出会った少女との新たなスタート
仁志隆生
出会った少女との新たなスタート
あれは、去年のこと。
桜並木を眺めながら、引っ越し先のアパートへ向かっていた。
この春から大学生。
ここから新たな生活がスタートするんだと、あの時までは思っていた。
「はあ、今日も誰も見つからなかった」
空は黒い雲のようなものに覆われ、ずっと日が差していない。
雨も降らず、川も湖も徐々に枯れ始めている。
犬猫や鳥、虫すら見かけない。
どれもこれも、あの時から始まった。
あの日、自分以外の人が突然いなくなった。
いや実際に目の前を歩いていた人達が突然煙のように消えた。
僕はしばらくそこで呆けてしまった……。
気を取り直した後で辺りを見たが、誰もいなかった。
町のスーパーやコンビニ、近所中にも……。
そこでハッと気づいて実家に電話したが、繋がらない。
ネットも使えなくなっていたからメールも送信できずSNSも見えない。
もしかすると本当に自分以外……?
いや他にもまだ誰かいるのかも、救助が来るかもと思って避難所で数日待っていたが、誰一人として来なかった。
正直絶望しかけたが……いや、きっと誰かいるはずだ。
そう思いなおして少しずつ県内を、近隣の県を探し続けた。
あれから一年近く経った。
拓けた町の静かな繁華街。
車から降りると頬に冷たい風が当たる。
僕はマフラーを上げてそこを見渡したが、ここにも誰一人としていなかった。
……ここも不発か。
というか、いくらなんでもこの状態なら外国から調査団とかが来るだろ?
だからあっちもいなくなったのか、それとも無視されているのか?
そう思った時だった。
” キャアァー! ”
叫び声が聞こえた。
人がいた。
僕は逸る気持ちで声がした方へ走った。
着いた場所はコンビニの駐車場。
そこで焚き火して座り込んでいたのは見た所小学校低学年くらいで、白いシャツに赤いスカートという服装で、赤いマフラーを巻いた女の子だった。
や、やっと人を見つけた。
って何があったか聞かないと。
「ね、ねえお嬢ちゃん、大丈夫?」
怖がらせないように話しかけると、女の子は顔を上げて僕を見た。
「うん、大丈夫だよ」
女の子が笑みを浮かべて言ってくれた。
「そ、そうか。いやなんか大きな声出してたからさ」
「あたしじゃないよ」
「あれ、そうなの? って他には誰かいないの? お父さんやお母さんは?」
「初めからいないよ。あたしね、ちょっと前に会ったお姉さんといたの」
女の子はそう言ってマフラーで顔を隠した。
「……ごめんね。それで、そのお姉さんは?」
「ここにいるよ」
そう言ってマフラーを差した。
……たぶんそのお姉さんに相当懐いてたんだろな。
だから消えたと思いたくなくて、おそらくお姉さんがくれたものをなのかな。
「そっか。ねえお嬢ちゃん、僕と他の人探しに行かない? というか僕一人ぼっちで寂しいんだよ」
最後のは本音だった。
すると少し間があったが、
「うん、いいよ。お兄さん悪い人じゃないと思うから」
可愛らしい笑みを浮かべてそう言ってくれた。
「ホッ、よかった……。あ、僕は
「あたしはアヤだよ」
「アヤちゃんか。うん、よろしくね」
僕が手を出すと、アヤちゃんは握手してくれた。
火にあたってたとはいえ寒いせいか、その手は冷たかった。
けどこれで希望が持てた。アヤちゃんのように他にもきっといるはず。
うん、ここからが新たなスタートだ。
そう思いながらアヤちゃんの手を引いて、車へ向かった。
「お兄さんってほんといい人だよね、あたしにいやらしいことしようとしたお姉さんと違ってね」
アヤがマフラーを撫でながらそんな事を呟き、
「けどさ、やっぱりここからが新たな終わりへの始まりだよ……ぬふふふふ」
可愛らしい笑みを浮かべたが、その目は笑っていなかった……。
出会った少女との新たなスタート 仁志隆生 @ryuseienbu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
見た覚えのないもの/仁志隆生
★12 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます