第6話(兆列のできる炒飯店)

 全客10人から馬延助と腕鋏を除いた8人が総立ちでステージを囲んだ。8人の中にいる悪人顔の金魚はほくそ笑んでいる。

 つるつる頭の平賀ひらが源内げんないと巫女の玄馬げんば幾子いくこが睨みをきかせるステージで、いよいよ馬延助と腕鋏の勝負がはじまる。

 最初は石、両拳ぽん♪ とか云う大昔の地球で流行ったまどろっこしいやり方はせず、これが両拳だと云わんばかりに、両拳どーん! と気風よく馬延助が紙を出して腕鋏が鋏を出した。


「あたいの勝ちよ」

「ぐぉぐぉー! こんな筈じゃなかったが、負けは負けだ。いさぎよく負けを認めて、腕鋏さんに生涯炒飯を喰わせてやるぞ。わいの嫁になれ!!」

「オッサン負けたくせにプロポーズしやがった」

「往生際が悪いぞー!」


 誰かと誰かが野次を飛ばした。


「あたいの腕が鋏でもいいの?」

「わいは腕鋏さんの全部がいいんだ! 特に名前が萌えるんだ!」

「え!?」

「わいと結婚してくれ!!」

「判ったわ」


 101人のプロポーズを断ってきた腕鋏が馬延助の押しの1手に負けた。

 全客10人から馬延助と腕鋏と金魚を除いた7人と源内と幾子が感動で震えた。金魚だけは$10,000,000-の現生をゲットできないため面白くなかった。

 客の1人が、この賭けごとイベントの実況を太陽系最大の動画配信サイトで流していた。視聴者が1兆人を超えて、まさに超兆バズった。

 ちあはん皿皿は聖地巡礼のようなのが押しよせるようになり、開店待ちをする客が1兆人に達した。まさに兆列のできる炒飯店だ。わずか3日で太陽系ナンバー1炒飯専門店にのしあがった。


「おれの好きな空気が、もうこの店にない」

「そうかい。これからどうなさる?」

「水星にいくよ」

「よし、これをくれてやろう」


 源内が金魚に蒲鉾板のような通信機を渡した。


「最後の最後と云うときに使いなされ」

「ああ判った。じゃあな、つるつる頭の親爺」


 金魚はカプセルロケットに乗って水星に向かう。

 だがしかし、強烈な磁気嵐に飲みこまれて1000年前の地球に落ちる。墜落地点は中国だ。金魚は、この時代だと病原性が高いウィルスを持ちこんでしまった。ウィルスの変異株が猛威をふるって、べらぼうなスピードで広がる。

 わずか1か月で地球全体を覆いつくした。人がばたばたと倒れている。


「まじでヤバい!」


 金魚は源内からもらった蒲鉾板のような通信機を使う。


「太陽暦20XX年の地球にいる。おれのせいで人類が滅亡する!」

「よし、救いにいくから待ちなされ」

「店はいいのか?」

「わしも以前のような、うらぶれた店の空気が好きなのだよ」


 ちあはん皿皿は無期限休業になった。

 太陽系連邦軍がきて、10日後までに営業再開しなければ営業資格を剥奪して店もろとも全部差し押さえると云う警告の書類を外壁に貼った。


「馬延助、なんとかしてよ!」

「小学校中退のわいが太陽系連邦軍に逆らえるもんか。これで生涯炒飯を喰わせてやる契約は終わる」

「あたいらも終わりね……」


 この2人にも結婚1か月のスピード離婚と云う破局が迫った。

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