@yumemitatuki873150

龍源郷~新たな龍の誕生~

天空の遥か上空に龍源郷と言う、龍の楽園があった。地面は、色とりどりの雲でできていて、太陽が3つあり、全部沈めば次の日が来る。争い事もなく、自由に、平和に、龍たちが好きなように暮らしていた。ある龍は、願えば出てくる大好きなお酒を飲み、ほろ酔い気分で宙に漂い、また別の龍はぼーっと下界を見つめたりうたた寝をしたりと、ゆっくりと自由に過ごしていた。そんなある日、一体の龍が新しく誕生しようとしていた。


雌龍が、龍源郷の聖域、龍の宮で出産しようとしていた。

もう間もなく産まれてくる我が子を一目見ようと、龍の宮の外で、うろうろと落ち着き無く漂っている雄龍を見て、一体のほろ酔い龍が近づいてきた。

「よう、若いの。もうすぐ、産まれるのかい?安心しろよ、ここは龍の楽園だ。絶対に不自由させねえ。全員で見守るし、ちゃんと叱らなきゃなんねえ時はちゃんと叱るし、皆で一緒に遊ぶんだ。何も心配いらねえよ」

雄龍は頷き、うろうろするのを止めて、じっと待った。すると、すぐに生命力溢れる咆哮が聞こえてきた。産まれたのだ。

それに応えるように、ほろ酔い龍が吼えた。雄龍も共に吼えた。

「めでてぇ!今日の酒は、ホントにうめえなぁ!若いの、おめでとう!嫁さんも子どもも、しっかり支えろよ。大丈夫だ、俺たちは全員が家族みたいなもんだからな。んじゃ、俺は皆に言いふらしてくるよ。まあ、あんだけでかい見事な咆哮、聞き逃してる奴はいねぇかもな。ほら、言ってる側から、どんどん来たぞ」

ほろ酔い龍が嬉しそうに、手を振っている。その先には、5体ほどの龍がいた。口々に「おめでとう!」と、叫んでいる。

「ほらほら、ぼーっとしてねえで、龍の宮に入って、嫁さんと子どもの様子見に行ってこいや」

雄龍は、慌てて龍の宮に入った。龍の宮の中央、龍聖殿で雌龍と産まれたばかりの子龍が光に包まれていた。龍の宮の管理を司っている聖龍が、祝福の光を放ってくれているのだ。光が、出産したばかりの雌龍の体を癒し、産まれたばかりの子龍を慈しんでいる。

雄龍は、雌龍の側に寄りそい涙を流した。

「おめでとう!ありがとう!お疲れさま!もう、何て言っていいか分かんないけど、本当に嬉しいよ!これから、子どもと一緒にいっぱい遊ぼうね」

雌龍も涙を流して、大きく頷いた。

突然、龍聖殿に清らかな声が響いた。

「お二方ともおめでとうございます。これからも末永くお幸せに。また、お体を大切に、そしてお子様の事を可愛がってあげてくださいね。あなた方のことを、この龍源郷の龍族全員で支えますので、安心してください。体がしんどくなったらいつでも来てくださいね」

雄龍は、深く頭を下げた。

「ありがとうございます!よろしくお願いします」

「お二方とも、産まれたばかりのお子様を、お抱きになってください。それで、祝福は完了です」

雄龍が、我が子に近づきそっと触れた。とても温かく、柔らかく、絶対に守り抜かなければいけない存在だと改めて感じる。そっと、抱き締めて、そのまま雌龍の側に寄った。

「かわいい女の子だね。皆で絶対に幸せにしようね」

雄龍はまた涙を流して、雌龍に我が子を渡した。雌龍もそっと受け取り抱き締めた。

「温かい…。産まれてきてくれてありがとう!」

再び龍聖殿に、聖龍の声が響いた。

「これで祝福は完了です。先ほども言いましたが、しんどくなったらいつでも来てくださいね。あなた方は、孤独じゃありません。皆がついています」

「はい。ありがとうございます」

「お母様、動けますか?力を貸しましょうか?」

お母様、と言われて雌龍は赤面している。そう、雌龍は母になって、雄龍は父になったのだ。

雌龍は雄龍に我が子を渡し、起き上がった。

「大丈夫です。動けます」

「よかったです。では、龍の宮の外に集まっている方々にお披露目しましょう。私も一緒に、久しぶりに外に出ましょう」

光が一段と強くなり、龍聖殿が温かい光に包まれた。光が落ち着くと、美しく神々しい雌龍が姿を現した。聖龍だ。

「外に出るのは、500年ぶりぐらいでしょうか」

「そんなに…」

「では、行きましょうか。少しの間なら離れても、他の龍達が管理してくださるので大丈夫なので」


龍の宮から出ると、たくさんの龍が集まっていた。ほろ酔い龍が、他の龍達とお酒を飲んでいる。出てきたのに気付き、手を振っている。

「おっ?聖龍様も出てきたのかい?久しぶりですねぇ」

「お久しぶりです。皆様、お酒を飲むのは構いませんが、ほどほどにしましょうね」

「ははっ!今日は無理だよ。なんてったって、新しい命の誕生だよ!めでてぇ、めでてぇ!」

「そうですね。では、私も一杯だけ飲みましょう」

聖龍が、お酒の席に混ざり飲み始めた。雌龍が、雄龍に話しかけた。

「明るいお方ね。私たち若い龍は見たことなかったね」

「そうだね。相談しやすそうな感じで良かった」

ほろ酔い龍が、聖龍にどんどんお酒を注いでいる。顔色ひとつ変えずに、それを飲み続けている。一杯だけと言う話はどこに行ったのか。

ほろ酔い龍が、手招きしている。聖龍も真似して、手招きしている。

「お~い!早く来いよ~。今日の主役はあんた達だぜ!」

雄龍と雌龍は微笑みあって、子龍をしっかり抱き締め、ふわふわとゆっくり漂い、お酒の席に近寄った。

聖龍が、皆に呼び掛けた。

「皆さん、この子は産まれたてで、眠っています。少し声の大きさを落としてください」

龍源郷の空に、よく通る透き通った美しい声が響いた。龍達は全員頷いた。

「それではお二方、何か挨拶をお願いいたします」

雄龍は頷き、話し始めた。

「皆さん、祝福していただきありがとうございます。俺たちは、まだ若くて頼りないところもあると思います。どうか、この子ともども支えてください。俺たちも、皆さんに何かあったら出きることは、させていただきます。まぁ、この龍源郷で、困ったことはそんなに起きないかもしれませんが。これからも、よろしくお願いします!」

雄龍、雌龍共に深く頭を下げた。静かめな拍手が起きた。子龍のために、気を遣ってのことだろう。

一体の龍が、ふわふわと近づいてきた。この龍も、少しお酒が入っているようだ。

「ねえねえ、ボクの趣味は下界をぼーっと眺めることなんだけど、下界には人間界ってのがあって、そこでは名前ってのがあるんだ。名前ってのは、それぞれを呼び合うのに便利なものでさ。一体仲間が増えたんだし、これを機会に皆に名前を付けるのってどう?」

聖龍が頷いている。

「そうですね。この先、この子が大きくなるにつれて、名前というのが必要になってくるかもしれませんね」

「名前ですか…。俺は火が吹けるから、火にちなんだ名前にしようかな」

雄龍が呟くと、雌龍が笑いながら突っ込んだ。

「先にこの子の名前を決めましょうよ」

聖龍が優しく微笑んでいる。

「そうだね。それじゃ、今までなかった名前を付けるっていう、新しい風が吹いている訳だし、風にちなんだ名前はどうかな?」

ほろ酔い龍が、大きく頷いている。

「いいじゃねぇか。下界では風ってカゼ以外に何て読むんだ~?」

下界好きな龍が答える。

「フウって読むこともあるよ。あと、女の子にはお花の名前を付けることもあるらしい。例えば、フウカちゃんってどうかな?あっ、カっていうのは、花の別の読み方だよ」

雄龍も雌龍も、他の龍達も全員頷いている。雌龍が、そっと抱き締めて声をかけた。

「それじゃ、この子はフウカちゃんね。よろしくね、フウカちゃん」

雄龍も声をかける。

「フウカちゃん、これから、よろしくね。新しい風を吹かせてくれて、ありがとう」

聖龍が、そっと翼を動かした。優しい風がフウカを包む。

「今、フウカちゃんに風の加護をプレゼントしました。将来風を操ったり、翼を動かす時にとても動かしやすくなると思います」

聖龍は伸びをして続けた。

「それでは、私はそろそろ龍の宮に戻ります。明日から、龍の宮に名前を記録できる場所を設置しますので、ご自分の名前をお考えになって、お立ち寄りください。お待ちしています」

そう言って、聖龍は龍の宮に戻っていった。

ほろ酔い龍が、一口お酒を飲んで言った。

「聖龍様はしっかりしてんなぁ。さてさて、さっき兄ちゃんは火にちなんだ名前がいいって言ってたな。どんな名前にする?」

下界好きな龍が、教えてくれる。

「火にちなんだ名前って下界にはいろいろあるよ。下界の東洋って言う所ではホムラとかエンとか、下界の西洋って言う所では火龍の事をサラマンダーって呼ぶそうだよ」

雄龍は頷き、自分の名前を決めた。

「それじゃ、俺はホムラにしようかな」

雌龍は微笑んで、少し恥ずかしそうにしながらこう言った。

「ホムラ君、よろしくね。私はお花が好きだから、お花に関係する名前がいいかな」

「それじゃあ、下界の言葉でお花を見るときには、お花見をするって言うそうなんだけど、ハナミってどうかな?」

雌龍は目を輝かせて、嬉しそうに頷いた。

「いいわね!ありがとう。私はハナミにするわ。それにしても、下界の事に詳しいのね」

下界好きな龍が照れている。

「じゃあボクは、賢いことをハクシキって言うそうだから、ハクって名前にしようかな。お酒好きの君は、どうする?下界には昔、お酒が大好きなシュテンドウジって言う鬼がいてよくお酒を飲んでいたそうだよ。あと、古代にはヤマタノオロチって言う大きな龍がいて、その龍もお酒をたくさん飲んでいたそうだよ」

お酒好きな龍がほ~っと言って、また一口お酒を飲んだ。

「そういえば、ヤマタノオロチって名前は、聞いたことがあるな。けど、古代の龍と同じ名前を使わせてもらうのも、ちょっと気が引けるな。よし!じゃ、俺はシュテンにしようかな。あんたが、下界に詳しくて助かるよ。さぁ、どんどん飲もうぜ!ホムラの兄ちゃんも、ハナミの姉ちゃんも、飲もうぜ!」

ハナミは首を振って答えた。

「ごめんなさい、私はやめとく。お母さんになりたてだし、この子に、おっぱいをあげなきゃいけないし」

シュテンは、何度も頷いた。

「そりゃそうか、悪かった…。いや~、それにしても、新しい龍が産まれるなんていつぶりだ?全く覚えてねえなぁ」

気を取り直して、シュテンは飲み始めた。

「ホムラ君は、飲んできてもいいわよ。お祝いだし。私の分まで飲んできて」

ハナミは微笑んで、少し迷っているホムラの背中を優しく押した。ホムラは、ありがとう、と言って、お酒の席に混ざった。

そうして、他の龍達にも次々と名前が付けられていき、新しい龍の誕生を祝福する宴会は、2つ目の太陽が沈むまで賑やかに続いた。

その間、フウカは時々目を覚まし、かわいい鳴き声を上げたり、お母さんのハナミのおっぱいを飲んだりしていた。それを見て、全龍が和んでいた。


こうして、新しい龍が龍源卿に加わり、全ての龍が幸せに包まれて、楽しく暮らすのだった。

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