姫崎京子短編(新年のご挨拶)

明治 年1月1日

あけましておめでとうございます。嬢です。

2023年12月より姫崎京子の執筆を始め、2024年を迎えた今、★21・♥241・532PVをいただいております。良い環境に恵まれ、応援して下さる皆さまのご尽力あってのことです。いつも、ありがとうございます。


ささやかではありますが、新年筆はじめに姫崎京子番外短編をお送りします。いつかの姫崎たちの年始を、どうぞ、お楽しみください。


良い一年になりますことを、心からお祈り申し上げます。





「あ、年越した。」

姫崎の一言に、皆振り向く。

「丁度詰んだんだけど…。」

「もう一回やるか?」

神は斎藤に将棋を挑み、3度目の敗北を喫している。うなだれる少年に向かい合う姿は大人げない。

「なんかふんわりしてんなあ。」

「うち、あんまり年末年始の感覚なかったしなあ。」

黒鉄は日暮れから始まった宴会を続けている。今日ばかりは延々飲み続けても巴から叱られることはない。姫崎の手にも酒と煙草が常にあった。

医療に休みはないと、胡蝶もあまり実感がない様子だ。現に道場に合流できたのはほんの一時間前だ。

「お父さん、永倉さん、日付変わっちゃったよ!」

「ん?除夜の鐘が一回多い?そりゃあ大変だ…。」

「林檎が嫁に行く?どこの馬の骨だ!」

「あはは!意味分かんない!」

林檎は酔いが回り眠気に耐え切れなかった二人を起こそうと楽しそうにゆすっては叩いている。時すでに遅しだが、娘なりの気遣いだろう。そういう彼女も少し頬が赤らんでいる。

「林檎さーん?痛い!」

一滴も飲んでいない一炉はなんとか林檎を引きはがす。林檎の流れ弾があちらこちらに飛散していた。派手に顔に食らう一炉も楽しそうではある。

「一くん一くん。」

黒鉄の元へ泣きつきに神が行ったところで、向かい合う。

「また新しい一年、生きてたね。」

「ああ。悪いことではないだろう?」

賑やかな部屋の中、二人には穏やかに時間が流れる。

互いの煙草に火をつけあったところで、やっと口にした。

「あけまして、おめでとう。今年もよろしくね。」

将棋盤は二人の表情を映さない。


「なんだなんだ、俺も混ぜてくれよ!」

「永倉さん重いです。」

「京子ちゃん今年もよろしくね。」

「胡蝶ちゃんも、よろしくね。いい年を。」

「俺にも言えよ。胡蝶、俺にも。」

「京姉ちゃんお年玉!」

「ちょっと神!」

「林檎ちゃんのはないや、お年玉…。」

「違う違う!」

「俺からは京の分も林檎さんの分もありますよ?」

「朱現にい、さすが。」

次の年明けが来なくとも。今、ここで幸を享受した彼女らは、限りある生を。

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姫崎京子短編(新年のご挨拶) @onigirimann

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