プロローグ3
楽しいおやつの時間も終わり、女神が言った。
「さて、それじゃあミニャちゃんに力を与えましょうか」
「チカラ。ミニャ、力持ちになるの?」
「さあどうでしょう。それはミニャちゃんの才能によるわね」
「ミニャのさいのう」
「そう。人には才能というものがあるわ。楽器の扱いがすぐに上手くなる人、魔法を覚えるのが早い人、剣を持ったらすぐに上達する人。人は小さい才能から大きな才能まで多くの才能を持って生まれてくるの。ミニャちゃんは何が得意かな?」
「ミニャ、どんぐり集めるのが得意!」
「そいつぁ凄い!」
「んふぅ!」
女神に褒められてご満悦なミニャに微笑みかけ、女神は続ける。
「私はね、この女神の園に訪れた人が元々持っている多くの才能を組み合わせて、この世でたったひとつの特別な才能に作り上げてあげられるの」
「はえー」
「王様になった人やドラゴンを倒した人のおとぎ話は知っているでしょ? そういう人は元々持っていた才能を、私が特別なものに組み上げてあげたのよ。だから一番凄いのは私ってわけ」
「にゃ、にゃん!」
全然理解できない内容に、ミニャはコクンと頷いておいた。
話を終えた女神が神々しい光を放った。
その表情は今までの陽気なお姉さんではなく、真剣そのもの。
女神ヂカラを目の当たりにしたミニャは、きっと動いちゃダメなヤツだと勝手に思った。んっと口を引き結んでお膝に手を置き、ネコミミをピコピコと動かしながらお座りし続ける。
「なっ、そ、そんなことってある!?」
ふいに女神がクワッと目を見開き、驚愕の声を上げた。
突然のおっきな声に、ミニャは椅子の上でお尻をぴょんと浮かせた。
「女神様、ミニャ変だった?」
ミニャは不安がって問うた。
「いえ、もうちょっと待って。まだ慌てる時間じゃないから」
女神はそう言いながら、女神ヂカラをぶわりとさせる。
ミニャは特に何もできないので、胸を張ってプルプルしながら待ち続けた。
「なんと稀有な……」
最後にそう呟き、女神は女神ヂカラを引っ込めた。
「ミニャちゃん。人は多くの才能を持って生まれてくるのだけど、あなたの場合は召喚士の才能を特に強く持っているわね」
「しょーかんし」
「召喚士っていうのは契約を結んだ魔物を魔法のトビラから呼び出して使役する能力ね。スライムから果てはドラゴンまで、実力次第で多くの魔物をお友達にできる魔法よ」
「にゃんですと!」
「ただし、本来ならね。あなたはドラゴンどころかスライムすらも召喚できないわ」
「はえー……じゃあ、バッタとか?」
コテンと首を傾げならミニャの口から飛び出した生き物のチョイスに、女神は顔を反らして噴き出すのを我慢した。女神は、んんっと咳払いして言う。
「ミニャちゃん、あなたの召喚のトビラは変異しているの」
難しいお話の匂いを嗅ぎつけたミニャは、すっと指遊びを始めた。しかし、幼女のプライドが顔をキリリとさせ続ける。
「召喚には召喚士が魂の中に持つ魔法のトビラを使うのよ。ミニャちゃんの魔法のトビラは少し、いいえ、だいぶ変わっているの。ミニャちゃんはこの女神の園に来てから、あの板を触ったわね?」
「……うん」
「どんなことをしたの?」
ミニャは椅子から立ち上がると、ネコミミをペタンとさせながら、自分がどんなことをしたのか机の前で説明した。
「ここのギザギザをペペペペペッて、ペペペペペッてやったの。それでこれをシュシュシュシュッてやったの」
ミニャは凸凹した板の『W』をペペペペペッと連打するふりをして、『←』を動かす変なのをシュシュシュシュシュと動かすふりをした。
7歳児の説明に、真剣な顔をしていた女神がついにぐふすぅと噴き出した。
女神は、唇をうにうにとさせながら、変なのを操作する。すると板の中の文字が逆に流れ始め、該当箇所で止まった。そこにはミニャがやった『w』の凄まじい塊があった。
女神は再びぐふすぅと噴き出し、青い空を見上げて落ち着き、もう一度『w』の塊を見て、爆笑した。
一方のミニャはネコミミをペタンとさせて言う。
「ミニャ、悪い子だった?」
「いいえ、悪い子なんかじゃないわ。でも、あの道具を使ったことで、あなたの召喚のトビラは異なる世界に繋がってしまったのよ」
「お月様?」
「もっともっとずーっと遠くよ。つまり、この道具が繋がっている場所と繋がってしまったの」
「はえー……」
女神はミニャを椅子に座らせると、言った。
「ミニャちゃん。私はここに訪れた人に宿る才能を弄り、より良いものに作り替えてあげられるの。あなたの才能もそうやって作り替えてもいいかしら?」
「はい! よろしくお願いしますっ!」
女神様が言うなら間違いないとばかりに、ミニャは元気にお返事した。
「良かったわ。あなたの持つ才能のほとんどは変質しちゃってるから、どうしようかと思っちゃった。じゃあ私はこれから作業をするから、お菓子を食べて大人しくしておいてくれる?」
「うん!」
ミニャの元気なお返事を聞いた女神はにっこりと微笑むと、空中に指を這わせて虚空を見つめた。
ミニャには女神が何をやっているかわからなかったが、言われた通りにお菓子をもぐもぐして大人しくした。
「さて、どんなふうに紐づいているのか。……はーん、なるほどなるほど」
「うーん、どうやってコンタクトを取らせるか……閃き! そうよ、私が女神ヂカラで特別なサイトを作っちゃえばいいのよ。ふふふっ、こいつぁ面白くなってきたわね」
「問題は地球人がザコなことね。でも、ミニャちゃんは可愛いとはいえ、世界のバランスを崩すわけには……どの程度の力を与えるか……ほう、人形師の才能か。面白いわね。それでいきましょう!」
「そうなるとミニャちゃんを害するゴミクズに来られても困るわね。ふむ、カルマシステムをベースにして……」
「ハッ!? 絶対こうしたほうが面白い! 天才すぎてワロタニアン!」
ブツブツと呟き声が聞こえてくるけれど、やっぱりミニャには何をしているのかわからなかった。
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