1イイナ ごめんなさい


 『社会のゴミ消えろ』

 『一度死んでから生まれ変わって来い』

 『このゴミを育てた親もゴミ生産機』

 『消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ』


 SNSの世界に潜む姿見えなき集団からの心なき毒の刃は、収まることなく男の心をえぐっていった。


連日、止まぬ、名も知らぬ者からの襲撃。


『消えろゴミ』


街を歩くだけで聞こえてくる。


『あいつじゃね?』

『あーゴミか』

『ゴミに人権なんてないよな』

『やっておきます?』


耳を塞いでも毒は脳内に流れ込んでくる。


『なんであんな事したの』


ごめん。お母さん。


『お前のせいでお先真っ暗だ』


ごめん。お父さん。


『なんで私はお兄ちゃんの家族で産まれちゃったのかな』


ごめん…


体内に宿る親も分からぬ新しい生命…


ごめんなさい。


連日、ワイドショーを騒がせた


『SNSバイトテロ事件』


とてつもない損害賠償請求をされた。


『君がこのお金を払っても無くなった店の信用は戻らないんだよ』


今は亡き店長の言葉。


本当にごめんなさい。


事件が起こってからしばらくの期間が経っても


動画サイトによって事件の化石は掘り起こされる。


『バイトテロ事件傑作選』


化石になっても掘り起こされる。

風化なんてさせてくれない。

理由なんて簡単だ。


『面白いから』


それだけなんだ。

 

今も聴こえてくる。


姿見えなき


名前も分からない


繋がりすらない


『楽しい楽しい』と歪んだ笑顔の仮面を貼り付けた匿名者の亡霊の大群。


男は決意した。


亡霊の大群を背に高層ビルからダイブした。


落ちていく男は、緩やかに感じる深淵に落ちる時間の間に訴えた。


『僕は何もやってない…!!』


男が深淵に頭から落ちた時、大きな破裂音と共に男の思考が夜中の道路に弾け飛んだ。


男の破裂音を合図に、匿名の亡霊の大群は男を取り囲んだ。


感情無き兵器を亡霊の大群は彼に一斉に向ける。歪みきった笑顔。


男の抜け殻は、感情無き兵器の力でSNS社会に送り込まれて行く。


『拡散希望!!自殺現場に鉢合わせ』


SNSに刻まれた男の抜け殻の写真に命名された。


その事を男は、もう知ることは出来ない。



     ・・・


真っ暗な部屋で街灯の光の様に光る画面を見つめて彼はキーボードを軽やかに打つ。

時折、高層ビル上階からの夜景に目をやり、街に転々と光る照明に目を細める。


その光は一瞬消えた。

目が合った。

彼と男の。


落下していく男の生を失った目と彼の目は上下対象に一瞬見つめ合った。


その後、彼の目に光が戻った直後に大きな破裂音がした。


彼は、にやりと口角を少し上げて笑みを浮かべた。


つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

バイトテロ 山羊 @yamahituzi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る