第3話(火星の賭けごとは契約)

 馬延助はハイな気分で冥王星風いか炒飯の2皿目をがつがつ喰って、アウトサイダーをがぶがぶ飲んだ。

 店を出るとき、水星風えび炒飯3皿と火星風たこ炒飯2皿と冥王星風いか炒飯4皿の代金$31,995-を払った。飲みものは無料だ。馬延助は計算がすこぶる弱いし、金魚が喰ったのが含まれていることを見抜けない。


 46才で知った熱烈ラブは強烈だ。誰でもいいから相談にのってもらいたいが、火星にきてたった5日で知人がいない。くやしいが頼める相手は1人だ。

 馬延助は100メートル8秒のスピード違反で走り、40秒たらずで距離をつめて金魚に追いつく。


「おい待て!!」

「ち、ばれたか」

「なにがだ?」

「あ、なんでもない。どうしたってんだよ」

「わいの熱烈ラブを成就させる助っ人を頼みたい」

「愛のキューピッドを演じろってか?」

「平たく云うとそうだ」

「おれにどんなキックバックがある?」

「税務署とかに申告しなくていい$10,000,000-の現生だ」


 そんな悪徳行為は800%許されないが、悪人顔の金魚はほくそ笑む。


「判った。それなら腕鋏わんきょうと両拳の7回勝負をしろ。勝ったら結婚してくれって約束してな」

「両拳と云うのは、石が鋏に勝って鋏は紙に勝って、紙は石に勝つルールで勝敗が決まるやつだろ。ガキの遊びじゃねえか」

「そこは気にするな、賭けごとなんだから」

「賭けは御法度だろ」

「知らないのか、それは地球での話だ。火星の賭けごとは契約なのさ。しかも賭けの約束は法的効力があって、なにがなんでも800%守らないと死刑確定だ」

「ウソこくな。こくのは屁とクソだけにしろ、屁たれクソうんち坊や」

「死刑はウソだが、法的効力があるのはホントのホントだ」

「そうか。いや待て、腕鋏さんは鋏しか出せねえぞ。わいが石ばっかり出したら絶対に勝てる。誰がそんな勝ち目のねえ賭けをするもんか!」

「鋏を閉じれば石を出せる」

「なるほど! けど紙は出せねえぞ」

「出せないが、そのかわりに特別ルールでやればいい」

「わいも紙を出さねえようにするのか?」

「違う。そんなルールだと、おたがい石を出して引きわけが続く」

「金魚かしこいなあ!」

「小学校を卒業していたら常識の範囲内だっつーの」

「わいは小学校中退だぞ」

「まあ話を聞け」


 金魚が考えた特別ルールは、馬延助が石を出せるのは7回目だけと云う制限をつけたものだ。しかも7回引きわけのばあい、賭けは腕鋏の勝ちとする。

 腕鋏が鋏を出すばあい、馬延助が鋏だったら引きわけで、馬延助が紙だったら腕鋏が勝つ。腕鋏は鋏を出していれば、6回目まで絶対に負けない。


「わいが不利じゃねえか!」

「だから腕鋏が賭けにのってくるのさ」

「わいが勝てねえと困る」

「勝つ方法がある」

「なんだ、またウソこくつもりか?」

「違う」


 腕鋏は馬延助が7回目に石を出すと予測して、自分も石を出して7回引きわけで賭けに勝とうとする。

 だから、それを逆手にとって紙を出せばいい。賭けは馬延助の勝ちで、金魚には$10,000,000-の現生が入る。ウィンウィンだ。


「腕鋏さんと結婚できるぞ! ぐぉぐぉー!」


 馬延助は勝った気まんまんでハイな気分になった。

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