第5話(生涯を賭けた勝負)

 今朝も金魚きんぎょがきっかり3発の屁をこいた。そして、ちあはん皿皿べいべいにのこのこ歩いてやってくる。

 馬延助うまのすけ腕鋏わんきょうが店の前にならんでいる。開店から30分後に、2人は両拳7回勝負で賭けごとをやる。馬延助が賭けに勝ってプロポーズすれば、腕鋏は絶対にオーケーしなければならない。馬延助の勝利は金魚の利益になる。


「これで$10,000,000-の現生ゲットだぜ」


 午前11時に開店して中に入った。今日は特別だから、店のどまん中に賭けごとのステージが用意されている。

 金魚は土星風珈琲を飲み、馬延助と腕鋏は炒飯を喰う。


 午前11時20分に幼い子がやってきた。

 つるつる頭の親爺が出てくる。


「ここは18才未満の入店が御法度だよ。さあ帰った帰った!」

「巫女です」

「ウソこいちゃいかん。巫女はオバンだからね」

「祖母は昨日引退しました。巫女を引きついだ玄馬げんば幾子いくこです」

「オバンが云ってた孫か。転生してきたのだろ」

「そうです」

「前世はなにをしておった?」

「アナウンサー」

「そうかい。まあどこかに座って待ちなされ。今日は賭けごとの立会人をしてもらわにゃならんからなあ」

「はい」


 巫女だから、18才未満でも入店は許された。

 午前11時25分になった。つるつる頭の親爺が黒のタキシードを着て、マイク片手にステージに立った。


「親爺の衣装、似あってないぞ~」


 金魚が野次を飛ばした。

 親爺が怒ってマイクを投げたが、金魚にあたらず全客10人を笑わせた。


「さあスペシャルイベントのはじまりだ。賭けごとをする2人と立会人、こっちにきなされ」


 馬延助と腕鋏と幾子がステージに立った。

 親爺が特別ルールつきの両拳7回勝負の説明をした。


「そう云うわけで、どうせ両者とも6回目まで鋏を出し続けるだろうから、申告引きわけを申告なさるかな?」

「申告するぞ」

「あたいもだよ」


 大昔の地球でちょっと流行った野球の申告敬遠みたいなもので、判りきったことをやるのはアホらしいから、6回目まで全部引きわけにして、7回目だけ両拳をやるのだ。


「だったら、最初から1回勝負にしとけ!」


 誰かが野次を飛ばした。

 親爺が怒ってなにかを投げようとしたが、なにも持っておらず全客10人を笑わせた。


 泣いても屁をこいてもきっかり1回の両拳勝負、馬延助はどれでも出せる。腕鋏は石と鋏しか出せないから、馬延助が鋏を出すメリットはない。

 馬延助の石にたいして腕鋏が石だと、引きわけだから賭けは腕鋏が勝つ。

 馬延助の石にたいして腕鋏が鋏だと馬延助の勝ち。

 馬延助の紙にたいして腕鋏が石だと馬延助の勝ち。

 馬延助の紙にたいして腕鋏が鋏だと腕鋏の勝ち。

 小学校を卒業していたら簡単に判るだろうが、両者とも勝つ手が2つずつだから、要するに対等な賭けごとになる。

 だがしかし、馬延助は金魚から教わった1手で、この生涯を賭けた勝負にいどもうとしている。

 地球のドイツ製のぼんぼん時計が、ぼ~んと鳴った。午前11時半だ。

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