馴染




 五年後。




「あの。これ。遅くなりましたが。その。結婚の。お祝いの品物。です。はい。あの。俺のこと。覚えて、ますか?」




 幼馴染の家にて。


 幼馴染を前に緊張しまくりの俺は、ばしゃばしゃと目を泳がせていた。

 五年前にもらったクソアマおむすびが、前世に幼馴染が作ってくれたおむすびと一緒だったからと言って、幼馴染が前世の記憶を持っているかどうかはわからない。

 もらった時は、幼馴染は前世のことを覚えていると喜んだが、よくよく考えると、ただの偶然ということも考えられるわけで。

 幼馴染はやっぱり前世のことを覚えていない可能性が大いにあるわけで。


 覚えているのかなー、覚えていないのかなー。

 覚えているにしても覚えていないにしても立派で喜んでくれる結婚祝いを持って行きたいなー。

 せっかく辺境の地に行くんだからやっぱり辺境の地でしか得られないものがいいかなー。

 魔物の干物がいいかなー、毛皮がいいかなー、骨がいいかなー、花がいいかなー。

 前世のことを覚えていたとしても幼馴染だった俺のことを覚えているかなー。

 もう忘却の彼方に追いやられていたとしたらどうしよー。

 俺だけ覚えていたら超きしょいんだろうかー。

 あやべー、魔物つえー。あっはは。怪我した超いてー。後進、超超超かっけー。


 などなど、色々考えて、色々探して、色々な魔物と闘って、後進に見惚れていたら、あっという間に、五年が過ぎ去っていて。

 もう、戻らなくてもいいかなーと、怖気づく自分を何とか奮い立たせて今。

 こうして、町に戻ってきて、幼馴染の前に立っているわけですはい。

 幼馴染の無言圧超怖いです、はい。迫力増しましたね、もう町の首領ドンですね。いえ、この世界の支配者ですね、はいー。




「何これ?」

「あ。これ。魔物の抜け殻。です。はい。あの。これ。帯にして、腰に巻いたり、家や店に飾ったりしておくと、つつがなく、暮らせる、そうです」


 俺は抱えていたお祝いの品物を広げて見せた。

 辺境の地の住民に教えてもらったのだ。

 蝉に似た魔物の抜け殻は布のようなもので加工でき、現地の人は洋服に仕立てるそうだが、昔からの言い伝えでは、帯にして腰に巻いたり、家や店に飾っておいたりするお守りらしい。


「抜け殻。ね」

「あ。あ~。ですよね。主に相応しくなかったですよね~。もう一度、辺境の地に行ってきま~」


 す、と言うと同時に、くるりと幼馴染に背を向けて、駆け走ろうとした時だった。


「昔。よく、蝉の抜け殻、取りに行ってたわね」


 幼馴染の言葉を確かに耳に入れた俺は勢いよく身体を幼馴染に向けて、勢いよく頭を下げて、ごめんと大声で謝った。


「ごめんごめんごめん!ごめんなさい!俺。女子だ男子だすんげえ気にして!ごめんなさい!」

「遊べないって言われた時、すんごく、傷ついたの。ゆるさないし」

「はい!」

「こっちに転生して、すぐに、幼馴染だって言わなかったことも。ゆるさないし」

「はい!」

「主と護衛だけど、私が冷たい態度取っていたけど、よそよししかったの。ゆるさないし」

「はい!」

「結婚を教えてくれなかったのも。ゆるさないし」

「はい結婚してませんけどすみません!」

「こっちでずっと護ってくれてても。ゆるさないし」

「はい!」

「ずっと、ゆるさないし」

「はい!」

「でも。離れたら。勝手に離れたら。もっと。ゆるさないし」

「はい!」

「顔上げろ、ばか」

「はい!」




 俺は勢いよく顔を上げて幼馴染を見た。

 幼馴染は、顔を赤くさせて、拗ねたような怒ったような顔をしていた。

 俺はなんだか、すごく泣きたくなった。

 



「結婚祝い。もらうから。ありがと」

「はい!」

「これからも。よろしく。ゆるさないけど」

「はい!」




 ひゃっはあと、泣きながら叫びたくなった。











(2024.1.20)



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ひゃっはあ 藤泉都理 @fujitori

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