第5話 運命のとき
そうして、小織ちゃんを巡る漢の名誉と股間をかけた孤独な闘いが始まったわけである。
しかし、会えない時間というものはどうしようもなく想いを募らせ、そうしてようやく会えた小織ちゃんはまた一段と魅力的になっていて。まるで、俺の理性と小織ちゃんの魅力のイタチごっこ。小織ちゃんに会うたび、無垢で無防備で悩ましいほどにスキだらけな小織ちゃんの隣で、爆発しそうな欲望を必死に抑え込み、口付けを交わせば勝手に盛り上がって先走るソレを力業でねじ伏せた。そんな苦行を一年近く続けていると人は狂うらしい。
それは付き合い始めて初のお正月。喜一も一緒に三人で初詣に行き、せっかくだから、と小織ちゃんだけウチに来ることになり――、
「あ……ん……そこ……! 宗弥くん、ダメ……もっとゆっくり入れてくれなきゃ、壊れちゃう――!」
次の瞬間、ガシャーッと騒がしい音がして、目の前でソレは無惨にも瓦解した。せっかく、小織ちゃんとコツコツと積み上げたJENGA。一瞬にして、コタツの上で散らばった五十本ほどのブロックを見つめ、俺は「〜〜〜〜〜っ」と言葉にならない苦悶の叫びを上げた。
「ああ……壊れちゃったね」向かいに座る小織ちゃんはクスッと蠱惑的に微笑み、「私の勝ちだ」
はーい、負けです。負けましたー!
ああ、なんということだ……と俺は絶句した。
禁欲生活も限界を迎えると、ただのJENGAにさえも情欲を唆られてしまうらしい。小織ちゃんと入れたり抜いたり、あー羨ましい、とか思っちゃう。
そのうち箸が転がるだけで、俺は勃つようになっちゃうんじゃないか、と己が怖くなった。
「どうか……したの、宗弥くん?」
「あ、いや……何でもない!」
誤魔化すように咳払いし、俺はちょっと身を丸めながら立ち上がる。
「ごめん、ちょっと……あのー、着替え……」
「え、着替え?」
「えっと……ほら、初詣行ったままの格好だからさ」と着ていた分厚いスウェットを引っ張って見せる。「暑くなってきちゃって」
「ああ……そっか」
「ちょっと抜いてくる……」
「抜く?」
「『脱ぐ』!」ギクリとして振り返り、半ば手遅れながらに言い換える。「脱いでくるね!」
ちょうど、両親は妹と初売りに出かけ、留守だった。だからこそ、ここぞとばかりに小織ちゃんをウチに誘ったのだが……ここにきて、それが災いしたと言えるだろう。
ひとまず、小織ちゃんをリビングに残し、俺は二階の自分の部屋に向かい、可及的速やかに事をおさめようとしたのだ。コタツの中で、むくむくと局部的に温まっていくソレを確かに感じてしまったから。
小織ちゃんに悟られぬうちにTENG◯にソレをしまい込み、証拠隠滅を図ろうと一心不乱に俺は勤しんだ。だから……気がつかなかったのだ。俺が快楽の頂へと駆け登っているまさにそのとき、静まり返った家に響いていたであろう、階段を登ってくる愛らしい足音に。
そして――、
「あ……あの……大丈夫ですか? なんだか苦しそうな声が……」
ガチャリと扉が開いた音にギョッとして振り返ったその瞬間、ちょうど煩悩の一つがTENG○の中へと消え、どこかの住職がつき損ねたのか、ゴーンと厳かな除夜の鐘が辺りに鳴り響いた――気がした。
正月早々、一人で勤しんでいるところをカノジョに見られたんだが……大丈夫だよね!? 立川マナ @Tachikawa
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