嬉涙




 これはまだ一緒に遊んでいた頃の記憶。


『うげなにこれあまっ』

『ふふん。我が家のじまんのおむすびよ』

『うがあ。甘いおむすびなんておむすびじゃねえし』

『ふふん。このおいしさがわからないなんてー』

『ふ。ふふん。このおいしくなさがわからないなんてー』


 幼馴染の自慢のまんまる栗おむすびには、砂糖ときな粉と黒ゴマがふんだんにまぶされていた。








「結婚おめでとう。これ、お祝いの品物。それじゃあ」


 幼馴染は馬を走らせたまま、荷台に座る俺へと風呂敷を放り投げて謎の言葉を告げると、颯爽と町の方へと戻って行った。


「???こっちって、結婚するやつがお祝いの品物を知人に渡すんだったっけか?てか。馬も乗りこなせるのかよすげーなかっけーな」


 はは。

 色々すごすぎて空笑いしか出てこない俺が風呂敷の結び目を解くと、アルミホイルに包まれた丸くて大きい物体が入っていた。

 持ってみると、ずっしりと重い。

 なんだなんだ鉄球でも入っているのかと思いながら、アルミホイルをはがしてその中身を見た俺は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。絶対。心臓が一秒間止まった。確実に。

 だって。

 これは。


「先達。町へ戻りましょう。結婚を阻止しなければ」

「いいや。このまま。辺境の地へ。行こう」

「けれど、その涙は。悔しいからではないですか?悲しいからではないのですか?」

「いやこの涙は。うれし涙。だから。俺も。これに負けないくらいの。お祝いの品物、持って行かねえと。だし。だから。このまま。行ってくれ」




 あむりがぶり。

 俺はまんまるおむすびにかぶりついては、ゆっくりと咀嚼した。




「くっそあめえ」




 お祝いの品物を持って、おめでとう、と、ごめん、を言いに行こう。











(2024.1.19)



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