第7話(通りすがりのバナナ人)

 金魚が太陽暦30XX年の火星に帰ってきた。

 ちあはん皿皿の外壁に貼ってある警告の書類を見た。


「おれのせいだ。そもそも馬延助を焚きつけて、くだらない賭けごとをやらせたのが間違いだった」

「おい金魚、わいのことは馬延助さんと呼べ」

「あ、いたのか」

「毎日ここにくる」

「つるつる頭の親爺は戻らないよ」

「なんでだ?」

「帰らぬ人になったんだ」

「ウソこくな。こくのは屁とクソだけにしろ、屁たれクソうんち坊や」

「ホントのホントのホントだ!!」


 同じ語句をトリプルで云うばあい、ウソだと男の恥になる。


「3回ルールだから信じるしかねえなあ」


 馬延助は家に帰った。

 金魚が鬱憤を晴らすためにジョギングでホイヘンス区を1周して、ちあはん皿皿の近くに戻ってくる。


「あいつ誰だ??」


 やたらでかいバナナ顔で背の高い男が歩いているのだ。幾子も道の向こうからこちらに近づいて、その男と鉢あわせする。


「きゃあ、くだもの!」

「いえ、通りすがりのバナナ人です。では、ごきげんよう」


 バナナ人が店の前を通りすぎようとするが、金魚がそうさせない。


「待て! あんた見かけない顔だが、どこ星人だ?」

「コロニー生まれです。1年戦争で顔を失い地球の台湾産バナナを移植してもらったので、こうして生きながらえています。わたしの偽名はテトラ・バナーナ、階級は大尉です」

「フィリピン産じゃないんだな。つーか偽名かよ」

「わけあって、正体をかくしているのです」

「判った。太陽系連邦軍のやつらに聞かれても黙っておいてやる。それより、あんた炒飯は好きか?」

「顔がバナナになる前はすこぶる好きでしたが、今は糖質を摂取できない顔だから匂いをかぐのがせめてもの救いです」

「救いなのか!?」

「わたしにとっては。あとわたしはすこぶるシスコンで、愛しい妹に炒飯を作って喰わせています」

「だったら、ちあはん皿皿を引きつぐ気はないか? 太陽系連邦軍が営業資格を剥奪しようとしているんだ。そうなると800%みんな悲しむ」

「この店を、わたしが身をよせている組織のアジトにしてよいなら、よろこんで引きつぎましょう」

「それでいいよ。頼んだぞ」

「はい」


 このテトラ・バナーナ大尉が、ちあはん皿皿を救ってくれた。

 馬延助と腕鋏のスピード離婚は避けられたが、腕鋏が鋏で馬延助の大切な部分をチョンパして、残念ながら夫婦仲がうまくいっていない。冷めた炒飯夫婦と揶揄されている。それでも2人は毎日きて炒飯を喰う。

 もちろん金魚も土星風珈琲をゆっくり飲んで正午までいすわり、それからやっとこ水星風えび炒飯を注文するルーチンを絶対ゆずれない。火星軍人将棋で太陽系最強の康男も夏には必ずやってきて、ぶつぶつ云いながらゴージャス冷やし海王星風炒飯を喰ってアウトサイダーを飲む。

 ちあはん皿皿は以前のようにうらぶれてしまうが、火星が終焉する日までずっとホイヘンス区に住む大人たちに愛され続けるのだ。


【 ~ 完 ~ 】

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ちあはん皿皿 紅灯空呼 @a137156085

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