ジャンの真実(2)
翌日の火曜日の朝、両親が言った。
「今日は私たちも一緒に行こう」
僕は頷いて、ハミィの顔を両手で撫ぜながら言った。
「今日こそはジャンのところへ頼むよ」
ハミィはフゥンと不安気に鼻を鳴らして歩き出した。
町の人たちが僕らに声を掛ける。
「今日は家族で散歩かい?」
「おや珍しいね! どこへ行くんだい」
両親は声を掛けてくれる人たちにいちいち挨拶を返していたが、僕はジャンのことで頭がいっぱいで、それどころじゃなかった。
森へ入って柔らかい土の道を行く。しばらく行くと起伏が始まって砂利の感触が足元に伝わった。
「この道だ!」
僕が叫ぶと父も母も「やったな!」と喜んで、ハミィを撫ぜて褒めた。ハミィもわかっているのか元気になって進むスピードが上がる。
ジャンに会える! たった二日会っていないだけなのに、もうずっとジャンに会っていないような気がしていた。
この道を挟む林からは鳥たちの鳴き声がこだまし、この時間木陰の切れ目まで来ると眩しい陽の光と暖かさを感じる。この一瞬の日なたから七歩ほど歩くころ、道にできた大きな窪みに足を取られそうになる。その先には大きく緩やかな右曲がりのカーブ。
このカーブに差し掛かるころ、あの日と同じように聴こえてくるジャンのギターのメロディー……。
「もうすぐだよ!」
僕は振り返り両親に向かって言ったんだ。すると父が、「トビー……」と僕の名前を呼んだ。
父の声が変だった。
ザーザーと音がする。
「どうしたの? ほら、このカーブを曲がるとそこがジャンの家だよ!」
ジャンのギターの音色は聴こえてこない。きっと今日は外に出てギターを弾いてないんだ。でも間違いない、この道だ。
「トビー、何もないわ……」
今度は母の声が戸惑っていた。
またザーザーと音がする。
「違うよ! 母さん、木が邪魔して見えないだけだよ! このカーブを曲がりきったところだよ!」
二人が僕の後ろで歩きを止めて、立ち止まったのがわかる。
「もう少しだよ! このカーブの先なんだ! 木が邪魔して見えないだけなんだ!」
ついにはハミィも歩くのを止めてしまった。
ザーザーと音がする。
僕はハミィを引っ張るように前に進もうとするがハミィは動こうとしない。
もう少しなんだ! もうすぐジャンの家にたどり着くはずなんだ。そう自分に言い聞かせて前に進もうとする。
ハミィが小さな声で僕に吠えて何かを訴える。
「なんで……なんでだよ! なんでこんなところに川なんかあるんだよ! ここにあるのはジャンの家のはずなのに!」
そこにあったのは川だった。
その川の流れの音の中、僕はひざまずき、大きな声で泣いたんだ。
まだ叫べば、ジャンに言葉が届きそうな気がした。まだ呼べば、ジャンの憎たらしい声が聞こえるようながした。
ギターの音を聴かせろよ。行くなら行くって言えよ……!
「サヨナラくらい言わせろよ!」
父も母も黙っていた。
誰も僕を止めなかったから、僕はただひたすらにその場で泣き続けた。
結局ジャンの家は見つからず終いだった。
ぐったりした僕を家へ届けた後、父も母も町の人全員にジャンのことを聞いて歩いてくれたが、ジャンナ・グッドスピードなんて人物は誰一人知らなかった。
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