エピローグⅡ──巣立ちの季節
王都リングドールからの帰り──
フレデリカたちの劇団メンバーと一緒に交易町リビドにたどり着いたメルは、アスターと一緒に馬車を降りた。
「フレデリカさん、ミランさん。本当にお世話になりました!」
「奴隷管理局の追っ手は、本当にもう大丈夫なのかい?」
見送りにきていたミランが心配そうに言う。
アスターは肩をすくめた。
「レオン国王にも一筆書いてもらった。もうこいつを追い回すヤツはいないさ。それに──」
アスターの予想が正しければ、その奴隷管理局の職員たちはメルを捕らえにいったのではなくて……──
「アスター、どうしたの?」
「……いや、なんでもない」
「?」
パルメラの怒り顔を思い浮かべて、アスターはげんなりする。
事情を知らないメルは、首をかしげた。
「ミランさんたちは、いつまでリビドに?」
「数日中には発つよ。次の町での公演も
「あ……。ちょっ──」
ミランに押し出されて、フレデリカが前に出た。……泣き
メルの胸にも、フレデリカたちと過ごした日々が走馬灯のようにめぐった。一緒に舞台
フレデリカが誘ってくれなかったら……王都に行ってアスターに会うことも、また
「フレデリカさん、ありがとう。お
感極まって言ったメルに、フレデリカは
「……から……」
「え?」
フレデリカは、メルをきっとにらんだ。
「……私はまだあれしきの演技で満足してないんだから。何が『夢が叶った』よ。あれぐらいの演技で満足してもらっちゃ困るの。……あなたならもっとできるわよ」
「……え……?」
「あなたの演技、劇団長も買ってるの。他の団員たちもね。
フレデリカの差し出した手に、メルは目を見開く。
……心臓がドキリと跳ねた。
とっさにアスターの方を見やった。
冷静な蒼氷の瞳──何も言わない。
……ずっと、夢だった舞台。
かつて
やってみる前からあきらめてどうする、と言ってくれたアスターの言葉が脳裏を駆けて──
「私、は──……」
フレデリカに
その背後で──
アスターが、静かにその場を離れた。
☆☆
──……ねぇ、メル。私たちと一緒に来る?
アスターはその場から離れた。
メルの答えは──……聞かなかった。
久しぶりに見るリビドの街路は、道行く人々の着る冬仕様の
周囲の人々の気配に、ふと顔を上げた。
見上げた空から、天使の羽のようにふわりとした結晶が降ってくる──初雪だった。
(……どうりで冷えると思った)
真白い息が、背後に流れていく。
──出会った当初は、ひな鳥を見ているような気がしていた。
戦う
危なっかしくて、見てられなくて。
何を決めるのにも誰かの顔色をうかがっていて……。
──私も戦う……最後まで。
……ひな鳥は、もういない。
立派に、自分の足で立てるようになった。
メルが何を選んだとしても、それはメルの人生で……。
喜ばしいことのはずだった。
なのに、心がひどく寒くて……。
(…………)
先に行ったアスターを追いかけて、メルが駆けてくる。
舞い降りた雪の
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