包まれた杖(3)
「やあ! トビー! 今日も元気か?」
父と母が出ていってすぐに、オリバーが豪快な足音を立てながら玄関からやってくる。彼が妙にあちこちにぶつかったり物を落としたりするのでなんだか可笑しかった。身振り手振りが大きいのがよくわかる。
階段を上りながら、オリバーの工具箱と担いだ脚立が派手な音を立てた。――もう十分大人になった今でこの注意力なんだ、さぞかし散漫だらけな少年時代だったに違いないよ。
少年時代のオリバーを想像してみると、彼と親友だったっていう父がやんちゃだったってのもなんだか信ぴょう性が出てきて、彼の後ろについて自分の部屋に入った僕は笑いを堪えていた。
「この部屋、そうかあ、今はおまえさんの部屋になったんだな! その昔はエドとここでよく悪さをしたもんだ!」
オリバーは作業をしながらも、ずっと楽しそうに喋り続けていた。
「しかし、随分と巣くったもんだなあ……、ん? なんだ、何かあるぞ……?」
広げた脚立からオリバーが降りてくる。
「あー、ちょっとここ、広げていいか?」
よくわからないけど、僕が「いいよ」と返事をするとオリバーはベッドの上で何かしはじめた。
「どうしたの?」
「んあ? なんかな、出てきたんだ――古臭い布地に大事そうに包まれてる。まさか動物の死骸ってわけでもないだろうしな! だがなぁ? なんだろう――青春真っ盛りのエドが隠した大事なモノだったりしてな⁉ ……しかし、御大層なことに何重にも包まれてるなあ、ボロボロだぞ? お、出てきた……なんじゃ、こりゃ?」
「触ってもいい?」
僕がベッドに近づいてひざまずき手を伸ばすと、ハミィもシーツの上に飛び乗って匂いを嗅ぎはじめた。手にハミィの鼻息と鼻水が付く。
「――杖?」
「杖? かなあ? それとなんか小さな麻袋に入った草とか枝と白い小石みたいなやつだな。ダイヤモンドってわけじゃないらしい。金目のモノでもなければ釣り餌にもならないし、エドさえ釣れないんじゃこりゃあ期待外れだったな! 脅しのネタでも出てくるかと思ったのによ!」
埃まみれというか、どれほど長い期間天井裏にあったのかわからないけど、表面をシーツで拭いてみるとその杖のようなものはツルツルとしていてしっくりと手になじむような心地好さがあった。僕の白杖より少し短いくらいの棒で、上部には大きな取っ手のようなものが付いている。飾りなのか、ジャンの家にあったインディアンフルートの、鳥の形をしたリードにそっくりと言えばそっくりだった。
麻袋の中には、公園のボランティアが掃除で集めて捨てそうな葉っぱの屑や豆粒程度の小石が手の平ひとつ分くらい入っていた。
「この家には君のお爺さんよりももっとずっと昔から人が住んでるってことだし、理由を考えてみたところで俺たちにはわかりようもないさ! 羽アリの薬は今ちょっと切らしてるから今日明日にでも駆除して、崩れたところは補強して穴はパテで塞ぐからな。悪いが、ちょっと時間くれるか? 補強材料を仕入れに隣町まで出るから。ま、その杖はトビー、おまえが貰っとけよ、わりと恰好いいぞ?」
目には見えないけど、立派な木でできていそうなことは僕にもわかった。袋の中のものはよくわからない。でも微かに記憶のある埃っぽい匂いがした。
――なんだろう、どこかで嗅いだことがあるような……。
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