士:でも、関節など一切ありませんが大丈夫なんでしょうか?』


『カーマイン:それはたぶん大丈夫だと思いますよ。私たちだって、背骨はないのに背中を曲げられていますし』


『乙女騎士:あ、確かにそうですね。魔法的な補助がかかるんですかね』


『クインシー:宿った状態で部位欠損とかしたらどうなるんだろう』


『カーマイン:それもいずれは検証しなければならないことですね』


 新しく召喚された賢者たちもフキダシで意見を交わし合う。


 ミニャの賢者召喚画面には、使用選択の人形一覧にちゃんと『赤土人形』という新しい人形が追加されていた。

 さっそくそれを使用して、ニーテストを召喚してみる。


 むくりと起き上がる赤土人形を見て、ネムネムたちは興奮した。自分たちが作った物が動き出す姿を見て、工作好きが喜ばないわけがない。


『ネムネム:ふぉおおお、ちゃんと動いたぁ!』


『工作王:やっべ、おもしれぇ!』


『ふともも男爵:どうしよう、僕、凄く感動してる!』


 一方、非生産職の面々は別のことで喜んだ。

 女神から貰った10体の人形を順番に使うようなら、次はいつになるかわかったものじゃない。しかし、賢者が作った人形も使えるのなら次の順番も早くに巡ってくる。だから、これは非生産職にとっても朗報だったのだ。


「ニーテストさん、またよろしくお願いします!」


『ニーテスト:ああ、よろしくな。だけど、またすぐに帰還するんだけどな』


『ネコ太:あんた、ドライねぇ』


『ニーテスト:あとで楽しませてもらうから大丈夫だ』


 さらにストックしておいたカカロン人形にも賢者を宿してもらい、11人目の賢者も召喚できることが証明される。

 女神に貰ったのは10体の人形だったので、この数が召喚限界の可能性があったが、11人目が大丈夫なら12人目も13人目も召喚できるかもしれない。

 人数制限の検証は、わからないことだらけの賢者たちにとって密かに重大な検証だった。


 ニーテストは軽く検証すると、カカロン人形に宿った賢者と共に帰還した。


■賢者メモ 赤土人形試作機■


ボディタイプ:赤土人形

魔力:121点

活動時間:59点


性能に特筆した部分は見られない。

汎用型か?

■・■・■



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