第4話(太陽系最強の博士)

 火星軍人将棋で、大将軍、聖人、玉位、玉座、火星王、丞相、鶴翼、魚鱗、竜聖、無双、穴熊、火星放送協会杯優勝者、成金の13大タイトルを独占した太陽系最強の博士がいる。冥王星出身の川葉多かわはた康男やすお文学博士だ。

 今年の火星放送協会杯の23回戦に勝利した康男は、対局を収録していた放送局を出ると急に腹がへった。


「店をさがそう」


 康男は、ぶつぶつ云いながら歩いてきて、ちあはん皿皿べいべいに入った。

 テーブルの席について、正面の壁に貼られている †ちあはん皿皿 御品書き† を睨みながら、またぶつぶつ云う。


「1、2、3、4……、スペシャルが7つもあるぞ。うーん、悩ましいな。おっ、夏季限定、ゴージャス冷やし海王星風炒飯かあ、今が夏ならよかったのに。ああ、いかんいかん、早く決めて喰って、次の対局場所へいかないといけないのだった。すいませーん!」

「へえ~い」


 つるつる頭の親爺が出てくる。


「えっと、冥王星風いか炒飯」

「冥王星風いか炒飯」

「あと、スペシャル13宝菜炒飯はハーフとかできますか?」

「できぬ」

「あ、は、じゃあ冥王星風いか炒飯はやめて、スペシャル半炒飯とスペシャル13宝菜炒飯でおねがいします」

「飲みものどれか選びなされ」

「え??」

「金星風ビール、地球風どぶろく、土星風珈琲、サイダー、アウトサイダー、烏龍茶のどれでも」

「アウトサイダーてなんですか?」

「アウトなサイダー」

「はあ??」

「早く選びなされ!」

「へっ、それじゃ烏龍茶で」

「スペシャル半炒飯、スペシャル13宝菜炒飯、烏龍茶だな。アウトサイダーはいらぬのか」

「いりません」

「そうかい」


 親爺が向こうにいった。


「おいおい、アウトなサイダーてなんだよ。気になるじゃないか」

「あんた、この店はじめて?」

「えっ、はいそうです」


 となりの席に、黒地に赤色の縁どりがついたチャイナ服のでかい女が、どすんと座った。赤々とした2挺の大きな鋏が、康男に恐怖感を植えつけた。


「あたいの腕が怖いかい?」

「い、いえいえ」

「ごまかさなくていいわ。はじめて見たら、誰でもそう云う顔するから」

「はあ、すいません。えっと……」

「腕鋏よ」

「あ、ぼくは康男と云います」

「10年前ね、はじめてつきあった人とはじめての夜を迎えたとき、あたいハイな気分になって、この鋏で殿方の大切な部分、うっかりチョンパしちゃって」

「チョンパ??」

「それっきり、殿方との交際が怖くなって」

「さみしいでしょうね……」


 康男は、太陽系最大の動画配信サイトで観た大昔の地球映画にちょっぴり似ている切ない悲恋に同情した。

 腕鋏が両拳7回勝負のことを話した。


「賭けに負けたら20才も上のオッサンと結婚しないといけない。勝ったら、あたいの喰う炒飯の代金をオッサンが払い続けるから、勝負するか悩んでいるのよ」

「その特別ルールなら、腕鋏さんは鋏ばかり出していれば、6回目まで絶対に負けませんね」

「そうよ。7回引きわけだとあたいが賭けに勝つから、相手は7回目に石を出してくる筈だわ」

「石を出すと思わせて、紙を出すかもしれませんよ」

「え、ホントに??」

「はい、相手は逆手で勝ちにくるでしょうから、腕鋏さんは逆手の逆手で鋏を出せばいいのです」

「康男さんかしこい! 生涯炒飯無料の権利ゲットだわ!」


 腕鋏は勝った気まんまんでハイな気分になった。

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