第5話 綺麗な流れ星





(.......おい....おい!!誰か....助けて.........だずげでくれぇっ.....!!)




───喉を掻き切るような声で、誰かの叫び声が聞こえる.......頭の中を乱反射するように、幾度も響き渡る。





燃え盛る炎で、人々の血で、夜中の住宅街は形容し難いグロテスクな橙色に染まっていた。

橙色なんて綺麗な色ではないな。しかしそれを形容するには、自分の語彙を使い果たしても尚言い表せないほど気持ちの悪い色だった。


地獄が視界を全て覆っていた。山中の村は焼き付くされ、いや、村どころかそれを覆う全ての地域、大地に、山脈全てに火の手が周り、夜中の筈なのに昼間よりも明るく、山の稜線の遥か彼方まで地獄が広がっていた気がする。


焼き付くされた村の中から、大量の人が飛び出す。......すぐに服全体に火がまわり、輪郭も曖昧になった人間が内部から加熱され内臓が溶け出す。


幻覚ならぬ幻嗅...というべきか?肺が満たされるほど吸った、木や人の焼けた臭いが、鼻について今でも取れない。一種の後遺症のように残り続けていた。




今でも......あの流れ星を見れば、脳内にあの光景が閃光の如くフラッシュバックし、途端に思考が巡らなくなり、呼吸が荒くなり、吐き気を催す。




頭上は満点の星空だった。それを貫く一筋の火球が、凄まじい速度で地上へ向かう......すぐさま目を背けた。





しかし目の前にいる少女は.....あれを見て満足でもしたのだろうか、両手を重ねて伸びをした後、すぐさま駅舎の方に戻って行った。



「早く戻らないと、凍死するよ?」






スカートから、すらりと伸びた太腿。コートの下に何重にも着込んだ僕と比較すれば彼女の方がよっぽど寒々しかった。何故女子というのはこの寒さで膝より上まで露出しても平気なのか?




いや彼女が異常なだけか....それは。





駅舎に戻って、ストーブから吹き出す温風に当たろう。ふと入り口横に掛けてあった温度計を見ると、氷点下19℃で止まっていた。


実際に数字で出されると一気に寒く感じてきた。人間の身体というのはまた不思議なものだと思うが.......それにしても先程やっと取り戻した掌の感覚が、厚い手袋の下で再び失われつつあった。


「まずいな.....これじゃ凍傷になるな...」




この理不尽な世界で、手を切り落とすなんて事態になれば間違いなく、救出されるまで生存することは不可能だろう.....


先ずは生きなくては.....生きて、この絶望の地上を去らなくては、未来はないだろ。



未来は、この地上にはもう残っていなかった。




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果てた宇宙に星が降るまで 夢瑠ぬこ @yurunuko

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