第13話
アメトリウスが邪魔にならないように下がると、二人はほぼ同時に地面を蹴る。二人の木剣がぶつかり合い、硬い音を立てた。鍔迫り合って離れたのも束の間、小柄なスクリアが素早く義足で踏み込む。オルニディウスは危うげにそれを受け流し振り上げるように切りかかるが、彼女は軽い足取りでその攻撃を躱す。詰め寄っては離れる忙しない動きを眺めながら、アメトリウスは口許に手を当てた。
随分と素早い。しかも果敢に攻め入っているな。勇ましいことだ。
彼は、剣技についてはあまり明るくない。しかしそれでも、自身より大柄な相手の懐に素早く攻め入ったり、引き際を心得て距離を取ったりする彼女の動きはアメトリウスの興味を惹いた。勢いに関してはスクリアの方が優勢であったが、オルニディウスは的確に彼女の攻撃をいなし、反撃する。互いに譲らぬ攻防だ。
それにしても。
先程、兄がスクリアのことを隻眼の戦乙女と呼んでいたことを、アメトリウスは思い返す。そうした二つ名で呼ばれる程に、彼女は優れた剣術を持つ者なのだろうか。どこかで聞いたことがあったような気がするものの、はっきりと思い出せない。激しい攻防を見守りながら、彼はその二つ名が何であったのかを考えていた。
アメトリウスが見守る兄と彼女の戦いは、徐々に激しさを増していく。スクリアが素早く繰り出した不意打ちの蹴りを横っ腹に受け、金髪の彼は表情をゆがめる。だがオルニディウスはがむしゃらに剣で斬り込み、彼女を威圧した。素早く下がったスクリアに食らいつくように間を詰め、素早い攻撃を浴びせる。オルニディウスが低い蹴りを放つと、彼女はそれを義足で難なく受け止め横凪を放った。
これは、決着がつかないんじゃないか? 長期戦になるなら、体力がある方が有利だろうが……。
アメトリウスが眉を顰めて二人の様子を眺めていたそのとき、屋敷の扉が勢いよく開かれた。
「何をしておるのだこの馬鹿娘が!」
突如、中庭に怒号が響き渡る。突如現れたスクリアの父によって、その戦いは即座に中止されたのであった。
ドラゴン・トルク 獅子狩 和音 @shishikariwaon
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