第27話 着地
ウィレム……落ちてます……。
わたくしウィレム、現在上空数キロ地点から、もの凄い勢いで地面に向かって落下しております。
現在の高度はわからないけれど、落下地点と地面の中間ぐらいにいるかな……。
とりあえずスカイダイビングの経験はないけれど、なんかテレビで見たような両手両足を伸ばして、できる限り空気抵抗が大きそうな体勢をとっている。
が、どう考えてもヤバいスピードで落ちているという自覚はあります。
さて……これからどうしようか?
俺はビルの屋上レベルの高さならば、魔力で強化したフィジカルで受け身を取れる自信がある。
が、さすがにこのレベルの高さから落下するのは初めてだし、同じように受け身を取れば生還できるのかと言われるとかなり怪しい。
もしかしてルル先生が助けてくれる?
そ、そりゃルル先生がそこから飛び降りろって言ったんだから、助けてくれるよな?
なんて希望的観測をしてみるが、これまでのルル先生が俺にとってきた行動から考えるに助けてくれそうにない。
『その程度の高さからも飛び降りられないんですか? 雑魚ですね』
なんて言われるのが関の山だ。
ここは頭を使ってなんとか平和に着地しなければ詰む。
ということで頭を働かせてみる。
そうだ。俺は前世からやってきた男だ。前世の知識をフル活用すればなんとかなるはず。
全然冷静になれる気はしないけれど、とりあえず冷静を装って頭を使った。
……作用と反作用。
そ、そうだ……ロケットと一緒じゃないか。ロケットは噴射したガスの力で宇宙まで飛んでいる。
だから俺の体だって何かを吹き出せば、落下速度は落ちるはず。
基本的に魔力をフィジカル強化にしか使ってこなかった俺だが、炎魔法や水魔法が全く使えないわけではない。
杖がないのは痛手だが、杖がなくても上手く魔力が制御できれば。
というかやるしかない……。
俺は両手を地面の方向へと伸ばした。
そして、約数年ぶりに両手に魔力を溜めて炎魔法を出してみる。
「ファイヤーボールっ!!」
そう唱えた瞬間、俺の両手にサッカーボールサイズの火球が姿を現した。直後、現れた火球は空気抵抗によって俺の顔面目がけて飛んできた。
「熱っ!! あ、熱っ!! 死ぬっ!!」
慌てて「ウォーターボールっ!!」と再び唱えて鎮火をする。
そうこうしているうちに、視界に映るガダイの街が目の前に迫っていることに気がつき、俺は死を覚悟した。
「あ、俺の人生があっけなく終わる……」
そう思った直後、俺の腹部に今まで感じたことのないような鈍痛が襲った。
「ぐほっ!!」
突然の腹部の鈍痛に、肺の空気を全て吐き出した俺は地面に転がる。
な、なんだ……何が起こったんだ?
よくわからないが、腹部を襲った激痛で息ができないこと、さらには一応俺の意識が途切れいていないことだけは理解できた。
あまりの痛みに地面を転がったままのたうち回っていた俺だが、なんとか瞳を開くと俺の目の前で片膝を上げた状態で立つ見覚えのあるメイド服姿の女が見えた。
「ウィレムさま、お久しぶりです……」
「げほっ!! げほっ!! お、お久し……げほっ……」
ダメだ。息ができない……。
相変わらず俺をいたわるような様子を一切見せずに、ルル先生は冷めた目で俺を見下ろしていた。
どうやら俺の腹部の激痛の原因はあの膝のようだ。
「はぁ……私はがっかりです……」
しばらく冷めた目で俺を見つめていたルル先生はわざとらしくため息を吐くと首を横に振る。
「ず、ずみません……ざざすがに……上空から落下したときの着地方法は……」
さすがにそれは教わってはいないです……。
「本当に手のかかる王子ですね」
とりあえず横隔膜が上手く動いてくれない。しばらく過呼吸をくり返してなんとか呼吸を整えると立ち上がった。
そして、そこで俺は気がついた。
俺のすぐそばで俺同様に「「うぅ……」」と腹を押さえたまま蹲る美少女二人の姿があることに。
どうやらミユとジュジュもルル先生に助けられたようだ。
「ってか、どうしてルル先生がここにいるんだよ……」
「いないほうが良かったですか?」
「いや、そういうわけじゃないけど……」
むしろ助かった。
「それよりも……」
と、そこでルル先生は上空を見上げる。俺もまた上空を見上げると、なにやらこちらに向かって落下してくるワイバーンとそれにしがみ付いて俺たちに鬼の形相を向けてくる女の姿があった。
「一先ず逃げないとマズいですね」
「そ、そうだな……」
「私はそこの猫をなんとかしますので、ウィレムさまはその水兵のような格好をした女性をお願いします」
「いや、まだ腹の痛みが……」
「ちっ……」
ルル先生は舌打ちする。
四の五の言わずに運べということらしい。
ということで二人の美少女のうち、水兵のような格好をした女を肩に担ぐと、どこかへと飛び去っていくルル先生を必死に追いかける。
先生からは魔法波は一切感じない。
おそらくジュジュの体から発せられる微細な魔法波に合わせるように魔法波を出して相殺しているのだろう。
ということで俺もまたミユの魔法波に合わせるように魔法波を出す。
にしても先生速い……。
建物の屋根を上ったと思えば路地裏へと下りてどんどん進んでいく先生を見失わないように、俺は必死で彼女の背中を追った。
転生王子は逃げ切りたい~元社畜の俺、ブラックすぎる王国から逃走するために密かに鍛えていたら、いつの間にか最強になっていた~ あきらあかつき@5/1『悪役貴族の最強中 @moonlightakatsuki
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