包まれた杖(4)

 ランチには、母がタルタルソースで、フィッシュフライサンドイッチを作っておいてくれた。出かける前に僕の部屋をのぞいてうれしそうにそう言った。レタス、トマトがいつもたっぷり。フィッシュサンドイッチのときは、僕は柔らかめのロールパンが好きなんだけど、今日は朝のライ麦ハーブブレッドかもしれないな。

 引き出しから触読式腕時計を出して指で触れると、まだ十時にもなっていなかった。結局オリバーは材料がないからといって、確認して怪しい杖と麻袋に詰まった小石を見つけただけですぐ帰ってしまったからまだランチには早い。

 サンドイッチは、もしジャンのところに行くならと言って二人分。いつもはお皿に載せてあるけど、今日はランチボックスに詰めてある。小さなサラダも添えて。

「私も夕方までには帰ってくるから、そのころには帰ってきてね。そして、できたらジャンを招待すること!」と、母は出掛ける間際まで確認を怠らなかった。

「なぁ、ハミィ、おまえならどうする?」

 僕はハミィを撫ぜながら聞いてみる。こいつはわかっているのかいないのか、僕の首筋を舐めた。

「そうだなぁ。まだ早いし、ジャンのところに行こう。サンドイッチは忘れたことにすればいい」

 僕は腕時計をはめて、引き出しから青の革財布を取り出すとポケットに仕舞った。

 サラはどうしているだろう。

 昨日訪れたサラのアパートでの出来事がもうずっと昔のことのようにさえ思えた。サラを一人にしておきたくない――僕はそう思った。

 悩んだけど、天井から見つかった杖と麻袋を持って僕は外へ出た。ジャンに見せようと思ったんだ。ハミィがリードを波打たせるように喜んで引っ張る。外にオリバーはいない。もう出かけたんだろう。

 やはり麻袋からは記憶のある香りが漂ってくる。もしかしてジャンならこれが何か知ってるかもしれない。僕はいつもの折りたたみの白杖を左右に振りながら、もうひとつの古めかしい杖を小脇に抱えて歩き出した。

 なぜか、風のない日だった。

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