第7話:絶望とは死に至る病である(前)
……なるほどねえ。
「十中八九、というかまあ確実に、勝った世界線なんだな、ここは」
だからこそ、婆ちゃんが姫路に住んでいる上に、痩せているのか。
……高平太少年がなぜそれを悟ったのかは、また別記するとして学園初日は特に恙なく終わった。一応、転校生ではあったのだが、伊東製薬の不興を買うことを恐れてか、あるいは突然の異分子に対してどう対応したらいいかわからなかったのか、触らぬ神に祟りなしといったような取り扱いを受けており、いわば高平太少年は特待生乃至は飛び級生としての悩みに直面する、……はずだったのだが。
「…………?」
彼は特に何も違和感を感じること無く、実家パワーに守られたままポワポワウフフな新入生として獨協中学校で五年間を過ごすこととなった。……少なくとも、本人はそのつもりでいたかったようだ。
そして、何事も無く一週間が過ぎ、二週間が過ぎ、11月も明治節が過ぎた頃のことである。
「!」
……待て、平成元年で誤魔化されていたが、今ってひょっとしなくても1991年じゃないか!
……と、いうことは……。
「おや、坊ちゃん。どこへお出かけに?」
「本屋。ちょっと欲しい雑誌があって」
「はあ。……何人付けますか?」
「……付ける?」
……頭痛い。
「さすがに、お忍びで行動は危険です。いかに大日本帝国が平和とはいえ……」
「……出入りの業者に、本屋って居たか?」
「はあ、勿論ございますが」
「……わかった。「少年ガンガン」ってわかるか? 月刊誌の」
「は、「少年ガンガン」の月刊誌でございますか。……畏まりました、調べて参ります」
「……調べる?」
はて。少年誌一冊にそこまで調査が必要なもんなのか?
……高平太少年は気づいていないが、当然のように歴史の流れが違うこの世界線では、存在しているであろうものと存在しているはずのないものが、彼の前世とはかなりずれた形で配備されていた。当然ながら、少年誌の興亡もその一種ではあり……。
「……坊ちゃん、「少年ガンガン」なる雑誌は存在しないそうでございます。また、エニックスなる版元も存在しないとか」
「えっ」
「……夢でも見ていらっしゃったのでは?」
「そんな、莫迦な……」
彼は、崩れ落ちた。
「気を落とさないで下さいませ。何だったら、作家の名前で探してみましょうか?」
「あ、ああ。頼んだ!」
「して、誰でございましょうか」
「衛藤ヒロユキ!」
「は、ははっ」
……頼む、衛藤ヒロユキ無き世界なんて生きていたってしょうが無いんだぞ。
そして、調査の結果は……。
「坊ちゃん、その、衛藤何某という作家のことでございますが……」
「衛藤ヒロユキな、今後愛読書の主力になる予定なんだから粗相の無い呼び方にしろよ」
「……は、ははっ。……おりませんでしたぞ」
「……は?」
直後、世界が、閉じた。
勝った世界で 城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」で宜しく @H_Eneko
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