第3章3話 逃亡奴隷②──捜索
奴隷管理局の追っ手から逃げて、メルは無我夢中で路地裏を駆けた。
少女の体格でやっと通れるような小道を抜け、生け垣の破れ目を突っ切る。それでも、背後を男たちが追ってくるかと思うと、バクバクと早鐘を打つ心臓が冷えた。
(助けて、アスター……!)
アスターがいてくれたら、きっと、奴隷管理局の職員たちと渡りあってくれる。
メルが奴隷管理局に捕まっても、きっと助け出す手段を考えてくれる……。
でも──
……ぎゅっと目をつむった。
守ってくれたアスターは、もういない。
アスターは王都に行ったのだ。グリモアの葬送部隊に。
……そのことが今更になって胸に迫った。
逃げて、逃げて──気付けば、何やら大きな
(…………? ここ、どこ……)
「グルルルル……」
「……きゃっ!」
獣の臭いとうなり声、ガチャガチャという金属の音がメルの身体を恐怖ですくませる。
そこへ──……男の声が迫った。
「誰だ。そこにいるのはっ」
「……!」
「待て、逃げるな!」
(……──っ!)
叫び声が追いかけてくる。
早くひとのいないところに……──
早く……!
はやく…………!
「待ちなさい……ったら!」
「!?」
最後にかけられた声に、びくりと身をすくませた。
追っ手の男たちとは違う──高飛車な少女の声。
「──まったく。この私から問答無用で逃げるなんて、どういうつもり!? 失礼にもほどがあるわ」
「……え……?」
……振り向くと、メルよりも少し年上の少女が
金色の髪に
「それとも──まさか。この私を忘れたなんて言わないわよねぇ?」
「…………フレデリカ、さん」
間の抜けたメルの返事に、少女はにっこりと笑む。よくできました、と言わんばかりに。
少女の背後──彼女がマネージャーと呼んでいた丸眼鏡の青年が、息を切らせて追いついてきた。
「に、逃げ足が速いな。全然追いつけないよ……」
「あら、ミランの足が遅いのよ。若いのに運動不足なんじゃなくて?」
「……うっ」
フレデリカが軽口をたたくのに、丸眼鏡の青年がたじろぐ。緊迫した状況とは場違いなやりとりに思考が追いつかない。
「……なんでこんなところに……?」
☆☆
「あーあ、逃げられた。ライザちゃんが怖い顔するから」
「……課長と呼べ、アーサー。課長と」
「へぃへぃ」
軽薄そうな部下に、ライザは目尻を
商館の職員たちの不満は頂点に達して、今にも部下たちに襲いかかってきそうだ。
アーサーだけが
「どうするんです? せっかくグリモア行政府に許可もらって、足枷を外す器具までもってきたのに」
「小娘ひとりにかまってられるか。──日を改める」
「はぁーい」
アーサーと残りの部下たちを引き連れて撤退する。……ひとりごちた。
「しかし、まったく解せないな。なぜ逃げる……。せっかく自由にしてやろうというのに」
「あー……。あれはライザちゃんの説明が悪いと思いますよー? 言葉足らずというか、何というか……」
「課長と呼べ、課長と」
明後日の方向を見るアーサーを
足枷付きの小娘ひとりの足で行ける場所など限られている。しらみつぶしに捜せばいいだけだ。
任務の遂行に、時間はかからないはずだった。
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