第6話:獨協学校町中学校前(一応、完成?)

  でけえ。

 高平太少年の前には、獨協中学校の校門がそびえ立っていた。まあ、そもそも少年の身長に比べて校門のゲートが大きく見えるだけであり、実際の所そこまで大きい門ではないのだが、さすがに高平太少年の年齢とその平均身長を考えたらそれなりに大きなものであった。

 そして、彼は案の定警備員のあんちゃんに止められた。

「んー? こら、そこの。ここは中学校だぞ?」

  あ、よかった。中学校こっちで合ってた。昔っから方向感覚には自信ないからなあ……。

「……有難う御座います、それでは」

 何食わぬ顔で警備員に礼を言って通り過ぎようとする高平太少年。それに対して、がっしと高平太少年の体をつかんで、小学校の方向にむき直させる警備員。

「いや、だから、小学校はあっち。わかるか?」

 と、重ねて小学校の方角を指さして確認させようとする警備員。さすがに高平太少年も説明する必要があると察したのか、ごそごそとポケットを探り学生証を取り出した。

「……学生証、見せましょうか?」

「あ、ああ。持ってるならば見せてくれ」

「はい」

  ……中学校の校門をくぐろうとしたら、警備員の人に止められた。まあ無理も無い。此方だいたい五歳前後の子供だ、むしろ小学校すら前だろうに、中学校の校門をくぐろうとしたら俺だって止める。

「ふむ……、いや、これはおじさんが悪かった。行って良いぞ」

 なんともやれやれ、という顔をしてばつが悪そうに目線を逸らそうとして、慌てて向き直る警備員。それに対して、相変わらず何食わぬ顔で警備員に対して頭を下げる高平太少年。それは、だったのか、あるいは……。

「有難う御座います」

「……どんな事情があるかは知らんが、強く生きるんだぞ」

「はいっ!」

  ……特にどんな事情があったわけでは無いが、励まされた以上笑みと共に礼を述べるのは礼儀だ。


「……良かったんですが、偽造の可能性も……」

 警備員の若い方が先程高平太少年を止めようとしたおじさんの警備員に意見具申をしていた。まあ、無理からぬ事だ、杓子定規に考えてしまうのは新人の常とも言えよう。

「だったとして、あんな子供が入ったところで危険性は皆無だろう」

 それに対して、鷹揚に構えるおじさんの警備員。無論、高平太少年が武器でも携行していれば別かもしれないが、そもそも五歳弱の子供である、何かできるとは思えなかった。

「しかし……」

 なおも抗弁しようとする若手の警備員。そして、その抗弁にたいして、またしても「なんともやれやれ」とでも言いたげに渋い顔をしてみるおじさんの警備員。彼からすれば、学生証がある上にそもそも警備の必要性を感じなかったのだから当たり前と言えば当たり前ではあったのだが。

「部外者入れるな、はあくまで事件性がある場合だ。第一、あの学生証の名前、見ただろ?」

「……ああ、確かに。伊東製薬の坊ちゃんでしたね」

 伊東製薬の名は、姫路市内には少なくとも轟いており、兵庫県下でも知らない者の方が少ない程の名家である。その「坊ちゃん」がなぜわざわざナンバー・スクール級とでも言うべき姫路西を選ばずに獨協を選んだのかは定かではないが、それは歓迎すべきことではあった。

「あの坊ちゃんは、噂によると尋常小学校の番組をたった四ヶ月強で突破した希代の才子だ。なんで獨協に来たのかは知らんが、僥倖だと思わんかね?」

 なぜ、秀才が獨協に来たことが僥倖なのか。獨協は私立の中ではそこまで低レベルではなかったが、逆に高レベルかと言われれば疑問の残る、所謂中堅校であった。つまりは、秀才が来れば浮かずに底上げが見込めるという意味に於いて、高平太少年は貴重な人材とも言えた。

「それは……確かに」

「そいじゃ、そろそろ見張りに戻るぞ」

「へーい」

 そして、警備員達は元の配置に戻り始めた。とはいえ、彼等の立ち回りは事件があってからのことであり、本来ならばヒマな方がいい立場なのは言う必要も無いのだが。


「それにしても……」

  事前に予習したとは言え、どういう時の流れになっているのやら。

 高平太少年が頭をひねり、授業の予習と称して世界線の流れを考察している間にも、人の波は動いていく。

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