ジャンの真実(4)

 結局その日はジャンの話題を二人で話し尽くしたが、結論が出る気配なんてまったくなかった。

「ひょっとして、ジャンは何者でもないのかもしれないわね」

 ふとサラが言った。

「ジャンはよく僕に、事実と真実の話をしてくれたよ。事実はひとつだけれど、真実は人の数だけいくつもあるって」

 僕は自分の表現が正しいかどうか、確信のないままに続けた。ジャンならきっともっと上手く話してくれたはずだ。

 ジャン、僕は合っているだろうか。教えてほしい。君に会いたくて堪らない。

「一人しかいないはずのジャンと、僕たちがそれぞれに見ていたジャン。ジャンっていう存在そのものが、それぞれの事実と真実を反映させた者だったのかもしれない。ジャンが、ジャンと接する僕たちすべてに違ったものに映ったのなら、それはそういう風に僕たちの心が見せていたのかもしれない」

「……それならきっとジャンは、私たちひとりひとりの天使のような存在ね」

 僕はサラの言うとおりかもしれないって思った。

「私たちが見たいようにジャンを見ていたのか、ジャンが見せたいように私たちに見せていたのか、どちらなのかわからないわね。お父さんはジャンを見てすごく怯えていたわ。ジャンは必要なものを私たちに見せてくれたのかもしれないわね」


 二人と一匹で家路に向かう僕たちを、ニネベの町が優しく包む。

 森からは鳥たちの囀りがこだまし、優しい陽の暖かさと、山から吹き降りてくる涼しい風が今日も心地好かった。

 ふと耳を澄ますと、あのギターのメロディーが聴こえてくるような気がした。

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