1-2 賢者召喚
■アイコン説明:以降、フキダシによる会話形式として『』が使われます。その際には『人名:~』という表記になります。また、地の文中に現れる『』は固有名詞など文の補助に使われます。ややこしいかもしれませんがご了承ください。■
ゴブリンが去ったのと見てホッと息を吐いたミニャは、囁き声で文字入力する。
≪ミニャ:怖かったー≫
ちなみにだが、生放送モードになっているので、ミニャの囁き声はチャットだけでなく、生放送の中でも普通に聞こえている。
ミニャは音声か念じることで文字を入力できるのだが、今のところは音声入力だけを使っていた。
≪サバイバー:ミニャちゃん、今のはなんだい?≫
≪ミニャ:ゴブリンだよ≫
≪覇王鈴木:ミニャちゃんでも倒せる相手なのか?≫
≪ミニャ:うーん、ミニャもうお姉さんだけど、ミニャにはまだちょっとだけ早いかもしんない≫
≪ネコ太:うん、やめておいた方が良いよ!≫
≪ニーテスト:ミニャ、町か村は近くにあるか?≫
≪ミニャ:わかんない≫
≪工作王:幼女一人で魔物がいる森でサバイバルってやばくないか?≫
≪アルカス:だからザコを倒してレベル上げするんだろ≫
≪ネコ太:だから無責任なこと言ってんじゃないわよ!≫
≪サバイバー:とりあえずさ、『賢者召喚』をしてみたらどうだい? どういうものかわからないけど、なんでもやってみたほうが良いと思うよ≫
≪ニーテスト:そうだな。女神から力を貰ったというのなら、現状を打開する程度の力はあるだろう≫
≪ネコ太:ミニャちゃん、賢者召喚はできる?≫
≪ミニャ:うん、ミニャやり方知ってるよ≫
≪覇王鈴木:ほっほう! じゃあやってみよう≫
≪ミニャ:うん、わかった≫
ミニャはその指示に素直に従った。
「うんと、うんと……これ!」
ミニャはメニューの端っこから順番に指さして読んでいき、『賢者召喚』の場所でパッと顔を明るくする。
『賢者召喚』をペッと押すと、専用のウインドウが別の場所に開いた。ミニャはちょっとビクッとした。
専用ウインドウには、ズラリと登録者の名前が表示されていた。もちろんネコ太たちの名前もあった。現在25人の賢者が登録しているようで、どうやら登録が早い順に並んでいるようだった。
上部のメニューリボンには、召喚の反対の送還ができることが窺えるコマンドもあるので、ミニャの権限は相当に強いことが窺えた。
≪ニーテスト:ちょっと待て、ミニャ≫
ニーテストのコメントを見て、ミニャはシュバッと手を引っ込めた。
≪ニーテスト:召喚できる人数は何人までなんだ?≫
≪ミニャ:うんとねぇ、わかんない!≫
≪ニーテスト:そうか。それじゃあサバイバーに質問なんだが、お前はサバイバル能力が高いのか? それともそのネームに深い意味はない感じか?≫
≪サバイバー:君らよりもサバイバル能力は高い自信はあるよ。よくテントなしで1週間くらい山籠もりするし≫
≪覇王鈴木:どういう人生だよwww≫
≪サバイバー:中学の頃から1人でそんな遊びばっかりしていてさ、大人になった今も爺ちゃんの山を継いで続けてる感じ≫
≪ニーテスト:ふむ、気になることもあるが時間を割いている暇もないな。そういうことなら、俺は1人目にサバイバーに行ってもらうのが良いと思う≫
≪アルカス:ちょっと待てよ。なんでお前が仕切っているんだよ≫
≪ニーテスト:何人も召喚できるのならお前も呼んでもらえばいい。ただ1人目は絶対に外せないからサバイバーを推薦する。それとも他に良い案はあるか?≫
≪アルカス:俺が一番に行くのが良いと思う。サバイバーが本当にサバイバルが得意な保証なんてないだろ。口でならなんとでも言えるんだから。俺はメラギアのキャラレベルが999だ。この力が異世界まで持っていけるなら俺こそ最強だ≫
≪覇王鈴木:俺も最初はサバイバーが良いと思う。ただ、本当に召喚されるならあとで俺も行かせてくれよ≫
≪ネコ太:うーん、そういうことならサバイバーでいいよ。アルカスよりは頼りになりそうだし≫
≪ネムネム:むぅ、しょうがないからサバイバーに最初は譲る(/_;)行けよ≫
≪工作王:これで釣りだったら俺たちはいい笑い者だな。俺もサバイバーに1票≫
≪ニーテスト:これで全員の同意は得たから、あとはサバイバー次第だな。行ってくれるよな?≫
≪アルカス:おい! 俺、同意してないぞ!?≫
≪サバイバー:いいよ、本当に行けるなら行こうじゃないか。だけど、3分待ってほしい。準備する≫
≪ニーテスト:それじゃあミニャ、もう少ししたらサバイバーを召喚してくれ。召喚するタイミングはこちらで言う≫
≪ミニャ:ミニャ、わかった!≫
≪アルカス:はー? 絶対に俺の方が役に立つし! ガキの頃から俺がどれだけRPGをクリアしてきたと思ってんだよ!≫
≪ネムネム:それってたぶんこのサイトにいる大体の人に当てはまるよ(;´・ω・)なんの自慢にもならん≫
ウインドウを通してそんなやりとりをしながら、ミニャは川の様子を注意深く見ていた。
いまのところ、先ほどの一件以外に魔物の姿は見られず、平和なものである。
しばらくすると、サバイバーの書き込みがあった。
≪サバイバー:待たせたね≫
≪ニーテスト:それじゃあミニャ、サバイバーを召喚してみてくれ≫
≪ミニャ:わかった!≫
そう指示を受けたミニャは、先ほど途中までやっていた賢者召喚の続きを再開した。
ミニャはたどたどしい手つきで、サバイバーを選択した。
すると、ウインドウにこのような文言のサブウインドウが現れた。
【人形を選択してください】
≪ニーテスト:ミニャ、カカロン人形というのはなんだ?≫
≪ミニャ:これだよー。女神様から貰ったの!≫
ミニャはお座りさせておいた木製人形の胴体を両手で抱っこして、賢者たちに見せてあげた。
≪工作王:ふむ、デッサン人形みたいだな。ミニャちゃん、カカロンっていうのはなにかわかる?≫
≪ミニャ:カカロンは木の名前だよ≫
≪工作王:ほう、日本じゃ聞いたことないな。異世界特有の物かな≫
≪ネムネム:つまり、人形に憑依されるってことかな(; ・`д・´)ちっちゃいんだが?≫
≪覇王鈴木:でも女神様から貰ったなら超強いかもしれないぜ?≫
≪ニーテスト:とにかくサバイバーを送り込もう。ミニャ、じゃあサバイバーを召喚してくれ≫
≪ミニャ:うん、わかった!≫
≪サバイバー:人形か……どうなるんだ?≫
ニーテストの指示を受け、ミニャは改めてサバイバーの召喚を試みた。
すると、サバイバーからコメントがあった。
≪サバイバー:おーっ、俺のパソコンに召喚に応じるか問いかけがあったよ。ニーテストが運営の回し者で俺を嵌めてるとかないよね?≫
≪ニーテスト:俺の通帳に賭けてそれはないと誓おう≫
≪ネムネム:ニートの通帳はチップになるんか(*’▽’)教えて窓口のお姉さん≫
≪サバイバー:まあ、いいや。なんかあれば消費者センターにダッシュだし。ちょっと行ってくる!≫
≪覇王鈴木:死ぬなよ!≫
≪アルカス:ちくしょう、いいなぁ!≫
サバイバーへの激励や羨みの声が上がる中、ミニャの『生放送』に映るカカロン人形に、光の柱が重なった。
光の柱が収まると、そこには今まで居なかった青年の姿があった……などということはなく、カカロン人形が寝ているだけで変化は見られなかった。
ところが、次の瞬間、カカロン人形がむくりと動き出すではないか。
「ふぉおお、お人形さんが動いた!」
ミニャは手をブンブン振って大興奮。この能力の持ち主なのに。
一方、カカロン人形はそれどころじゃない。
『サバイバー:ま、マジかよ……』
頭の上にそんなフキダシが現れるが、カカロン人形は気づいていないようだ。
手のひらを見つめ、顔をキョロキョロと動かし、ミニャの姿を見上げると、コテンと背後へとひっくり返った。とりあえず、稼働によってボディが破損することはない様子。
人形が動き出したことでチャットルームも大盛り上がりだ。
≪覇王鈴木:うぉおお、これは面白い!≫
≪アルカス:いいないいなぁ!≫
≪ネムネム:ふはーっ、お人形さんが動いたぁ(*'▽')メルヘン!≫
≪ニーテスト:ふむ、サバイバー視点の生放送も出てくるのか≫
≪工作王:ニーテスト、君、ドライって言われんか?≫
≪ネコ太:サバイバー、ミニャちゃんのお顔を見上げなさい!≫
チャットルームの盛り上がりはさておき、ミニャはカカロン人形に声をかけた。
「サバイバーさんですか?」
『サバイバー:あ、ああ、そうだよ』
カカロン人形改め、サバイバーはコクリと頷いた。
ミニャの視線が自分の頭の上にあることに気づいたサバイバーは、ここで初めて自分の発言が声ではなく、フキダシとして表示されていることに気づいた。
「ふぉおお、しゅげー。サバイバーさん、よろしくお願いします!」
『サバイバー:うん、よろしくね、ミニャちゃん』
ミニャが小さな手を差し出すと、サバイバーはカカロン人形のマッチ棒のように細い指で、ミニャの人差し指を握った。
幼女と賢者、初めての肉体的ふれあいである。事案ではない。
≪ネコ太:はい、致死量の萌え粒子いただきました!≫
≪ネムネム:ニコパしとる(∩´∀`)∩ニコパァ!≫
≪工作王:たしかにこれは可愛い≫
サバイバーと触れ合うミニャの笑顔を見てやられる人が現れる。ミニャの生放送では、ミニャの顔自体は映らなかったからだ。
ミニャは淡い緑色の髪をした幼女で、頭にネコミミを生やしていた。
服装は綿か羊毛で織られたと思われる、これぞ村娘といったような服を着ており、牧歌的な印象を受ける。スカートには穴が空いているようで、そこから髪と同じ色のシッポがにょきりと出ている。
こうして、ミニャのいる世界に初めての賢者が降り立つのだった。
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