サットン・ロックス・ストリート187(6)

 部屋の真ん中で小さな塊が、僕の話に集中しているのがわかる。僕はさらに続けた。

「食事をしたり今日の反省をしたり、勉強をしたり眠ったりする。毎日するそんな『何か』って、揃いも揃って全部が、明日に続く『何か』だ。僕には今日やることが明日につながること自体が腹立たしかった。生きるために食べたって、明日も僕の目は見えやしない。点字を勉強したって、二度と普通の本は読めないし、道路の看板だって見えないんだ。車の運転だって一生できない。両親は僕を笑顔にしようと毎日頑張ってくる。それが無性に腹立たしかった。楽しいことなんてあるもんか。『外へ出なくちゃダメよ』って言われたって、『どうして?』って聞けば誰も納得のいく答えなんて持ってなかったよ。僕は自分が間違ってるなんて思わなかった。むしろ誰も答えられない質問をする僕の考えこそが、正しいって僕は確信してた。光を失った僕に明日なんてない。僕にはもう何も見えないんだから」

 僕は無我夢中で話しながら、泣きそうになっていた。言葉はすでに、自分のものではない気がしていた。自分でも理解していなかった僕の事実から、隠されていた僕の真実を、誰かが乗り移って整理して、そこに見せてくれているような気さえした。

 僕の頭の中に、最後に見た母の足とアメージンググレースの歌がよみがえってきていた。闇夜にアリの巣のように張ったたくさんの光。あの荒れ狂った自然現象が、僕から光を奪ったあの日。

「サラのお父さん、あなたは目が見えている。僕には見えないものが今も見える。でもあなたもかけがえのない光を失ったんだね。今あなたは盲目だ。きっとサラに見えているものがあなたには今見えていない。最愛の奥さんを失った悲しみは、確かに僕が失った光とは比べ物にならないほど大きいと思う。失った光を求め続けて、苦しんでいるのが僕にはわかるよ。だけど、あなたにはサラもいる。同じく大切な光をなくしたあなたの娘だ。サラはまだあなたを見ている。あなたはサラを見ていると言える? サラの悲しみより自分の苦しみのが大きいって思う? 母親を失って悲しんでいるサラから、あなたは父親という存在をも奪おうとしているのではないのかな。サラを見て。自分の手元にまだある残った大切なものを見るんだ。目を逸らして、開いた穴ばかり覗き込んでいてはその中に取り込まれてしまうよ。あなたは光を失ったけれど、光を探すことができる目をまだ持っているはずだ。そしてその大切な光を照らすものはあなたでもあるんだよ」

 僕は言い終わると、力をすべて持っていかれたみたいに疲れていた。座り込みたい衝動に駆られたけれど、見えない僕にはどうしようもなくて、なんとかその場に立っていた。 

 ハミィが僕の左足に触れて、鼻を鳴らす。誰も何も言わなかった。

 小さな塊――サラの父親も黙っている。震えはもう感じない。僕の言葉は届いたんだろうか? 状況が見えなくて僕はとても不安になった。

「帰ってくれ……」

 サラの父親が小さく呟いた。

 届かなかったのか? 頭をよぎる。でも、以前のようにサラの父親から怒りの感情を感じない。まだ残る悲しみも、部屋に入ったときとは違う青みがかったグレーのようなものに感じられた。僕の肩に手が置かれて、ジャンの声がゆっくりと響いた。

「もう充分だ。おまえの言葉は彼に届いたよ」

 その言葉で緊張の糸が切れた僕は、その場に力なく座り込んだ。

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