第2話 死神のご飯

トン、トン、トン。

料理中らしい物音で心地よく目を覚ますと、件の彼は台所で何かを切っていた。

その真剣な眼差しを、綺麗だと素直に思う。

朝日を受けて輝く白い肌は陶器のようで、鈍く光を返すその髪からは柔らかな質感が手にとるように受け取れる。

伏し目がちな瞳は宝石のようにキラキラと輝き、長く繊細なまつ毛がそっと影を落としていた。

昨夜とはまた違う印象の彼に感嘆の息を漏らすと、私に気がついたらしい彼はこちらを向いて優しく微笑んだ。

「おはよ、おねーさん。」

体調は?と柔らかに微笑んだ彼は何やらお盆に器をのせて、私の元へと運んできてくれた。

器からは湯気とともに空腹を刺激するような良い香りが立ちのぼり、中を覗けばとろみのついた白米が私を誘うように輝いていた。

「美味しそう…。」

思わず声に出すと彼は嬉しそうに微笑んで、召し上がれ、とスプーンでそっと掬ったそれを私の口へと運び出す。

驚いている私を、あーんして?と上目遣いであざとく見つめる彼に押し負け、渋々口を開くと運び込まれたそれはほんのりと出汁の味がして美味しかった。

夢中になって食べ進める私を温かく見守っていた彼は、良かった、とほっとした表情で微笑む。

「おねーさん、もう元気出た?」

そんなに美味しそうにご飯食べられるなら大丈夫だよね、と安心した顔をする彼を見て、昨日のことを改めて思い出す。

「ご、ごめんなさい…!!」

慌てて飛び起き、彼の目の前で土下座する。

自殺未遂に嘔吐、おまけに気を失った私を連れ帰ってここまで世話をしてくれた彼に罪悪感が止まらない。

驚きのあまり声を出すことも忘れて私を見つめる彼に謝り倒し、お礼をするからと連絡先を交換して彼の家を飛び出す。

鳴り止まない後輩からの電話に出ながら、私は会社への道を急いだ。

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優しい死神 春色の雪解け。 @Haruiro143

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