七歩先のビッグベン(3)

 ジャンの家にその日も順調にたどり着いた。

 ハミィは、ジャンの家に来ることがまるで一番の任務みたいに、到着すると決まって自慢げに大きく鳴いて一気に走り出していた。

「よお! 相棒、今日も来たな」

 今日もジャンは外でギターを弾いていて、僕たちを見つけると低い声で笑って僕を中へと導いた。

 ハミィはジャンの家を自分の別宅とでも思っているのか、ここに来ると気ままな行動を見せる。僕がジャンの家の玄関を入るのをガイドする役割を一度も果たしてない。まあ、ハミィが楽しそうだからいいけど。

 僕は三段の階段を一人で上る。チャランチャランというウィンドチャイムの玄関ドアに手をかけて中に入り、僕はジャンに母に渡されたでかいランチボックスをジャンに渡しながら聞いた。忘れないうちに聞いておこうと思ったんだ。

「ねえ、ジャン、そういえばこの辺りに教会がある?」

「教会?」

 しばらくの沈黙が流れて、ほどなくキンカンキンーキンカンキンーと柔らかい鐘の音が響いた。

 あ! これだ! 僕はそう思った。

「もしかしてこれか」

 ジャンがさっきより少し遠いところから僕に声を掛けた。

「ああ! そうだよ、でもなんで……」

 僕は混乱した。確かに教会の鐘が部屋の中で響いている。でも鐘の音にしてはあまりに小さすぎる音だ。

「こっちに来てみろ」

 ジャンは再び僕に近寄ると、僕の手を引いて部屋の奥へと誘導した。

 頭の上に気を付けるように言う。右手を上にあげると、手が何か冷たいものに当たって、カラカラカラーンと澄んだ音が鳴った。

 天井からだろうか、ウィンドチャイムがたくさん吊り下げられているみたいだ。

「これ、触ってもいい?」

「ああ」

 僕はジャンの手を離して、今触れたチャイムを手で触ってみた。

 長さの違う六本の金属製の棒が、一固まりになって細い紐で上部から吊り下げられている。いくつもあって、いったい全部で何本ぶら下がっているのか僕にはとてもわからない。

 そのうちのひとつを触ってみると、チャランチャランと綺麗な音がした。六本の棒の中心に、丸く平たい木でできた重りのようなものがぶら下がっている。その先にはさらに振り子のような薄っぺらい木の板が付いていた。それぞれがぶつかり合って、複雑な音を醸している。

 金属の棒の先を指で確認すると、中が空洞になっていることがわかった。筒になっている。これがぶつかり合って、音が鳴っているらしい。

 すごく澄んでいて美しい音だ。心が洗われる気がする。

 初日から感じていたことだけれど、僕はここでたくさんの音を聴いた。それまでチャイムなんて単純なものだと思っていた僕は、興味が湧いてきてジャンに聞いた。

 もしかしたらジャンは、音とか音楽にとても詳しいのかもしれない。

「ジャン、どうしてこんなに違う音が出るの」

「あと七歩そのまま進め」

 ジャンは僕の質問には答えずにそう言った。

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