第十四章

ジャンの真実(1)

 その日から何かが変わりはじめた。

 次の日も、また次の日も僕とハミィは当たり前のようにジャンのところへ出掛けていったが、日を追うごとにジャンの家に到着するのに時間がかかるようになっていた。もちろんジャンの家に行くのはいつもハミィ任せだったから、ハミィの気分で道が変わっていても不思議じゃない。でもとうとう日曜日には、ジャンの家にたどり着くことはなかった。

 ハミィに何度も「ジャンの家は?」と尋ねても、ハミィは悲しそうな声でピーピー鳴くだけで、同じところをグルグルと周った。

 ギターの音も、ビッグベンの鐘音のウィンドチャイムも聞こえないし、スパイシーな煙もどこからも香ってこなかった。あの砂利道に近づくことさえできなかった。

 珍しく早く帰ってきた僕を、母が迎えて不思議そうに言った。

「今日はジャンのところには行かなかったの?」

「うん。ハミィがジャンの家までたどり着けなかったんだ」

 ハミィが申し訳なさそうにクゥンクゥンと鼻を鳴らしている。

「あら、そんなこともあるのね。また明日行けばいいわ。残念だったわね。ハミィもジャンに会えなくて残念そうだわ。さ、中へ入りましょう」

 母は笑って、さほど気にしていない様子だった。

 でも翌日もジャンに会えずに帰ってくるはめになった。

 ハミィは今度もグルグルと同じ場所を周っては、ピーピーと不安気に鳴いた。もう僕が諦めて帰ろうと言っても、ハミィは戻ろうとしなかった。

 結局僕がハミィを無理矢理引きずるようにして家に戻ったんだ。ハミィも僕も、足取りはこれ以上ないほどに重かった。

 何かとんでもない忘れ物をしているようなそんな不安感だ。

 家に戻ると、父と母も心配しはじめた。僕はすでに気が気じゃなかった。僕は昼過ぎにもう一度ハミィを連れて外へ出てみたが、やはり結果は同じ。

 ハミィも責任を感じているのだろう。しきりに悲しげな声で鳴いていた。


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