変わらない日常の中で彩りを

いちのさつき

変わらない池袋で少しの色を

 20XX年元旦。日本。東京。犯罪都市池袋。例え新年を迎えたところで、荒れたこの街の色は変わらない。私の日常もいつものように。機械を直して。疎い奴らに教えて。硝子の注射器と空薬莢と違法薬物の袋という汚いものが溢れる大道路を通って、自分のセーフハウスに戻る。


「ただいま」


 私のセーフハウスは大道路から少し外れたところにある。築年数五十年。地下直下の大地震でも壊れない頑丈さはあるが、寿命が来てもおかしくない。それに治安が悪い犯罪都市というのもあってか、家賃がかなり安くなっている。都市という性質上、狭い部屋(二人で住む上で)となっているが、雨風を防いでくれるだけで十分ありがたい。それだけ私は恵まれている。ある程度の金があって、手先と頭があるから、汚い仕事をすることなく済んでいる。


「おっすー」


 同居人の浅黒い肌の女子が実にだらしない恰好で出迎えてくれた。整っていない黒い髪の毛。Tシャツに短パン。この風のあったかさは間違いなく、エアコンを使いまくっている証拠だ。電気代が跳ね上がる奴だ。いつものことなのでため息を吐く。


「エアコンの温度下げて。あと今から作るから、窓開けて」

「はーい」


 同居人に指示を出して、玄関の鍵を厳重に閉めて、中に入る。三畳ほどの台所で手を洗って、冷蔵庫から葉物と根菜と鶏肉を出し、白味噌も出す。適当に作って雑煮を食べる。それが私の正月だ。お節料理とやらがあるらしいが、食べたことが一度もない。大して変わらない、荒れた都市に不要な代物だ。というか相応しいものではない。


「これだけでもご馳走だよねぇ。肉と餅と野菜がこんなにあるんだから。いやそれも違うかも」


 美味しそうに食べる同居人は半年前に出会った。裏組織(今は壊滅したらしい)で買われたらしく、違法で入国したらしい。故郷はとても貧しく、売られたという話だ。そうなるとまともな食事にありつけず、微々たる教育すら受けられない。それでも運と素養があったから、同居人も違法な仕事をしていない(危ない仕事をしていないわけではない)。


「りっちゃん(私の呼び名)がいるからだよね。途方に暮れた時に会ってさ。何やかんやあって働いて金を得てるわけで」

「それはお互い様だよ」


 同居人は喧嘩が出来るし、気配の察知が上手い。私としても助かっている。


「ま。とりあえず今年も平和に暮らせるよう頑張ろう」


 にひひと笑う同居人に、とりあえず入手した情報を伝えよう。どうせこの池袋ではいつものことなのだから。


「東池袋のとこを拠点としてるGCとルードカーンが争い始めたから、そこ行かないようにね」

「……新年早々何やってるのかなぁ。いや。これが池袋の日常だけどもさ」


 同居人は慣れたように言った。裏組織と犯罪組織が集う犯罪都市。季節関係なく危ない。それでも私達はそこで暮らす。ほんの少しだけ、生活に彩色を与えるだけで十分なのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

変わらない日常の中で彩りを いちのさつき @satuki1

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画