結婚
『見るに堪えなくてね』
聖男が拙者に話しかけてきたことが、この作戦の始まりだった。
(来た)
伝達者は馬を走らせて幌馬車に並走しながら、運転者に早文を手渡してのち、素早くまた町へと戻って行った。
拙者は運転者から早文を受け取って素早く紐を解き、丸まっていた文を広げては目を見開き、緊張した面立ちで先達へと伝えた。
元婚約者殿が聖男と結婚する。
「へえ。そっか」
「え?」
鬼の形相で荷台から飛び降りて、必死になって町へと、元婚約者殿の元へと向かい、聖男と結婚なんてするな、結婚するなら俺としろと迫り、元婚約者殿もまた、結婚するならあなたがいいと先達の胸に飛び込む。
お互いに想っていながらも何か深い事情があって、想いを伝え合えない二人を後押しすべく、練りに練り上げられた計画、だったのだが。
先達は嬉しそうに笑っているだけだ。
もしや、相手の幸せを願って身を引くつもりなのだろうか。
やはり素晴らしい人間だと胸を熱くする拙者はしかし、それではだめだと運転手に町に戻るように伝えようとした時だった。
町から人を乗せた馬が一頭、ものすごい速さでこちらへ向かってきているのが見えた。
乗馬しているのは、元婚約者殿だった。
心なしか、いや、確実に、般若の顔をしている。
結婚を阻止させてやると腹を決めた顔だ。
よし、うまくいったのだな。
拙者は乱舞驚喜した。
拙者が先達に元婚約者殿と聖男が結婚すると伝え、聖男が元婚約者殿に先達と拙者が結婚すると伝えようと決めていたのだ。
(元婚約者殿!頑張るのだ!)
互いに手と手を取り合って、幸福になるのだ。
(2024.1.19)
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