醜いアヒルの子
自らの頭を銃で撃ち抜いて、しかしなおライラは死にはしなかった。銃弾は喉から頭部へ抜け、声帯と脳の一部を破壊したが、可及的速やかに行われた救命手術の甲斐もあって、一命をとりとめたのである。
とはいえもちろんこのような事件を隠し通せるはずもなく、ライラは収監された。いろいろな悶着の結果、彼女の行き先は刑務所ではなく癲狂院と決まった。
彼女は脳の一部と声帯を人工のものに置き換えられ、癲狂院で余生を過ごすことになった。技術上の問題から、彼女の用いる人工声帯では、唄を歌うことは不可能であった。
しかし、それから半世紀余りの歳月が流れて、歌姫ライラのことなど知る人も少なくなった頃に。
癲狂院を厚く囲う塀の周囲に暮らす住人たちは、時折、謎の歌声を聞くようになった。人間のものとは思えないほど、美しい歌声を。
「ライラ。お迎えにきたよ」
という声に、その機械製の義眼がひとりでにそちらを向く。
「ライラ、行こう。ようやく、あなたが居るべき場所に行くことができるんだよ」
きっと、彼女だけには見えるのでしょう。
天使を呼ぶ為の機械 きょうじゅ @Fake_Proffesor
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