第1章
1-1 初カキコ
■アイコン案内:以降|≪≫はチャットルーム内での会話。
女神の園を出たミニャは、気づけば見知らぬ河原に立っていた。
てっきり元いた場所に帰るのだと思っていたミニャは、思わずはえーとした。
どうやら左右を森に挟まれた河原にいるようで、そこら中に大小さまざまな石がゴロゴロと転がっている。すぐ近くには幅2~3mの川が流れていた。
「みゃっ!」
思考を停止させていたミニャのネコミミがピコピコと動く。
遠くで『ギャーギャー』と怖い声がしたのだ。
ミニャは急いで川から離れ、河原と森を分ける斜面へと向かった。
斜面が始まる辺りには倒木があり、その後ろに身を隠した。倒木の下には草が茂り、頭上も樹冠で遮られて、小さなミニャを上手く隠している。
女神からもらった木人形をちゃんとお座りさせて、ミニャもその前にペタンと座った。
「うんとうんと」
とりあえず、夢ではない。
それを証拠に隷属の首輪は無くなっているし、お菓子の味も覚えている。
「うんとうんと、うんとうんと」
ミニャはちっちゃな頭で思考する。
神の世界のお菓子で活性化したミニャの脳内子猫たちが、猫じゃらし型発電機を猛烈な勢いで叩きまくる。それによって生み出された電気信号により、ミニャの思考がスピードアップ!
「みゃっ、そだ!」
答える者のいない独り言を呟いたミニャは、ペカッとした。今の自分には答えてくれる人がいることを思い出したのだ。
「ミニャのオモチャ箱、にゃむーん!」
にゃむーんと念じると、ミニャの眼前に40cm四方ほどの透明な板が現れた。
「ふぉおおお……ミニャのウインドウさん!」
『ミニャのオモチャ箱』を授かった際に最低限の情報は与えられているので、使い方はわかる。とはいえ、初めて使うのでさすがにその手つきは恐る恐るといった様子。
ウインドウは浮いており、ミニャの意思で自由に動いた。ウインドウ内の操作もミニャの意思で自由にできるし、タッチして操作することもできた。
『ホーム』『チャットルーム』『掲示板』『賢者召喚』『賢者名簿』『人形倉庫』『生放送』『検索』『図鑑』『ツール』『クエスト』『本日の目標』などなど、ウインドウ内にはとても多くのメニュー項目がある。
ミニャは『ミニャのオモチャ箱』の使い方を全て知っているわけではない。
なので、これらの中で使い方がわかるものは多くないけれど、今まで文字が読めなかったミニャは、これらを読めるだけでとても嬉しかった。
「ホーム、チャットルーム、これは賢者召喚! んふふぅ」
文字を口に出して読んでみて、ミニャは茂みの中でご満悦。
しかし、それで満足していられないので、とりあえず知識として授かり、どういうものかわかっている『チャットルーム』を開いた。
『チャットルーム』の中には、さらに『ミニャ チャットルーム』というものがあり、ミニャはそれを選択する。
そこにはなにも書き込まれていない。
与えられた知識によれば、ミニャが書き込むのをみんなが待っているのだとか。
「えっとえっと、『こんにちは、ミニャはミニャです! 7歳です!』 ……みゃーっ!」
ミニャが文字にしたいと思いながらそう口にすると、『こんにちは、ミニャはミニャです! 7歳です!』と入力された。これにはミニャも大喜び。
しかし、それだけではダメだとミニャは知っている。文字が入力されたら、『送信』をしなくては書き込みが反映されないのだ。
送信してみると、ミニャのコメントが画面にパッと表示された。
≪ミニャ:こんにちは、ミニャはミニャです! 7歳です!≫
≪ネコ太:こんにちはネコ太です! よろしくね!≫
即座にネコ太という人物がコメントした。
「にゃーっ、凄い凄い! あ、ちゃんとご挨拶しないと。えとえと!」
≪ミニャ:賢者様、よろしくお願いします!≫
≪ネコ太:賢者様www ネコ太でいいよ≫
「わっ、ギザギザだ! ミニャとのお喋りが楽しいんだ!」
ミニャは『w』を見て、キャッキャした。
ミニャはすぐに賢者とのお喋りに夢中になり、若さゆえか入力にもあっという間に慣れてしまった。
≪ミニャ:ミニャわかった。ネコ太さん、よろしくお願いします!≫
≪ネコ太:よろしくね。ミニャちゃんはいま何をしているの?≫
≪ミニャ:ネコ太さんとお喋りしてる!≫
≪ネコ太:超可愛い!≫
ミニャが楽しくお喋りしていると、新しい賢者がやってきた。
≪ニーテスト:このサイトを作ったのはお前か?≫
≪ミニャ:新しい賢者様だ! ニーテストさん、よろしくお願いします!≫
≪ニーテスト:ああ、よろしく。それでこのサイトを作ったのはお前か?≫
≪ミニャ:サイトってなぁに?≫
≪ニーテスト:あー、すまん、質問を変える。ミニャのオモチャ箱を作ったのはミニャか?≫
≪ミニャ:違うよ。女神様がミニャにくれたの!≫
≪ニーテスト:女神ね。まあいい。とりあえず、異世界という遊びとして付き合おうか≫
≪サバイバー:俺も挨拶したい。よろしく、ミニャちゃん。俺はサバイバーだ。ちなみにナンバー6だよ≫
≪ネムネム:便乗! よろしくね、ミニャちゃん、ネムネムお姉ちゃんだよ。私はナンバー2だよ(=^・^=)にゃー≫
≪ミニャ:にゃー、また新しい賢者様が2人も! サバイバーさん、ネムネムさん、よろしくお願いします!≫
≪覇王鈴木:よろしく。俺はナンバー5だ≫
≪アルカス:俺はナンバー13だぜ。異世界への意欲は人一倍負けません! よろしくな!≫
≪ミニャ:うみゃみゃっ! 覇王鈴木さん、アルカスさん、よろしくお願いします!≫
≪工作王:ミニャ、よろしく。俺はナンバー4だ≫
≪ミニャ:工作王さん、よろしくお願いします!≫
そんなふうに、続々と賢者たちがチャットルームにコメントして、ミニャは大喜びで大忙し。けれど、この7人以降に書き込む者は現れず、少し落ち着きを見せた。
≪ニーテスト:ふむ、ナンバー13がいるのに、7番から12番はどこいったんだ?≫
≪工作王:チャットに書き込めないって情報が結構あったけど、どういう基準で選ばれているんだろうな?≫
≪ネコ太:7人くらいで丁度いいんじゃない?≫
≪ミニャ:7人もいる! ミニャ嬉しい!≫
≪ネコ太:ふっわー、カワイイ!≫
≪工作王:とりあえず、お前らのスタンスを聞きたい。本気で異世界って思ってくるクチか?≫
≪ニーテスト:思ってはいないが、暇つぶしにそういう体で遊ぶつもりだ≫
≪覇王鈴木:まあそれだよな。これだけのサイトなら楽しませてくれるだろ≫
≪工作王:了解。それじゃあ俺もそのつもりでやるわ≫
≪アルカス:俺は本気で異世界にいくつもりだけど? それでハーレムを作るんだ!≫
≪ネムネム:幼女が見てるんだからやめなよ(;’∀’)気持ちはわかるが≫
たくさんの賢者たちが書き込みをしてくれてテンションを上げたミニャは、初めて触れる文字の世界に夢中になっていった。
とはいえ、賢者たちが使う言葉にはよくわからないものも多い。読めるが理解はできないのだ。
ミニャは理解できない言葉には、うんうんと頷いて知ったような顔をするばかりで頓着せず、自分に関わる内容に答えていった。
≪ニーテスト:話を戻すが、とりあえず状況を整理したい≫
≪アルカス:それよりも『賢者召喚』をしようぜ! それで異世界云々の疑いは晴れるし≫
≪覇王鈴木:言うほど晴れるか? 俺たちの中にサクラがいればそれで終わりだぞ≫
≪工作王:まずは『生放送』ってのをやってみたらどうだ?≫
≪ネコ太:ミニャちゃん、生放送はできる?≫
≪ミニャ:うん、できる! ちょっと待ってねぇ≫
そうコメントしたミニャはウインドウの上部にあるコマンドメニューをひとつひとつ指差していき、「これだ!」と『生放送』を押した。
続いて、『生放送を開始しますか?』という質問が現れたので、『はい』を押す。
すると、賢者たちから驚きのコメントが上がった。
≪覇王鈴木:は?≫
≪ニーテスト:マジか≫
≪サバイバー:なあ、いきなり動画画面が開いたんだけど!?≫
≪ネムネム:動画再生の許可とか出してないんだけど、これ大丈夫(;’∀’)やばくない!?≫
≪ネコ太:これミニャちゃんの目線だよね!? 凄い凄い!≫
≪アルカス:うぉおおおお、マジで異世界だ!≫
≪覇王鈴木:お前ら暢気だな!?≫
≪工作王:とりあえず、パッと見た限り遠隔操作の痕跡はないと思う。変なダウンロードファイルも見当たらないな≫
賢者たちが何に驚いているのかミニャにはわからなかった。
もしかして変なことをしたかも、と不安に思いながらコメントを再開する。
≪ミニャ:ミニャ、ちゃんとできた?≫
≪ネコ太:できてるよ、ちゃんとできて偉いね!≫
≪ニーテスト:ミニャの前にあるのがミニャのオモチャ箱のウインドウか。メニューが俺たちとちょっと違うな≫
≪アルカス:俺の書き込みもある!≫
≪ネコ太:ミニャちゃんのお手々だ! ちっちゃくて可愛いぃいい!≫
頑張ってコメントを読むミニャはネコ太が不思議なことを言ったことに気づいた。
≪ミニャ:ネコ太さん、ミニャの手が見えてるの? なんで?≫
≪ネコ太:なんでかわからないけど見えてるの≫
≪ミニャ:じゃあ女神様のおかげかも!≫
≪ニーテスト:ミニャ、茂みから顔を出して、周りの様子を見てくれ。そうすれば俺たちにもミニャが見たものがわかるから≫
≪ミニャ:ミニャわかった! じゃあ見るね!≫
≪ネムネム:幼女にナビゲートされる異世界旅行記(*’▽’)最高やな!≫
≪工作王:うーん、どういうカメラなんだ? メガネについてるようなアングルなんだよな≫
≪サバイバー:これは渓流か? パッと見た環境的に日本なら中流域くらいだと思うけど≫
ニーテストの指示に従って茂みから顔を出したミニャは、周りをキョロキョロと見た。なんでも、こうすると賢者たちにも自分が見ている風景が見られるらしいのだ。
ミニャにもその理屈はわからないけれど、特に疑いを持たない。幼女ゆえに。
そんなミニャのネコミミがピコピコと動いた。
ミニャはハッとしてそちらへ注視すると、川辺の下流の方から緑色の肌をした魔物が2匹現れた。『ゲギャゲギャ』と鳴くその存在は、ゴブリン。
ミニャは慌てて茂みの中に隠れて、草の間からゴブリンの動きを警戒した。
≪工作王:なんだあれ!≫
≪サバイバー:ミニャちゃん隠れろ!≫
≪アルカス:ミニャちゃん、戦え! そしてレベルアップだ!≫
≪ネコ太:バカ言ってんじゃないわよ! ミニャちゃん隠れて!≫
≪ネムネム:あたしも隠れていた方が良いと思う(;’∀’)静かに!≫
≪ニーテスト:俺も隠れていた方が良いと思う。賭けをするには情報がなさすぎる≫
≪覇王鈴木:俺も隠れている方に賛成だ≫
一方、ミニャの近くで浮かぶウインドウは驚きや心配のコメントが高速で流れていく。しかし、ミニャにそれを構っている余裕はない。
ゴブリンとの距離は40mほど離れている。
幼女のミニャとあまり背丈は変わらないが、見た目に愛くるしさはなく醜悪な小鬼たちだ。それぞれの手には棍棒が握られていた。
ゴブリンは岩をピョンピョンと飛びながら、下流から上流へと移動していく。
もう少しでミニャが隠れる場所から最も近い川辺まで到達する。
ミニャはドキドキしながら身じろぎひとつせずに隠れ続けた。
すると、片方のゴブリンが足を滑らせて川に落っこちた。もう片方のゴブリンがそれを見て笑う。
それが癇に障ったのか、川から抜け出したゴブリンが何のためらいもなく、笑ったゴブリンを全力で殴り飛ばした。殴られたゴブリンはブチギレ、棍棒を振り上げて川に落ちた方のゴブリンを追いかけ始める。川に落ちた方のゴブリンは棍棒を紛失してしまったようで、大慌てで川向うの森へと逃げ込んでいった。
その何とも醜悪な様子に賢者たちはビビり、ミニャは危機が去ったことにホッと息を吐いた。
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